私は建設現場の監督で恥をかきました(2)

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(続き)
私は自転車に乗って最初の現場に向かった。
路上設置式のフェンスの向こうは、まさしく工事の最盛期だった。足場が整然と組まれ、その上で数人の労働者が打ち合わせをしていた。現場事務所へ向かおうとしたところ・・・、あせった。現場事務所が無いのである。そのビルの周りを何度も回った。でも、事務所が見当たらない。そこで、工事現場のガードマンさんに声をかけた。
「あのー、事務所はどこですか。」
作業服の胸の「労働省」のエンブレムに気づかれないとヒヤヒヤした。それをポケットの返しで隠すようにしていた。
先輩の言葉が頭に浮かんだ。

「臨検監督は抜き打ち。相手に現場を繕う時間を与えてはいけない。例えば足場上での安全帯の使用の有無なんていう法違反は、 現行犯でなきゃ是正勧告書は交付できない。こっちが来ることがわかりゃ、普段使っていなくても、すぐに安全帯を使用する」

だから、現場事務所を訪問するまでは、ガードマンであっても、正体が分かるのは好ましくまい。
(もっとも、あれから30年たってみて、つくづく思うが、工事現場の周辺をウロウロするたよりなさそうな不審者の正体にプロのガードマンさんが気づかないはずはない。)

ガードマンさんは、工事現場の隣のアパートを指し、「あそこの2階だよ」と教えてくれた。そして「用があるなら呼んでくるが」とも親切に言ってくれたが、それを丁重にお断りした。(携帯電話のない時代の話である)
私は、その日まで工事現場の中に必ず工事事務所が設置されていると思っていた。それまでに先輩や上司と監督にいった、地下鉄工事も高速道路工事も大規模マンション工事でも工事事務所は工事敷地内にあった。私は、現場事務所が通常どこに設置されているのか、そんなことも知らない素人だった。
(続く)