2024問題・AbemaTV

(井上靖「しろばんば」の舞台「上の家」、by T.M)

AbemaTVで「2024年問題」を取り上げていたので観ました。

(注)2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称のことです。

出演者として、現役の長距離トラックの運転手で、ユーチューバーでもある30歳のシングルマザーの方が意見を述べていましたが、「2024年問題」にかなり否定的な意見を言っていました。実際に長時間労働がなくなるかどうか分からないし、長時間労働がなくなってしまって残業代が減るのは困るというという趣旨でした。

そもそも、働き方改革関連法の大きな目的の一つは労働者保護です。(何か「生産性の向上」の方ばかりが強調されているような気がしますが・・・)

令和3年の長時間労働を起因とした「脳・心臓疾患」の、職種別の労災認定数は「自動車運転従事者」が全体の3分の1を占め、断トツの1位です。

(注)長時間労働に関する労災認定は、「脳心臓疾患(生活習慣病系)」と「精神疾患」の2種類がある。「精神疾患」の職種別第1位は「専門的・技術的職業従事者」である。

このような過酷な労働条件にさらされているトラックドライバーを守るために法改正が行われた訳ですが、日ごろの行いが悪いのか、現場労働者が政府と国会を信用していないため何か不安感が広がっているようです。

現場の労働者が法改正に不安感を持つのは、仕方がないところもあるのかもしれません。私が、40年前に労働基準監督官になった時と比較して、労働条件はとても良くなっていると思います。「週休2日制」が定着したことが大きいと思います。

しかし、労働者の生活自体が豊かになっているかというと、実感としては、一概にそうは言えない気もします。それは「働き方の変化」が問題となっているからです。40年前と比較して、「派遣労働者」や「非正規労働者」が増えている気がします。

トラックドライバーで言うなら、今後「フリーランス」という名の労働法が適用されない「個人事業主」が増えてくるのではないでしょうか。それが心配です。

ケン・ローチン監督の映画「家族を想う時は」、フリーランスのトラックドライバーの家族が過重労働に追い詰められていく様を描いていました。この映画で描かれた問題が、日本でもたくさん起きているような気がします。

2024問題、脱法行為

(ポルシェセンターみなとみらい、by T.M)

先週と同じで「2024年問題」について書きます。

何と、私は解決策を思いついてしまいました。我ながら凄いと思います。

解決策は、「労働契約」を「雇用契約(労働契約)」と「委託契約」に分けることです。

ある宅配会社Xに勤務する労働者Aがいたとします。Aの労働条件は月曜日から金曜日までで、完全週休2日制です。2024年以降は年間960時間の残業は可能です。だから、毎日約4時間の残業は可能となる訳です。

さて、Aの休日にあたる「土曜日」に、会社XとAは業務委託契約をしたとします。ようするにAの月曜日から金曜日までの「労働時間単位」に賃金を支払っていたのに対し、例えば、土曜日にも勤務させ、その日だけ「宅配荷物を1個配達すると300円。1日100個配送してくれ。出勤時間と退勤時間は自由」というような委託契約に変更してしまうのです。

(注)「労働契約」を「委託契約」に変更するためには、「時間的拘束」をなくす以外に、「配達するクルマをリース契約する」「指揮命令携帯を、上司から部下という形態から、X会社から委託会社への指示へと変更する」等色々なことが必要です。ここでは、必要な契約形態の変更が全て行われたとします。

このように、X会社と労働者Aの契約が「労働契約」オンリーから、「労働契約」プラス「委託契約」とすれば、年間960時間以上の長時間労働が可能となり、2024年問題をクリアすることができます。とてもいい考えです・・・

「おまえは何を考えているんだ」「元労働基準監督官が脱法行為を指南してどうするんだ」なんて怒られてしまいそうですが、これって労働基準監督署も合法だって認めていることなんですよ。私は先週T労働局(日本で一番大きい地方局)と、その筆頭署であるC労働基準監督署に電話をかけて確認したのですから、確かな情報です。

何で、私がそんな電話をしたかというと、自分の身の振り方で思いついたことがあったからです。前々回お知らせしましたとおり、私は今年の3月に65歳となるので、今所属している非常勤となり、兼業が可能になります。そこで個人事務所を立ち上げることにしたのですが、

「今所属している組織で、非常勤としての勤務以外に何か仕事ができないか」

と思いついてしまったのです。さすが直ちにこの考えの脱法性には気付きました。時間外労働が無限にできてしまう可能性があるからです。

ただ、この自分の考えが法的にどういう取扱いとなるのか、他の人に聞いてみたいと思ったので、労働局に尋ねてみました。ところが、私の質問に対し、複数の現役の労働基準監督官が、

「同一事業場について、同一作業員に対し、労働契約と委託契約を交わすことは可能だ」

と軽く答えるではないですか。脱法性を懸念した者は一人もいません。

もし、質問した相手が事業主であって、実際に質問のような契約を交わし、契約した作業員(労働者)が過労死した時に、「監督署がいいと言ったから、一人の作業員を月曜日から金曜日までは労働者として働いてもらって、土曜日は委託として作業してもらっている」と答えたらどうするのでしょうか?

現場の監督官には、少し問題意識を持って仕事して欲しいと思いました。

(しかし、私もイヤなOBです)

男女格差?

(甲斐駒ヶ岳と仙丈岳、by T.M)

自分がもらえる老齢厚生年金の特別支給の計算をするための、日本年金機構のホームページを見ていると、あることに気づきました。女性の方が男性より3年も早く年金がもらえるのです。つまり、昭和33年3月生まれの私は、来年の4月以降でなければ老齢厚生年金の特別支給はもらえませんが、同じ年代の女性労働基準監督官は、なんと役所を定年退職した年(2年前)に年金を手にする権利を得ていたのです。私は一瞬逆上しました。

「なんで、あいつらが・・・失礼、もとい。あのお方たちは、どのような訳があって、私より早く年金を頂けるのでしょうか。」

調べてみると、元々年金制度というのは、男女格差があって、女性有利であったものが、それが問題視されて現在は改善に至る過程であるそうです。「老齢厚生年金の特別支給」も数年後にはなくなる制度ですし、男女格差の背後には、絶対的に年金額が低いという雇用条件に関する「女性差別」の歴史があったことも事実です。(でも、公務員の給与に男女差は無いのに・・・・)

という訳で、この件は釈然としませんが、理性で納得することにして、今回は「女性差別と忖度」ということがテーマです。

先日、「化学物質の取扱い」について安全衛生教育の講師をしました。そこで、有害物質使用時における「母性保護」の重要性を説明し、生殖機能などに有害な化学物質が発散する場所での、女性労働者の就業禁止措置の話をしました。

具体的には、作業環境測定結果が「第3管理区分」となった屋内作業で、タンク、船倉内などで規制対象の化学物質を取り扱う業務で、呼吸用保護具の使用が義務付けられている業務等

における就業禁止です。その講義の後である人からこんなことを言われました。

「母性保護を重視するのはまずい。女性を生む機械と考えていると思われる」

人間関係の和を尊ぶ私としては、その指摘に対し深く頷き、「今後、気を付けます」と答えました。

今をさること30年以上前のことです。改正男女雇用均等法が施行させる直前でしたが、労働省の婦人少年室(当時あった省庁と部署です)の方は、労働研修所の会議室で研修を受けていた私たち新人労働基準監督官の前で高らかにこう宣言しました。

「労働基準法では今後女性保護はしません。今までの労度基準法は、(深夜労働規制等で)女性を保護しているように見せていましたが、実はそのことこそが、女性の活躍の場を奪ってきたのです。女性保護の時代は終わり、これからは男女雇用機会均等、そして母性保護の時代です。」

若い新人監督官たちは、この言葉に新しい時代の息吹を感じ、感激したものです。

それから30有余年、「母性保護」という言葉は、「生む機械」という忌み言葉を連想させるものとなってしまったのでしょうか。私は、この事をフェミニスト(実際に彼女はその方面の活動しているようです)を自称する友人に尋ねてみました。すると次のような答えが返ってきました。

「何バカなことを聞くの。命に係わる化学物質の就業禁止措置と、制度・風習として女性の生き方を規定する差別を混同するはずはないでしょう。」

そうなんです。本当に差別を考えている人は、「言葉狩り」などするはずはないのです。

では何で「母性保護」といういう言葉が使いづらくなったのか、それは単にその言葉を使う方が過剰な「忖度」をしているだけなのです。ようするに、「差別」なんていう問題に関わるのはめんどくさいから、何でもかんでも、それらしき言葉はなるべく使わないようにしているのです。

本質を考えずに、思考停止をしてしまい、形式のみにとらわれるのなら、何かの時にかえって不用意な言葉が飛び出すのではないでしょうか。(実は私は、そのことで公にできない失敗をしたことがあります)

年金の恨みつらみから、何となく男女差別を考えてしまいました。

副業・兼業のガイドライン

6週間ぶりのブログです。

この6週間は週末にブログ更新のことを考えなくて良いので、けっこう休日を楽しめました。暇があるとNetflixばかり観ていましたが、私のお気に入りは、「夏目友人帳」という日本のアニメです。「妖しが見える少年が、相棒の妖怪猫(実は大妖怪)と様々な事件に遭遇する」といった物語ですが、子供向けと思っていたところ、これが大人の鑑賞に耐え得るもので、シーズン6まで一気に観てしまいました。類似したアニメと言えば子供の頃観た、「マンガ・日本昔し話」ですが、アニメという枠を飛び越えるなら、さながら柳田国男の遠野物語の現代版と言えるかもしれません(夏目友人帳は古き日本の田舎を感じさせる熊本県の球磨地方が舞台です)。「癒し」を求めている人は、このアニメを観るといいかもしれません。因みに、Amazonでも配信しています。

さて、私がブログの更新をサボっている最中に、労働問題について社会的に大きな事件が立て続けに起きていたようです。ひとつは、「ワタミ」の残業代不払い事件です。そのことを話題にしようかと思ったのですが、それは来週以降に回し、今日は厚生労働省が先月に発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改正について書きます。

同ガイドラインのポイントは、「副業・兼業を作り出しやすい環境を社会は整備しよう」と言うところでしょうが、元労働基準監督官としては、このガイドラインについてはちょっと複雑な心境です。

私個人としては、今勤務している会社が「副業・兼業」を認めてくれたら、とてもありがたく思います。今勤務している会社については、何の不満もないのですが、常勤嘱託には副業は認められていないので、業務外の講演・執筆等にチャレンジしたくてもできないのです。でも、私のようにもうすぐ年金受給という者が趣味として兼業・副業を行おうとことはレアケースで、大抵の場合は副業・兼業する方は、経済的な理由な方が多いのではないでしょうか。

今回の副業・兼業の奨励で大きな影響を受けるのは、賃金の安い非正規労働者の方のような気がしますが、働き方改革というのは、一方で企業の労働時間を減らす反面、もう一方で副業・兼業で労働時間を増やしているような気がします。

流石にそのことが気になるのか、このガイドラインでは「過重労働による労災」の問題点(ダブルワークの場合の過重労働の事業場の責任等)については整理されつつあるようです。

ただ、私が気になるのは、やはり労働基準監督官の最前線の仕事のこと。労働問題として、今後現場の監督官を苦しめるのは、労働基準法第38条1項のような気がします。このブログでも以前紹介した、「兼業・副業時で、労働時間の開始の後の事業場では、前の事業場の労働時間も通算して残業代を計算しなければならない」という法条文のことです。

おさらいしておくと、次のようなケースがでてくるということです。

「労働者Aさんは、朝9時から夕方17時までを工場Xで勤務(休憩1時間、7時間労働)、夕方18時から21時までをコンビニYで働く(3時間労働)。賃金額は工場、コンビニともに時給1000円である。」

このようなケースでは、「コンビニYは、Aさんの工場勤務の7時間と自店の勤務時間の3時間を通算し、8時間労働を超える部分については、つまりコンビニYの19時から21時までの業務については、時給1000円を残業手当(25%割増)を加えた1250円にしなければならない」ということになります。

今後、副業・兼業が盛んになってくると、このコンビニYの割増賃金が未払であるという申告が労働基準監督署に殺到する恐れがあります。また、工場Xが交代制等の変形労働時間制をとっていた場合、コンビニYでの割増賃金の計算が複雑になって、監督署の窓口を悩ますことになりそうです。

今回のガイドラインを読んでいると、その問題については一切何も触れていません。そこでここからが私の妄想なのですが、「何も書かれていないことが、厚生労働省の回答」なのでないかと思いました。厚生労働省は、「労働時間の開始の後の事業場の賃金をデフォルトとして、割増賃金が支払われているように労働契約を締結させること」を推奨しているのではないでしょうか。

つまり、上記のケースでは、「コンビニYの賃金を時給1000円と考えないで、時給800円プラス割増賃金200円の合計1000円として労働契約を締結させる」ということを実行すれば、割増賃金の問題は解消します。それどころか、「工場Xが変形労働時間制を採用していても、工場X及びコンビニYはそれぞれの労働時間に対する残業代のことを考えていればよくなり、割増賃金の計算の煩わしさは解消される」こととなります。

今回のガイドラインの中で、「管理モデル」とされている「副業・兼業の簡単な労働時間管理の方法」とは、「労働時間の開始の後の事業場の賃金をデフォルトとして、割増賃金が支払われているように労働契約を締結させること」を前提としているのではないでしょうか。

この「労働契約の割増賃金のデフォルト」の方法では、確かに法の整合性は確保されますが、欠点があります。それは、ざっと考えたところ、次の2点です。

1 モラルの崩壊

2 労働時間の開始の後の事業場が、8時間以上の労働をさせても、残業代は払わなくて良い。

まあ、2番目の問題はレアケースでしょうから、1番目の問題だけ述べます。

監督官なら誰しも1度は考えたことがあります。

「労働契約で、賃金を分割して割増賃金を支払っていることにすれば、どれだけ残業しても割増賃金を実質支払わなくてもよい」

上記のケースでいうと、「コンビニYだけでなく、工場Xも、労働契約で割増賃金のデフォルトの方法をとり、時給800円プラス割増賃金200円の合計1000円として労働契約を締結させる」ことが当たり前のように行われてしまうと、残業代の割増の意味はなさなくなり、モラルは崩壊します。

監督官が眉をひそめる、ブラック企業の「固定残業制」が、この「労働契約の割増賃金のデフォルト」の変形です。

今回のガイドラインでは労働基準法第38条の解決策は何もないので、そのことに何も触れていないのではないでしょうか(これは、私の妄想です)。それとも、このガイドラインの続きがあるのでしょうか。

コロナウィルスとウーバーイーツ

この写真は、「日産スタジアムの医療関係者へのエールのためのライトアップ映像」で、綾瀬市の社労士のM.S様から頂いたものです。今、何もできない多くの人たちのためにコロウィルス禍の最前線で戦ってくれている医療関係者の方々に、本当に感謝したいと思います。

先週末に湘南海岸には多くのサーファーが集まったそうです。それを放映して、マスコミは、「そんなにサーフィンをしたいのか。」と言って、「若者」を揶揄し非難しています。でも若者って、そんなにダメなんでしょうか。私は、この非常事態にパチンコをしているギャンブル依存症の方には感じない「希望」を、サーファーの人達には感じます。
私は、東日本大震災直後の被災地で多くの若者に合いました。皆ボランティアに来ていました。その中には、「サーファー仲間たち」が集ってガレキの処理をしていたこともあります。
若者が現在置かれた現状は、この日本の危機に対し、「何もできない自分たち」に苛立っているのではないでしょうか。若者は、目的があれば必ず立ち上がります。このコロナウィルス禍の後には、「復興の時」がきます。若者には、それまで力を蓄え、今は自重して頂きたいと思います。

さて、このブログで以前何度も取り上げた「ウーバーイーツ」についてお話します。まず最初に、「ウーバーイーツ」のことをご存知でない方のために、少しこの業務について説明します説明します。
① 「ウーバーイーツ」とは、街のレストランのデリバリーサービスを行う会社です。昔はお寿司屋さんに出前を依頼すると、お寿司屋さんの従業員がお寿司を持ってきてくれましたが、現代では、このウーバーイーツに加入しているお寿司屋さんであるなら、ウーバーイーツの配達員が、このお寿司を配達してくれるのです。
② ウーバーイーツの配達員は、ウーバーイーツの労働者ではありません。個人事業主です。ウーバーイーツからスマホに連絡があった時に、お店に行き、品物を受け取り、依頼者の元に届けることが業務です。
③ ウーバーイーツの配達員は、多くの者が「自転車」等を利用しています。

コロナウィルス禍の日本において、このウーバーイーツの需要が伸びているそうです。三密を避け、自宅で街のレストランの食事を楽しもうとする人が多くなっているからです。

私は、かつてこのブログで「ウーバーイーツ」の業務について、たびたび批判してきました。その理由は、配達員が「個人事業主」の取扱いを受けていて、業務上の災害が発生した時に何の補償もないからです。
現在の日本の配送業において、(「個人事業主」として)企業に「労働者」として所属しない方が増えているそうです。でも、これは危険なことです。昨年上映された「家族を想うとき」を観て下さい。労災保険制度が適用されない「個人事業主」の悲劇が描かれています。

私は、基本的に「ウーバーイーツ」の業務形態には反対なんですが、今後この会社が伸びて行くのならば、どのように社会が受け入れることが可能かと視点を変えて考えてみました。

すると、次の2点が取敢えずは必要ではないかという結論に達しました。
① 「ウーバーイーツ」配達員の労働組合結成を公的に認めること
② 労災保険の「一人親方の特別加入制度」について、「ウーバーイーツ」配達員にまでその範囲を拡大すること。

ウーバーイーツの配達員の労働組合結成については、現在地方労働委員会で審議されているということです。私は、行政が「労働組合の結成」について、どこまで手助けをできるかはよく分かっていないのですが、これはできる限りの支援をするべきであると考えます。

「個人事業主」の労働組合結成については、「プロ野球選手の労働組合結成」のように、いくらでも事例があります。そもそも、労働基準法上の「労働者」と労働組合法上でのそれは違うのです。

労災保険の「一人親方の特別加入制度」については、「個人事業主」でも加入できる労災保険ですが、その業種は限定されていて、現在は「ウーバーイーツ」の配達員の加入はできません。それを「ウーバーイーツ」の配達員にも適用させることは、行政が決断すれば法の改正なく可能です。

今日は、コロナウィルス禍で業務が増えそうな、新しい業界に働く人たちのことを少し考えてみました。