私は建設現場の監督で恥をかきました(1)

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監督官2年目の夏のある日、私はいつもより早く監督署へ行った。
心配で、朝早く目が覚めてしまったのだ。その日は、監督官になって初めて、工事現場の監督に1人で行くことになっていた。当然、抜打ち監督である。
何度も持ち物をチェックした。ヘルメット、ヨシ。安全帯、ヨシ。カメラ、ヨシ。安全靴、作業服、是正勧告書、使用停止命令書、公衆電話から署へ電話連絡するための小銭(当時、携帯電話はまだなかった)、監督官証票、監督官必携、名刺、建設現場監督のためのチェックリスト・・・等々。でも、まだ不安だった。

監督官の研修期間は当時18ヶ月だった。地方の監督署に配備され、そこで署の日常業務に接しながら、仕事を覚える。その間に埼玉県の朝霞の労働研修所で前後期合せて4ヶ月間の宿泊研修を受ける。後は地方局での独自研修と、先輩や上司からの実地訓練で、監督の要領を覚えるのだ。
建設現場の監督にはその研修期間に何度も行ったはずだった。当時、私が勤務していた名古屋北署の管内では、大規模工事として地下鉄工事と高速道路工事が施工されており、月1回にはどちらかのパトロールへ行っていた。
でも、練習を何度も積んでいたとしても、本番がそのままできるという訳ではない。その日の監督対象はマンション工事現場3件で、みな中堅どころのゼネコン。そこの現場代理人は新米の監督官より、当然に経験豊富であるはず。最盛期は関係請負人を合わせ1日100人の労働者に作業指示する。そんな現場代理人と面談し、2年目監督官が安全管理指示をする。
できっこないと、監督に行く前からあきらめていた。心の中で「これも勉強」とつぶやいた。しかし、意地の悪い先輩は「2年目監の勉強に付き合わされる現場代理人も偉い迷惑だな」と言う。そんなことは、これから監督へ行く私が1番分かっていた。
(続く)