労働災害が起きました(17)

%e5%a4%a7%e6%9c%88%e5%b8%82%e3%83%bb%e7%8c%bf%e6%a9%8b (M氏寄贈、大月市・猿橋)

私はこの若者をどうやって元気づけようかと迷った。
「事故じたいは運がなかったんだよ。こんなこと滅多にないよ。」
「会社も社長さんもいい人じゃないか。事故が起きたからといって、こんなに従業員のことを心配する会社はないよ」
「君は夢をもって就職したんだろ。海洋開発なんて、素晴らしい仕事だよ。うらやましいな。君は夢に向かって努力して、一生懸命勉強して、潜水士の資格も高校生の時に取得したんだろ。これは、凄いことだよ。」
「君がしっかりしないと、お母さんを益々悲しませるぞ。」
・・・・
どんな、慰めも励ましも彼には通じないような気がした。

私は話題を変え、災害発生状況の件について尋ねようとした。ベッドの上の簡易テーブルの上に実況見分時に撮影した写真を広げ、質問しようとしたが、彼はそれを嫌がった。
「そんなものしまって下さい。見たくありません。事故のことは思いだくありません。」
私は、自分の無神経さ恥じ、彼に詫びた。そして、写真を片付け始めるたところで、彼が1枚の写真を眺めていることに気づいた。
それは、新監が実況見分時に起点を指してる写真であった。

私は、もしかしたら、その写真から話のきっかけが作れるかもしれないと期待した。
「それ、うちの新人だけど、こちらの写真の方が大きく映っているよ。」
私は、新監が撮影されているもう1枚の写真を示した。新監は、借り物の大きすぎる作業服と安全靴、使い古したヘルメットを被り、いかにも現場に似合わない姿に映っていた。
「かわいいだろ。君のことを心配してたぞ。」
彼は、疑わしそうに言った。
「本当ですか。」
私は、説明した。
「彼女は君と同じなんだよ。君と同じ日に社会人になった。君が同期だから、今回の事故の件は、他人事に思えないそうだ。」
さらに、私は続けた。
「本当は今日一緒に来るはずだったんだが、どうしても抜けられない研修があって来れなかった。君が早く職場復帰できるか、とても気にしていたよ。」
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