大阪労働局の不正

(奥の細道の松尾芭蕉と門人曾良の銅像・栃木県大田原市黒羽、by T.M)

大阪労働局、最低賃金の調査で不正 職員が回答水増し

朝日新聞 20198270530

大阪労働局は26日、最低賃金を決める参考に使う統計調査に不正があったと発表した。零細企業の賃金水準を把握するもので、回答数が足りなかったため少なくとも5年間、担当職員が調査票を水増ししていたという。同日付で職員を停職1カ月の懲戒処分にした。

 この統計は「最低賃金に関する基礎調査」。中小零細企業の毎年6月時点の従業員数や時給などを調べている。労働局によると、資料が残る2014~18年の5年間で、1527件が企業の調査票そのものを捏造(ねつぞう)し、従業員数を書き換えるなどしていた。対象企業の約6%で不正があったとみられるという。

 今年の最低賃金の決定にあたり、過去の調査票に不自然な点があると担当部署が気づいて発覚した。労働局は、不正をした職員を懲戒処分とし、職員の指示を受けて不正に携わった部下を戒告、当時の上司2人を訓告処分にした。

 厚生労働省が実施する労働関連の統計をめぐっては近年、重大な不正が相次いでいる。今回、労働局は記者会見を開かず、処分対象者の性別や年齢も明らかにしなかった。大阪労働局は「最低賃金は様々な要素を考慮して総合的に決めている。今回の不正は引き上げ額には影響していない」としている。

今週は「京浜急行の事故」について、労働安全衛生コンサルタントとして、あるいは同社の通勤利用者として論じようかとも思ったのですが、前述の記事について、元労働基準監督署の職員として書くことにしました。

この問題について書く前に、最低賃金がどうやって決定されるかについて、御説明します。最低賃金法によると。最低賃金は「厚生労働大臣又は地方労働局長が決定すること」になっています。しかし、地方労働局長はむやみに最低賃金を改正できる訳ではなく、「地方最低賃金審議会の意見」の意見を聴かなければなりません。つまり、この審議会で決定された金額が最低賃金額となるのです。

この審査会は、地方労働局の賃金課(現在は賃金室)が事務方となり、毎年6~9月にかけて数回にわたり(最賃が決定されるまで)開催されるもので、メンバーは、労働側委員・使用者側委員・公益側委員の3者構成です。3者の数は同数選任され、労働側委員はその地方で最大組織の労働組合、要するに「連合」系労働組合から選出されます。使用者側は地方の経済団体です。公益側は、大学教授、新聞社の論説委員、弁護士等です。役所は黒子に徹します。

私は、地方最低賃金審議会を直接に見聞したことはないのですが、担当していた者の話によると、各委員は非常に熱心に討論し、熱心すぎて「労働側」と「使用者側」では絶対に意見が一致せず、公益側委員が両者を宥めるのが常だということでした。議事進行は会長(法の定めにより公益側委員より選出)に委ねられているそうです。

さて、この審議会に提出される資料の主たるものは、「賃金構造基本統計調査結果」及びその分析資料です。この賃金構造統計調査について

「本来、個別事業場への訪問調査すべきところを、労働局では通信調査を行っていたという不正があった」

という件について、本年1月に問題となりました。そして、「通信調査」の実態については、このブログの2月3日の記事で、私の体験をお話ししました。また、この件については、「本省も通信調査の実態を知っていた」という新聞発表を2月1日に本省が行い、現在その発表文が本省のHPに掲載されています。

さて、今回大阪労働局で不正行為のあった、「最低賃金に関する基礎調査」についてですが、私はこの調査については知らなかったのですが、地方労働局の賃金課(現在は賃金室)が行うもので、賃金構造統計調査が1年くらいかかって結果を取りまとめるのに対し、その年の6月の賃金の状況をリアルタイムの結果として、審査会時に手持ち資料として委員に提出するもので、審議会に絶対に必要な重要資料だそうです。

私の知合い(某地方労働局の元賃金課職員)に、今回の大阪労働局の不正について意見を尋ねたところ、「通常ではまったく考えられない、不正だ」ということでした。

賃金構造基本統計調査の不正は、調査方法を簡略化するいわゆる「手抜き」ですが、調査結果について労働の現場の実態からの乖離はないと思います。今回の大阪労働局の不正はデータの「捏造」です。この捏造は、最低賃金の結果に影響を及ぼす悪質なものだという、元担当官の見解でした。

彼曰く、さらに悪質なのが、大阪労働局のこのコメントだそうです。

「最低賃金は様々な要素を考慮して総合的に決めている。今回の不正は引き上げ額には影響していない」

金と時間をかけている調査が、本来の目的である「最低賃金の決定」に影響を与えないのなら、「そもそも、そんな調査は辞めてしまえばいいだろ」というのが、元担当官の意見です。私も同感です。

大阪労働局が起こした不正は、真面目に仕事をしている他の労働局職員の業務を汚すものです。全国の賃金室の職員は憤慨していると思います。

これは大阪労働局の体質に関係しているのかもしれません。実を言うと、監督官サイドから見ても、大阪局は少し独特の仕事をしているように思えるところがあります(具体的な事例は、今後披露していきたいと思います)。

不正のないように、職員の業務の見直しを徹底してもらいたいと思います。

 

尾瀬紀行~T.M氏より

今週は、私のブログを休みます。

本日、台風10号が来ているのに、飛行機に乗ります。恐いです~

私の記事の替わりに、毎週写真を提供してくれているT.M氏(現役の某地方労働局の技術系職員)の紀行文です。

まずは写真から。

はるかな尾瀬 〜花の旅、山の旅〜

今年は梅雨明けが遅く、8月に入りようやく夏空が見られるようになり、同時に高温多湿の気候がもたらされる季節になりました。

この季節の休日は、私はエアコンが嫌いなので、自然で涼しい場所に避暑することにしています。

今回は、私の避暑の体験にお付き合いいただければと思います。

7月下旬、涼しい尾瀬に、尾瀬沼の山小屋に泊まりながら、大江湿原のニッコウキスゲの鑑賞と、燧ヶ岳(ひうちがたけ)登山に行って来ました。

この時期の尾瀬は、朝夕は10℃前後と肌寒く、日中は30℃前後まで気温が上がり結構暑く、一日の気温差が大きいのですが、湿度が低いためとてもさわやかな気候です。

一言で尾瀬と言いますが、尾瀬は尾瀬国立公園に属する地域で、代表格の尾瀬ヶ原に始まり、尾瀬沼、大江湿原、あやめ平、三条ノ滝、平滑ノ滝、至仏山(しぶつさん)、燧ヶ岳、会津駒ヶ岳などと広範囲に多くの見どころがあります。

大江湿原のニッコウキスゲは、福島県の雄国沼、長野県の車山(霧ヶ峰)に勝るとも劣らないほどの大群落を形成し、今年の大江湿原は、昨年よりも花の数が多く、湿原が黄色に染まるほど、見事な咲きっぷりでした。(写真をご覧ください。)

一日湿原を歩いていると、太陽を遮るものがほぼないため、結構日焼けし、真っ黒になってしまいました。

登山した燧ヶ岳は、国内では東北地方以北の最高峰で、柴安嵓(しばやすぐら、標高2,356m)、俎嵓(まないたぐら、標高2,346m)の二つの峰を持つ双耳峰の山で、眼下に尾瀬沼と尾瀬ヶ原、見上げると至仏山、会津駒ヶ岳、平ヶ岳、会津磐梯山などの山々の展望が実に見事です。

尾瀬へは、喧騒がない福島県檜枝岐村の七入(なないり)の登山口から入り、江戸時代の交易の道であった会津沼田街道をたどり、静かな山旅が楽しめました。

皆様も、暑いこの季節(今年は異常に暑いですね!)、市街地を離れ、避暑に行かれてみてはいかがでしょうか。

職場の人間関係

(ニッコウキスゲ、T.M氏の日光シリーズ1)

前々回のブログ記事に、「46年前に宇宙戦艦ヤマトがイスカンダルに旅立った」と記載したところ、ある人から「45年前の間違いではないか」という指摘を受けましたが、調べてみると、確かに「宇宙戦艦ヤマト」のテレビ放映は1976年前(45年前)でした。

間違いを記載したことをお詫びします・・・

そんな訳で、本日は少しだけ「ヤマト」に関連した話をします。

映画「アルキメデスの大戦」を観てきました。テーマはけっこう深いのですが、ストーリーは、太平洋戦争前の戦艦ヤマト建造のための予算を巡る帝国海軍内の権力闘争を描いていました。組織内の権力闘争を、意外な側面から描くというストーリーは、現在テレビで放映中の池井戸作品ドラマの「ノーサイドゲーム」を連想させます。池井戸ドラマで「ラクビー」にあたるものが、「アルキメデスの大戦」では「数学」に該当します。まあ、映画評については、yahoo!映画のレビューでも見てもらうことにして(けっこう好評価です)、私がこの映画の中で注目したのは、海軍の中にあるヒエラルキーと、それを理不尽と思わない兵士たちの姿です。

この映画の中の主人公である帝大生(数学の天才)は、ひょんなことで山本五十六海軍中将と知合いになり、数学の才を買われ、戦艦ヤマト建造経費の不正経理の調査をすることになりますが、調査に必要なため海軍に就職することになり、いきなり「少佐」という地位を与えられます。主人公は、「軍隊は嫌いだ」と公言するくらいですから、軍隊内の自分の地位には無関心です。しかし、彼を取り巻く人々(例えば、彼の部下になった、エリート少尉)は、主人公の地位と言動のギャップに悩まされ、ある時は怒り、ある時はあきれかえります。主人公のように、組織内の階級というフィルターをとおさずに軍人と接するならば、素の人間が見えてきます。逆に言うと、組織の中では人は、「地位」というものを纏わないと落ち着けないものなのでしょう・・・

最近ある地方労働局に勤務している友人と、酒を飲んでこんな話をしました。

労働局長と郵便局長では、どちらが偉いんだろうか?

もちろん、こんな話題は「下の下」です。でも、盛り上がりました。「労働局長」と「郵便局長」の給与は、下っ端であった私の数倍くらいでしょうが、多分同じくらいではないかと想像します。部下の数でしたら、私の知る某労働局は1000名くらいですし、大規模郵便局では、非正規職員の数を含めれば、それくらいの職員がいることがあります(従業員50人未満がほとんどでしょうが)。

その職場にいる者にとっては、自分の所属する「長」が、No1に思えてしまけど、関係のない第三者から見ると、結局は両方ともただのオッサンですし(女性管理職の方、ごめんなさい)、それに恭しく仕える者が、時には滑稽に思えてしまうこともあります。

私が新監だった時、埼玉県の朝霞にある労働研修所で、100名近い同期の者と泊り込みの研修受けていました。朝から、研修所長が私たち研修員に対し、「今日は、元事務次官の××さんが来るから、その時間帯は見苦しい所を見せないように」という訓示をしました。現役の事務次官が来るならともかく、「元」事務次官が来るからといって、何て大げさなんだと思いましたが、実際にその人が研修所に来た時は、所長がピリピリして施設内を案内していました。その緊張度合いが、私にはとても面白く思えました。

その元事務次官から何も感じぬ私のようなものは、結局、出世をしないで役人生活を終えるものなんだなと、気付いたのはようやく最近のことです(もう、遅いです!)。

 

今日は取り留めのないことを書きました。

来週はブログを休みます。

替わりに、今週中ごろに、いつも写真を提供してくれている、T.M氏の記事を載せますので、彼の華麗な写真をお楽しみ下さい。

ダブルワークと労災保険(3)

(足柄のアジサイ・開成町、by T.M)

「Uber Eats」の問題点は、やはり配達人が「労働者」でなく「個人事業主」であることでしょう。

労働者とは、「労働時間を売って、お金を得る人」です。こうはっきり言うと、身も蓋もなくて 必ず反発を受けます。「働くということは、何かしらの成果がなければならない。時間だけ拘束されていて、金をもらえるのは公務員くらいだ。」(こういう発言に引合いに出されるのは、いつも必ず“公務員”です)

労働とは、「成果」なのか「拘束時間」なのかは、それこそ100年前からある議論でして、取りあえず、現在の労働基準法では、労働者の定義は上記のようなものになっています。もうすこし、法律的な表現をするなら、「労働者とは、使用者から、時間的・場所的な拘束を受け、その指揮命令を受ける人」ということになります。

「Uber Eats」の配達人は、その業務の自由さ故に、労働者とは法的にならず、個人事業主となるのです。働く人にとって、「個人事業主」の方が得か、「労働者」が得かは、考え方ですが、普通に考えると、やはり「労働者」の方が安心でしょう。「個人事業主」のメリットは、税金面で「必要経費」を計上できるということですが、デメリットは、労働者でないので労災保険の適用がないということです。

 もちろん、学生や主婦が行うパートやアルバイトで、今までも「労働者」でなくて、「個人事業主」扱いされていた業務はあります。「家庭教師」や「新聞の集金」等がそれに該当します。しかし、この「Uber Eats」の業務が、それらと違うことは、「事故が多い業種」であるということです。

 ある業種が別の業種と比較し、災害が多いかどうかを判断する一番確かな方法は、「労災保険料率」を比較する方法です。企業が労働基準監督署に支払う労災保険料は

       (支払賃金総額) ×  (労災保険料率)

です。この「労災保険料率」は業種ごとに定めてあって、過去の労災保険の給付の実績からその料率が定めてあります。ですから、業種比較で、多くの保険給付があった業種が分かるのです。ちなみに「労災保険料率」が一番高い職種は、「炭鉱業」で「8.8%」です。

「Uber Eats」の配達人の業種は何かということについては、少し議論の余地があります(つまり、新しい業務形態なので、業種がまだ決まっていない)。業務が似ている業種として、「貨物取扱事業」が挙げられますが、保険料率は「0.9%」です。これは、けっこう高い数字で、一般の飲食店の「0.3%」の3倍です。つまり、レストランのデリバリーのつもりで働いても、通常にレストランで働くよりもはるかに危険だということです。

もしダブルワークの人が「Uber Eats」で配達中に、交通事故でもあったら、治療費と休業補償は自分の社会保険を遣わなくてはなりません。もし、本業の方を長期欠勤した場合は、「退職」扱いとなる可能性があります。あくまで、「自己都合の休職(病気休暇も含む)」なので、労働基準法19条の「解雇制限」の対象にはならないのです。

この、「Uber Eats」の配達人の労働については、「労災保険」以外に、「最低賃金」のことが大きな問題となります。

(続く)