普通の日記(29年9月8日)

(野反湖の花part3,by T.M)

(前回の続き) 

労働大臣告示「自動車運転者の労働 時間等の 改善のための基準」(改善基準告示)は、「労働時間」の代わりに、「拘束時間」(労働時間プラス休憩時間)という概念でトラック運転手の時間管理をしています。これは、長距離トラックの運転手等が、業務のために会社をでてしまうと、一人作業のため、労働時間と休憩時間の区別を使用者が管理しにくいために、適正な労働時間管理が行えるようにと導入された手法です。 

因みに、運転時間等についてはタコメータで管理できるため、「運転時間は2日平均で1日最大9時間まで、連続運転時間は4時間まで」と規制されています。「手待ち時間」や「積込み時間」は、拘束時間に含まれます。ひと月の拘束時間293時間として36協定を締結すると。月の労働日数を22日とすると、休憩時間22時間分(1日1時間の休憩)を除いた271時間を総労働時間とすることが可能で、これは、きちんと週休2日を確保した時に、毎日12~13時間労働が可能ということになるのです。残業時間は90時間近くになります。 

私の個人的意見を申し上げます。この改善基準の告示を一部の自動車運転者には適用させないようにして欲しいと思います。その運転者とは「宅急便の配達員」です。

労働省が「拘束時間」の概念を基に自動車運転者の労働時間を規制し始めたのは、昭和42年の労働基準局長通達(いわゆる「2.9通達」)からです。当時は、「宅急便」という業種がなく、郵便小包が主流でした。

私は、何日も自宅に帰れない長距離トラックの運転手に「拘束時間」の手法が適用されるのは、ある程度合理性のあることだと思います。しかし、現在では、日々自宅に帰宅する「宅急便の配達員」にまで、この基準が適用されています。つまり、宅急便の配達員は、法制度上月90時間まで残業が可能であるという訳です。宅急便の配達員こそ、法で「上限ひと月45時間の残業時間」を厳守すべきではないでしょうか。

 

普通の日記(29年9月5日)

(野反湖の花part2、by T.M

(前々回のブログ記事「トラック会社の長時間労働」の続きです。) 

昨日、愛知労働局が違法な長時間労働を行っていた事業場として、T運送会社を実名発表をしました。運送会社の労働時間に問題があることは事実です。 

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、平成22年の業種別労働時間数で、最も労働時間の長かった業種は「運輸業」で、年間の総労働時間の平均が2094時間でした。因みに第2位は「建設業」の2048時間です。「医師・看護師等福祉関係」「教師」「IT技術者」等個別に見ていけば労働時間の長い職種は存在するでしょうが、運送業の運転手は総じて労働時間が長いのです。 

これは、「業界の事情」と言ってしまえば、それまでですが、法制度も一因となっているようです。今回政府が国会に提出しようとしている、労働基準法の改正案によると、一般産業では、「残業が原則ひと月45時間、最大で100時間まで」となるそうです。しかし、「自動車運転者」については、その規制は適用とならず、現状のままで「残業がひと月95時間前後、最大130時間前後まで可能」ということになりそうです。 

某運送業の業界団体が、会員の運送会社の指導用に作成・公表しているモデル36協定では、「ひと月の残業時間は100時間まで」と記載されています。

これは、自動車運転者には、労働大臣告示「自動車運転者の労働 時間等の. 改善のための基準」(改善基準告示)が適用されるからです(厚生労働省の労働行政部門が、まだ労働省だった時に作成されたもの)。 

その告示によると、自動車運転手の拘束時間(労働時間プラス休憩時間)は、「原則ひと月293時間」「最長320時間」までとなっていて、それを労働時間に換算すると、先の残業時間の数字となるのです。

(続く)

 

気になる報道

(野反湖に咲く花part1,by T.M)

時々、新聞記事を読んでいると、訳の分からない記事を見つけます。前回のブログ記事の続きで、「トラック会社の不法行為」のことを書こうかと思ったけど、次のような記事を見つけたので、それについて書きます。

「気になる報道」という、新しいカテを作ることにしました。

その記事とは、次のようなものです。

「もう動けん」自殺の娘、眼鏡に涙の跡 嘱託職員の遺族

8/30(水) 12:35配信  朝日新聞デジタル 

 在職中にうつ病を発症し、27歳で自ら命を絶った北九州市元嘱託職員の両親が29日、うつ病は業務が原因と考えられ、公務災害(労災)にあたるとして遺族への補償などを市に求める訴えを福岡地裁に起こした。常勤職員なら認められる労災補償の請求権を非常勤には認めていない同市の条例により、違法に請求を阻まれたと主張している。

 「娘は非常勤職員であったがゆえに、労災請求を受け付けてもらえなかった。非常勤の方が苦しむことのないよう、労災補償の制度を改善してください」

 提訴後、記者会見に臨んだ森下佳奈さんの母親、眞由美さん(55)はそう声を絞り出し、「娘も『自分の死を無駄にしないで。同じような人がいたら助けてあげて』と思っているような気がする」とつぶやいた。

この日は佳奈さんの30回目の誕生日。佳奈さんの遺品だという眼鏡をかけ、「レンズを替えるとき、涙の跡があった。娘が『生きたかった』と訴えていると思った」と振り返った。

 佳奈さんは大学と大学院で心理学を学び、「障害のある子どもたちの力になりたい」と志して北九州市の嘱託職員になった。5年前の就職当初、「私は一生、この大好きな北九州に住むよ」と語っていた笑顔を今でも思い出すという。

 しかし数カ月たつと、離れて暮らす両親のもとに届くメールや電話は次第に苦しげな内容が増えた。業務の進め方をめぐって連日のように上司から叱責されたり問い詰められたりしたとし、「一日中おなかがキリキリ」「仕事行きたくない。泣きそう」「もう動けん」などと訴えていた。

 一方で佳奈さんは「つらいけど逃げない。相談者のために一生懸命頑張るよ」とも話し、両親は心配しつつも見守った。だが、その後うつ病と診断された。

 眞由美さんは「もっと早く娘を休ませていれば。後悔してもしきれない。娘のような犠牲者が二度と出ないよう願います」。

 一方、北九州市は朝日新聞の取材に、上司のパワハラなどを否定している。(阪本輝昭)

この記事の何が疑問かというと、記者が「制度をまったく理解していない」と思えるところです。記者が制度を理解していないことは仕方がないとしても、遺族の方から依頼を受けている弁護士は、制度を分かっていて訴えを起こしたのでしょうか。

公務員の労災補償には、2種類あります。公務災害として地方公共団体が認定するか、労働基準監督署長が認定するかどうかです。必ず、どちらかの方法で労災申請ができます。

この記事のケースでは、「市役所が公務災害の認定申請を受理しない」のだから、「労働基準監督署に労災申請をすればよい」だけの話です。

精神疾患の労災として労働基準監督署長が認定するかどうかは別問題として、このケースなら監督署は申請を受理し、調査し、職務と病気の因果関係を認めれば補償します。

もし、労災が不認定であり、その結論に疑問があるならば、労働基準監督署長相手に審査請求なり、裁判なりをすれば良いのです。

その調査過程で被災者の勤務状況も明らかになるでしょうし、遺族の方の救済の可能性もでてきます。

また、再発防止策を労働基準監督署から指導することも可能となります。

「公務災害として申請できない労働者」として市が認めていることは、「同労働者については、労働基準法が適用となり、労働基準監督官が権限行使できる」ということだからです。

それを、どうして「公務災害の申請を認めないから、市役所相手に裁判をする」ということになるのでしょうか。

遺族の方は、制度が分かった上で「労働基準監督署への認定申請」よりも「公務災害の申請を認めない市役所を訴える」ことを選択したのでしょうか。

遺族の方の救済のために、遺族の方から依頼を受けている弁護士は、今一度、この件についての方針を確認した方が良いと思います。

普通の日記(29年8月29日

(函南町のヤギ、by T.M)

徳島県で発生した、停車していたマイクロバスにトラックが追突し、乗車していた高校生を含む複数の死者を出した災害について、災害原因がトラック運転手の長時間労働による居眠り運転の可能性もあるとして、労働基準監督署が調査に乗り出すそうです。 

今回の事故原因がはたして長時間労働であるかどうかは、監督署の調査を待たないと分かりません。ただ、トラック運送会社に、長時間労働で問題のある会社が多いことも事実です。 

私が東北のI市に赴任していた時の話です。I市は遠洋漁業の基地として栄えていました。そこの地場のトラック会社の運転手の数名が覚せい剤使用で警察署に逮捕されました。サンマの水揚げの季節になると、築地の魚市場に、誰が早くサンマを届けるかで、水産会社を巻き込んだ競争が行われていたそうです。そこで、トラック運転手が酷使され、眠気ざましのために覚せい剤を使わざるえない状況であったと聞きました。

その会社のタコメータを確認して、私も驚いたのですが、休憩時間はなくタコメータ2枚(48時間分)にわたり継続して運転していました。運転時間の記録がタコメータの周辺を円を描くように記録するので、私たちはこれを「黒いヒマワリ」と呼んでいました。 

「ブラック企業」であるかどうかのポイントのひとつは、社会保険にきちんと加入しているかどうかです。非正規雇用を理由に、社会保険加入を拒む会社は、現在でも見受けられます。しかし、どう考えても、毎日労働している労働者について、堂々と社会保険未加入をしている会社はトラック会社が多かったと記憶しています。

                            (続く)

 

普通の日記(29年8月25日)

(乙女高原に咲く花part4、by T.M)

沖縄労働局が、残業代未払いの事業場の社長及び店長を逮捕したそうです。労働局が残業代不払で逮捕したのは、平成になってからは初めてだそうです。確かに、私も「逮捕」ということは、あまり聞いたことがありません。 

世間的には、「被疑者が悪質だから逮捕される」というように思われているようですが、それは誤解です。犯罪行為において、被疑者が悪質であるかどうかを決定する権限を持つのは裁判官のみです。そして、犯罪行為の刑罰とは「罰金」「拘留」「禁錮」「懲役」「死刑」だけです。 

「犯人が悪質だから逮捕」ということになると、逮捕を行う警察機関が「悪質であるかどうかを判断し」、そして処罰するということになります。裁判を行わずに行政機関がこのようなことを自由できる社会は、それこそ究極の強権国家ということになってしまいます。

労働基準監督署を含む警察機関の司法処分の役割とは、「証拠物、証言を収集し、犯罪事実を特定し、裁判所に起訴権限を持つ検察庁に書類送検すること」です。 

「逮捕」「強制捜査」とは、この一連の司法手続きの流れの中で、障害がある場合のみ、裁判所の許可を得て、警察機関が行うことができる行為です。つまり、被疑者が「逃亡の恐れがなく」「証拠隠滅の恐れがない」場合は逮捕等はできないのです。 

さて、今回の沖縄局の逮捕についてですが、労働局ではその詳細及び逮捕理由を公表していないようです。ただ、「2年間で残業代約500万円不払」「度重なる指導にも従わず」ということです。

ブラック企業だからと言って逮捕される訳ではありません。しかし、逮捕されるような企業は、「証拠隠滅等の恐れがあると判断された企業である」ということも、また事実です。