働き方改革について(6)

(石垣山一夜城から眺める小田原市街、by T.M)

また、「教師の労働時間」については次回へ回します。

今日は、現在問題となっている、東京労働局長の発言について思うことを書きます。

先日、私の友人の現職の労働基準監督官と夕飯を一緒に食べました。その時に、彼はこの東京労働基準局長の発言に怒っていました。「厚生労働省の幹部がどれだけ、第一線の監督官を馬鹿にしているのがよく分かった。」と述べていました。

監督官は役人ですから、上がやれと言えば、機械的にどこでも臨検監督をします。しかし、心の片隅では、自分たちの仕事が、どこかで世の中の役に立っていると思いたいのです(ほとんど職業人がそうでしょうが・・・)。もちろん、この気持ちをどのくらい持つかは、個人差があります(志がない者は、どこの組織にもいるでしょう)。

大多数の監督官は、理想として自分たちの仕事に誇りを持ちつつ、現実として上に忖度しながら仕事を進めているのです。今回の局長の発言は、「現場の監督官はオレの一声でどうでもいうことを聞くんだぞ。」というように、現場の監督官は理解します。「マスコミの実情は過重労働だ。そこで働く労働者のために臨検監督が必要だ。」という建前なく、上が「何か会社のアラを探して是正勧告してこい」という主旨の発言をすれば、下は反発するのは当然でしょう。

今回の局長の発言については、私も少し考えることがあります。局長の会見時に、なぜ記者たちは、局長の味方をしなかったのでしょうか。マスコミ各社が、もし悪質な労働基準違反をしていて、そこの労働者である記者たちが日夜苦しんでいるとしたら、「君たちの会社に是正勧告する」という言葉は、拍手をもって迎えられてもいいはずです。それがなぜ非難される記事となってしまったのか? それは、この発言から「職業というものに対する敬意」というものを感じられなかったからだと思います。

もっとも、記者会見中ですから、記者側からも、発表する側へのリスペクトなく、局長が苛立っていたというようにも考えられます。マスコミの無礼さについては、私も経験あることです。しかし、仮に「挑発に乗ってしまった」としても、不適切発言だと思われても仕方がないことでしょう。 

「職業への敬意(リスペクト)」について、次回書きます。

(「教師の労働時間」の話が、どんどん遠くなります)

 

働き方改革について(5)

(小田原紹太寺のしだれ桜、by T.M)

「教師の労働」について、書こうと思ったら、別のニュースが飛び込んで来たんで、そちらを書きます。

野村不動産の裁量労働時間制の話です。昨年末に、同社がこの制度を悪用し、本来同制度を適用できない労働者を残業代なしで使用していた問題について、特別指導をしたという発表が東京労働局からなされました。

それについて、今年の3月に、違法な時間制度を適用された労働者が自殺し、過労死認定されたという新聞記事がでました。しかし、厚労省は過労死があったかどうかを、個人情報保護を理由に述べていないそうです。

この話の流れについて、次のような憶測がネット上に飛び回っています。

・・・ 厚生労働省は昨年末に、裁量労働制の違法に適用していた企業を発表したのは、「働き方改革法案」を国会通過させるためだ。きちんと違法な裁量労働制は取り締まっているということをアピールしたかったのだ。ところが、それで過労死が出たという事実は隠している。裁量労働制適用の労働者が過労死したという事実は政府にとって都合が悪いからだ。 ・・・

この「憶測」について、私は情報が少なくて、適切であるかどうかは判断できません。

しかし、「憶測の一部」に誤解があるなと思うところがあります。「過労死の事実を厚労省が隠している」という箇所です。そもそも、労働基準監督署は、昔から「労災認定の有無」を一切公表していないのです。これは、今度に限ってではなく、昔からです。

・・・ ある労働者が「長時間労働によるメンタル不調」を理由に労災申請をしたとします。監督署は会社を調査し、労災申請が認定か不認定かを決定しますが、「個人情報」を理由として、その処分結果を会社には伝えないのです ・・・

調査を受けた会社の中には、「調査に全面的に協力したのに、大事なことを教えないのか」怒るところも少なくはありません。

実は、この件については、監督署の中でも、労災担当職員と私のような監督官は対立するのです。私はいつも次のような主張を労災課職員に訴えました。

「労災の認定・不認定を会社に伝えないのはおかしい。労災認定をしたということは、その会社で労働災害が発生したということだ。労働災害が発生したことを、会社が確認できなければ、会社は再発防止対策ができないでないか。会社による『労災かくし』を厳しく糾弾する監督署が、労災発生を会社に通知しないことは、そもそも矛盾だ。」

今回の野村不動産の「過労死に関する新聞記事」について、厚労省はなぜ発表できないのか、もっと丁寧に説明すべきでしょう。

「個人情報」を盾に、「労働災害があったかどうかを発表できない」という論理を、(勉強不足のためと思いますが)元労働基準監督官である私でさえ理解できないのですから、外部の方はもっと理解できないと思います。

 

働き方改革について(4)

(逗子の海、by T.M)

私が労働基準監督官をしていた時に、色々な事業場に法違反を是正するように指導してきました。しかし、その中には絶対にこれは是正できないだろうなと思っていた法違反もあります。そのうちのひとつが「教師」に関する労働時間についてです。

(注:私がこれから書くケースは全て「私立学校」に関することです。「公立学校の教師」については労働基準法の適用はありません。それから、これもまた問題なのですが、「私立学校」が「公立学校」の労働条件に準じて「就業規則」を定めている所も多く、その場合は全てのケースで労働基準法違反が発生していました。つまり「公立学校」の教師の「残業代⦅のようなもの⦆」は一律定額支給で、私立学校でその制度を取り入れると、残業代不払の法違反が発生するのです) 

教師の労働時間については、昔から様々な問題点が指摘されてきました。例えば、「部活」の問題です。 

「教師が日曜日に、生徒の部活の試合に引率に行って、途中で交通事故にあって被災し休業した」  これが労災であるかどうか。以前から議論になってきたところです。 

それが重大な事故であればあるほど、学校関係者は「人情」として労災として欲しいと思います。しかし、これが「労災」であるなら、労働基準監督署は「日曜日のクラブ活動」を残業扱いしてきたかどうかを尋ねてきます。残業扱いしていなければ、当然是正勧告ということになり、いままでの残業手当未払い分を遡及支払いということになります。

実は、慣例としてこのようなケースで学校は「残業代」を出しません。まさしく「公立準拠」をしているのです。 

まあ、それでも「部活」の場合は、何とかしようと思えば、法遵守はできます。学校側が「部活動」を時間外労働と認め、残業代を支払うようにすれば良いだけです。 

労働基準法を絶対に守れない学校行事とは、実は「修学旅行」なのです。

 

働き方改革について(3)

(写真、by T.M)

第2次安倍内閣が始まって以来、労働行政は生き生きとしているような気がします。「働き方改革」というものは、一種の革命のようなものでしょう。労働行政は官邸から、その先兵を仰せつかり、すっかりその気になっています。

また、労働行政は、多分今が過渡期なのでしょう。例えば、神奈川労働局ですが、組織の中の労働基準監督官の人員構成は歪な形であり、平成28年から平成33年の6年間に、全体の約4分の1が退職してしまいます。もちろん、再雇用や新人の補充ということで組織は維持されますが、署長等の幹部職員が一新され、「働き方改革」に合わせた組織変更がなされますので、5年後は現在とはまったく違った組織になっていることが予想されます。

この新しい組織で、世の中に対し色々なアプローチをしていくことと思いますが、その手法が少し荒っぽいかなと最近思うようになりました。

長時間労働の「摘発」ばかりで、次世代の新たな「労働の姿」というものを、行政は果たして思い描いているのでしょうか。もちろん、労働行政の目的とは、「法遵守」を企業に促すもので、その後のことは企業自体が責任をもって変わっていくことであるという考えはありだと思います。しかし、それはある意味、「無責任」と言われても仕方ないような気がします。

先日、宅配業界最大手の「ヤマト運輸」が非正規職員5000人を正規雇用することを発表しました。これは嬉しいニュースです。そして「ヤマト運輸」を次世代の労働形態に目を向けさせたきっかけのひとつは、監督署が指導した例の残業代不払の事件であったと思いますし、それを摘発した監督官とその指導に対し真摯に対応した企業に敬意を表したいと思います。

そのような成果はあるのですが、これはいかになんでも無理筋だよ。是正勧告書ひとつでかわるはずがないと思われる「摘発」もあります。それをこれから何回かに分け書こうと思います。

まずは「教師の労働時間」についてです。

(続く)

 

今週はブログ更新を休みます

来週私が講師を勤める「職長教育」と「安全管理者選任時研修」の資料作りに忙殺されてます。

資料(データ)を自宅へメールで送付し、自宅で原稿とパワーポイントにまとめ、メールで送り返す「メール残業」してます。ちなみに、私は管理職扱いで、「××手当」というのが、本給の○○パーセント付くので、残業代はでません。

来週、少し余裕ができますので、「働き方改革」について書きます。