通達大好き役人!

( 旧五十嵐歯科医院の治療室・旧東海道蒲原宿、by T.M)

こんな新聞記事を見つけました。

台風19号の影響で断水になった神奈川県山北町で、陸上自衛隊の給水車が災害派遣要請に備えて到着したものの、県が要請をしなかったため引き返していたことが16日、町や県などへの取材で分かった。関係機関の連携不足で、給水支援が生かされなかった形だ。今回の台風では1都11県から災害派遣要請が出ている。
 町などによると、町は13日未明に台風の被害で断水の恐れが出たため、陸自駒門駐屯地(静岡県御殿場市)に「給水支援を県を通じて要請するかもしれない」と連絡。県にも災害派遣を要請してほしいと伝えたが、県側は県企業庁の給水車を派遣することが可能で、要請の必要はないと判断した。
 一方、陸自は要請があった場合にすぐ対応できるよう、部隊長の判断で給水車(水約3トン)を自主的に派遣。町役場に午前8時ごろに到着したが、派遣要請がなかったため引き返した。現場に水を求めて待っていた住民もいたという。

まあ、神奈川県庁には、頭の固い人、あるいは現場の状況がまったく把握できない人が上にいらっしゃるんですね。水を待つ町民を前にしては何も言えないけど、お伺いをたててきた(要請してきた)山北町の職員には、電話ごしにふんぞり返って「規則だからダメダ」と言っている県庁職員の姿が目に浮かびます。
まあ、でも大事にならなくて良かったです。緊急の場合は、山北町長と自衛隊が決断し、後で責任を取るという方法もありますが、今回は結果オーライです。

私が、このような具体的な想像が、どうしてできるかというと、私が役所にいた現役時代に、それに似たようなことを何度も見聞してきたからです。
労働局にもいました。「通達」「通達」と念仏のように繰り返して、現場をみない方が。厚生労働省労働局の通達というのは、辞書の「広辞苑」くらい厚さの20巻程度のファイル形式の本にまとめられています。労働局監督課には、その通達集がありますが、専門業者が定期的にファイルの更新にきます(これは、本当の話です。少なくとも5年前まではそうでした)。

その通達ばかり読んでいて、仕事をしたつもりになって、現場では何も対処できない方がけっこういました。
というか、そういう人は自分が仕事をしない理由を通達に求めているようでした。そういう方が、局の上に行くと、現場のやる気を削ぐようなことばかり言いました。
「その司法処理は、通達に基づかないからやってはダメだ」「そんな申告、通達にもとづいて早く打切れ」「零細企業の労働条件確保は通達に基づいてやらなくていい。効率よく、件数が稼げて違反率が高い従業員50人以上の事業場を通達に基づいてやれ」

もちろん、通達等を無視した現場の暴走というのは絶対に駄目です。最悪の場合は、「通達」を無視した日本陸軍の暴走から始まった、戦前の日中戦争のようになってしまいます。また、「管理」の行き届かない「現場」というものは、必ずの腐敗します。

でも、「通達」バカになって、何も考えないような人間が局幹部になってしまうのも困ります。「通達」を理解しながら、「問題意識」を常に持ち、「通達」を現場に合わ、上手く使いこなせる役人が最高なのであり、少数ながら確かにそういう方は労働局内に存在しますが、大抵は「通達大好き人間」が局上層部になります。

なぜって?彼らは、組織の中では「無能」であっても「失敗」しませんし、地方労働局というのは、本省のように創造性を必要としないからです。
何かしようとして、創意工夫が必要なのは、「現場」か「トップの意思決定部門」であり、その間の部署は「通達大好き人間」が埋めるのです。だから、いつも現場はピンチです。