監督指導結果

( 五島美術館の茶室・東京都世田谷区、by T.M)

本日は、労働基準法について、ちょっとマニアックな記事を書きます。まずは、先日厚生労働省が発表した情報をご紹介します。

(厚生労働省発表文)

厚生労働省では、このたび、平成30年度に、長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した、監督指導の結果(※)を取りまとめましたので公表します。
  (略)
平成30年4月から平成31年3月までの監督指導結果のポイント】
 (1) 監督指導の実施事業場:29,097事業場
    このうち、20,244事業場(全体の69.6%)で労働基準関係法令違反あり。
 (2) 主な違反内容[(1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場]
  ① 違法な時間外労働があったもの:11,766事業場(40.4%)
    うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が
       月80時間を超えるもの:       7,857事業場(66.8%)
       うち、月100時間を超えるもの:   5,210事業場(44.3%)
       うち、月150時間を超えるもの:   1,158事業場( 9.8%)
       うち、月200時間を超えるもの:    219事業場( 1.9%)
  ② 賃金不払残業があったもの:1,874事業場(6.4%)
  ③ 過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:3,510事業場(12.1%)

この厚生労働省の発表について、まずは労働基準監督官OBとしてひと言感想を述べるなら、「私が現役の時は労働災害防止が主体で労働時間なんて、あまり指摘しなかったんだけど、この違反率は素晴らしいな」ということです。

でも、よくよくこの監督結果を眺めていると、私のように現場で監督指導をあたっていた者は違和感を覚えます。ここで公表されている違反について、本来あるべき違反がないのです。それは、「月45時間を超える残業時間」についての違反です。

そもそも、36協定(時間外・休日労働協定)の締結にあたっては、ひと月の残業時間の上限は「月45時間」が基本です。多くの36協定は、この限度枠を守って監督署に提出される訳です。ですから、違法残業の多くは月50時間とか月60時間くらいに留まります。「月45時間」で36協定を協定していて、「月80時間を超える残業時間」の違法行為をする事業場はほとんどないのです。
しかし、36協定では、「月45時間」の限度時間を超える協定をすることが可能です。それは、「特別条項」という条項を特に記載した36協定を作成し、監督署に届出ることです。この「特別条項付き36協定の上限」はいままで無限でした、それを今回の働き方改革では、「休日労働を含んで月平均80時間」までとしたのです。

さて、今回の厚生労働省の「監督指導結果」で「月45時間を超える残業時間」に関する違反事業場がない(あるいは発表しないほど少ない)という事実から推測できることは厚生労働省が言うところの「長時間労働が疑われる事業場」とは「特別条項付きの36協定」を監督署に届出ていた事業場であったという可能性が高いということです。

「特別条項付き36協定」を監督署の届出てくる事業場は、「自分たちの事業場の労働時間は長い」という自覚があり、かつ「法令をなんとか遵守したい」という思いがあり、そして「労働時間の把握が比較的なされている事業場」です。臨検監督すれば、年間1~2回の36協定の限度越えの事実がでてくるかもしれません。そこを指摘すれば、そもそも「特別条項の限度時間が多い事業場」なのですから、長時間労働が指摘できるのです。

本当に悪質な事業場とは、「36協定など作成しないで、労働者に残業をさせている事業場」であるとか、「労働時間をタイムカード等で記録していない事業場」です。このような事業場は、事業主に遵法意識が低い方が多く、低賃金で働く方も多数です。監督署がそのような事業場を今後どのように把握していくことができるのか。それを国民は期待していると思います。