最低賃金、時給「1198円」

(タンポポと八ヶ岳、by T.M)

東京都の最低賃金は「958円」ですが、ダブルワークをした場合は「1198円」となります。

と言っても何のことは分からない人も多いと思います。労働基準法第38条には次のように規定されているということです。

「労働基準法第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」

つまり、主婦の方が、朝8時から午後1時まで(5時間労働)、近所のパン屋さんで、最低賃金でパートタイムをしたとします。その方が、同じ賃金条件で、パン屋さんの仕事の後にクリーニング屋さんで、午後2時から午後7時まで(5時間労働)で働いたとします。この主婦の労働時間は1日10時間となり、1日の法定労働時間8時間を2時間オーバーするので、クリーニング屋さんは、残業時間の割増賃金2割5分を支払わなければならないのです。つまり、最後の2時間の最低賃金は「958円」でなく、「1198円」となります。

(注) 残業代を支払うべきは、後から労働契約を交わした事業主です( by 厚生労働省労働基準局長編「労働基準法コンメンタール」 )

因みに、私が現役の労働基準監督官をしていた時には、この条文を無視していました。だって、非現実的じゃないですか。2件目のパートタイム先にいって、「割増賃金支払え」って言えますか。この条文が一般的に知れ渡ると、現在「割増賃金」をもらっていない労働者が監督署の窓口に殺到する怖れがあります。それはとても解決困難な事案が多いと思います。

さて、「働き方改革」の話です。平成29年3月28日 働き方改革実現会議で決定した「働き方改革実行計画 (概要)」には、次のような記載があります。

「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、 第2の人生の準備として有効。これまでの裁判例や学説の議論を参考に、就業規則等において本業への 労務提供や事業運営、会社の信用・ 評価に支障が生じる場合等以外は合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化。」

「労働基準法第38条」の法遵守の状況を無視して、こんなに簡単に副業を推奨してしまっていいのかと思います。また、「残業代」の件でなく、ダブルワークの労働者の過労死防止対策をどうするのかの問題もあります。何か、こういう話は後回し何ですよね。

もっとも、「働き方改革実行計画 (概要)」には、次のような記載もあります。

「(副業や兼業)の普及が長時間労働を招いては本末転倒。労働時間管理をどうしていくかも整理することが必要。ガ イドラインの制定など実効性のある政策手段を講じて、普及を加速。」

国会で、今までどのような議論がなされたのでしょうか?