定年退職後の賃金

(北仲ノットからの展望、by T.M)

梅雨が明けました。皆様、これからが夏本番です。

改めまして、暑中お見舞い申しあげます。

7/20 毎日新聞

名古屋自動車学校(名古屋市)の元職員2人が、定年退職後の再雇用で賃金を大幅に減らされたのは不当だとして、定年前の賃金との差額を支払うよう求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は20日、同じ業務内容で基本給が定年時の6割を下回るのは違法だとして自動車学校に計約625万円の支払いを命じた2審・名古屋高裁判決(2022年3月)を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

(略)

 1審・名古屋地裁判決(20年10月)は2人の賃金は「労働者の生活保障の観点から看過しがたい水準に達している」と指摘。同じ業務内容で基本給が定年退職時の6割を下回ることは、当時の労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法)が禁じる不合理な待遇格差に当たると判断した。2審判決も1審を支持した。

 これに対し、自動車学校側は上告審で、2人は定年後の賃金減少分の一部について国が補助する「高年齢者雇用継続基本給付金」を受給していると指摘。不合理な待遇格差に当たるかは基本給だけでなく他の収入も含めて検討されるべきだと主張し、請求を棄却するよう求めていた。

難しい問題ですよね。原告の主張は次のとおり。

第一 定年退職前後に仕事に違いがないのに、賃金が下げられるのはおかしい

第二 「高年齢者雇用継続基本給付金」を企業が受給しているのに、賃金の下げ率が大きい

(注:今日はこの「第一」の主張についてのみ論じます)

この原告の主張に対し、1審・2審は次のように判断しました。

「労働者の生活保障の観点からも看過しがたい。正社員の6割を下回る部分は違法」

それに対し、最高裁は次のように判断し、審理を差し戻しました。

「基本給の性質や目的を踏まえて判断すべきだ。1審・2審は十分検討してなく、判決高裁差し戻す。」

ようするに、1審・2審の判断は

「原告の生活を考えて、定年退職後も仕事内容が変わらないなら退職前の60%を補償しろ」

ということです。それに対し最高裁は次のように差し戻したのです。

「“生活保障の観点”だけでなく、“基本給額が原告に相応しいのか”を検討しろ」

ということです。私は最高裁の判断は妥当だと思います。多分、次のような考えでしょう。

「原告の定年退職時(60歳)の賃金は、年功序列制賃金体系ではなかったのか。原告の所属する会社の中で、原告より年下(例えば50歳くらい)で、原告と同じ仕事をし、そして原告より年下だという理由で原告より賃金が安い者はいなかったのか。いたとするなら、その会社はそもそも厳密な“同一労働同一賃金”ではなく、原告の定年退職時の賃金は年齢により恩恵を受けていたものであるから、本当の意味での同一賃金同一労働とするためには、一律に“退職前の60%の賃金を補償”するのでなく、原告の業務に応じた賃金額を再精査すべきだ」

また、こんな考えもあると思います

「“賃金補償60%”という数字が一人歩きしてしまうと、仕事内容で評価すると、本来定年退職後に“90%”給与をもらうべき人の賃金が値切られてしまう可能性がある。また、企業によっては、退職する時期によって、同じ仕事をしていても賃金額が違うことがある。一律に賃金補償60%としてしまうと、60歳以降の再雇用契約者どうしで、同一労働同一賃金でなくなってしまうかもしれない」

しかし、最高裁って高裁に無理難題を押し付けますよね。「基本給の性質や目的を踏まえて、正しい金額を算定しろ」なんてことは無理ですよ。だから、1,2審は「労働者の生活保障の観点から60%」という理屈をひねり出したのに、「基本給の評価方法」について、道筋をつけて最高裁に持ってこいということです。なんか、高裁が可哀そうに思えてきました。

同一労働?

(小田原市・長興山紹太寺の枝垂れ桜、by T.M)

日新聞 4月12日

 JR九州に再雇用された大分市や鹿児島市などの15人が、正社員と同じ仕事をしているのに給与や手当を減らされたのは不合理な格差だとして、同社に計約7200万円の損害賠償を求める訴えを福岡地裁に起こした。12日午前にあった第1回口頭弁論で、同社は請求棄却を求めて争う姿勢を示した。

 訴状によると、15人は同社の正社員としてそれぞれ車掌や運転士などを務めた後、2017~21年に定年の60歳を迎えて退職。再雇用で同社と有期労働契約を結んだが、基本給が半分程度に減り、扶養手当や住宅援助金などがなくなった。

 原告側は、再雇用後の職務内容は正社員と変わらないとして、待遇悪化は「同一労働同一賃金」を義務付けたパートタイム・有期雇用労働法に違反すると主張。正社員との差額分を支払うよう求めている。

問題点が整理されていないように思えます。2つの論点に分かれるのではないでしょうか。

(1)60歳過ぎたら、賃金が減額された。定年前後の業務内容は同一だから、同一労働同一賃金の原則からしておかしい。

(2)非正規労働者になったから賃金が下がった。

これ、(1)と(2)は別の問題です。

まず、「定年退職後、同一労働なのに賃金が下がった」という問題については、「年功序列制」の賃金であったかどうかが問題となります。年功序列制の賃金体系であったなら、定年退職をさかいに、常識的な賃金の減額は仕方がないでしょう。同一労働をしている59歳で定年退職直前の方と、40歳の方の賃金が同じ職場では、「定年退職後に賃金が下がった」ということはあってはならぬことですが、日本の企業は正社員である場合は、ある程度の「年功序列給」となっているので、定年退職後には賃金が下がります。

(私の知る限り、年功序列給でないのは、「タクシー運転手」「不動産屋の営業マン」等のオール歩合給の者だけです)

最高裁判決では、定年退職において、「基本給の引き下げは合法」「各種手当の引き下げは違法」となっていますが、これは年功序列給である基本給については引き下げを認めるが、年功序列給の要素がない手当については、定年退職時の引き下げを認めないということです。

さて、(2)の「同一労働だけで、正規職員と非正規職員では賃金額が違う」という問題ですが、これは本質的にあってはならないことです。というか、日本の労働問題で最大の問題が、この部分であると思います。

非正規職員の賃金が安すぎます。本来ならば、「安定した職の正規職員の賃金」は「不安定の非正規職員の賃金」よりも安くていいはずなのに、実際は逆になっています。フリーランスの報酬は、正規職員より高くしなければなりません。

(もっとも、企業側は「派遣」に支払う費用は正社員へ支払う金額より多い場合もあるそうです。ただし、派遣社員にはわずかな金額しか支払われません。いわゆる「中抜き」も大きな問題でしょう)

新聞記事にあるように、「正社員と同じ仕事をしているのに給与や手当を減らされたのは不合理な格差だ」と主張するならば、原告側は「現在、当該企業に在職している、60歳以下の非正規労働者の賃金もあげるべきだ」とも主張した方が、説得力を持つと思います。

派遣の最低賃金(2)

(栃木市の蔵、by T.M)

先週の続きです。

「派遣労働者の賃金」について、「同一労働同一賃金」の原則の元に、派遣先労働者の賃金水準に合わせようという制度は、本当に素晴らしいものだと思います。なんでも、派遣社員に退職金を支払うべきことまで決めているとも聞きます。でも、その実際の運用については、少し首を傾げたくなります。本当にこれで実効性はあるのでしょうか?

私が、第一に思ったことは、同じ地方労働局の中で、「需給調整事業部」と「労働基準部」は、まったく連携がとれていないということです。

もっとも、私がこんなことを言うと、「おまえが言うな。実情をよく分かっているだろう」と怒られそうです。そうです、需給調整事業部(あるいは、「需給調整事業課」)は、そもそも「職業安定所」(ハローワーク)の縄張りであって、「労働基準監督署」の職員には敷居が高いのです。

ですから、定期的に人事をいじくってみて、基準部サイドから「需給調整事業部」に異動をさせるのですが、そんなことで「縦割り行政」がなくなるはずはありません。

でもこれって、本当に非効率ですよね。労働者に対する「賃金不払い」の専門家は労働基準監督署の監督官のはず。その知識と経験を生かさない手はありません。

元監督官の私から言わせると、需給調整事業課のことはよく分からないのですが、現場において賃金不払いの指導をするのでなく、許認可権を背景に、事業場が提出してきた書類をみてのみ指導しているんではないかと思います。

前回のブログに書きましたが、派遣会社は次の賃金のどちらかの額を選定して労働者に支払わなくてはならないそうです。

①  派遣先の労働者との均等・均衡方式をとる

   労使協定を交わし、厚生労働省職業安定局長が示した、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」以上の賃金を支払う

そして、結局①を選択する派遣会社はなく、②の方式をとるのが多数ということでした。それは、派遣会社は「賃金の高い大企業」に労働者を派遣をしていることも多いので、派遣先の賃金に合わせる訳にはいかないという理由です。

因みに、私が計算してみると、この「厚生労働省職業安定局長が示した、『同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準』以上の賃金」とは、東京都の事務職労働者では「時給1240円」でした。

私が、一番違和感を覚えるのは、この「労使協定」という言葉です。

派遣会社で締結される「労使協定」の協定当事者を選任することは物理的にとても難しいことです。だって、派遣スタッフはそれぞれに違う職場で働いている訳ですから、どうやって自分たちの代表を選ぶことができるのでしょうか。

Webで調べると派遣会社は、民主的にその代表を選ぶ努力をしているようです。でも、結局は、派遣スタッフではなく派遣会社のマネージャークラスが選任されている実情があるようです。というより、派遣スタッフにしてみれば、顔がまったく分からない同僚より、仕事を取り持ってくれるマネージャーでいいやという感覚になってくるんでしょうね。

このように取扱いに難しい「労使協定」というものに委ねられている、「同一労働同一賃金」は、本当にその本来の意図することが実現できるのか、心配になります。

派遣許可をとってないような事業主については、強制的に適用となる「派遣元最低賃金」を設定しておき、違反があった時は労働基準監督署の監督官にまかせることが、現実的ではないかと思います。

派遣の最低賃金

(京急油壷マリンパークのコツメカワウソ,by T.M)

なんかブログネタがなくて困る週もあれば、何を選択したら良いのか迷う週もあります。以前から、このブログに取り上げてきた「教師の残業代」について、地裁の段階ですが司法判断が下されたようです。その話題について書こうかと思ったのですが、今回は別の話題です。

最低賃金が話題になることが昨今多くなっています。なんでも隣の国の最低賃金が我が国を抜く可能性もある噂されていますし、某政党は選挙公約に「最低賃金1500円」なんて掲げています。

私も最低賃金には思うところがあります。それは、「派遣労働者の最低賃金を産業別最低賃金」として決定してほしいということです。派遣の方の処遇はとても不安定なのが現実です。私のいる組織でも、このコロナ禍で派遣の方が最初に契約解除となりました。せめて、処遇が不安定な分、派遣労働者に他の業種より高い賃金を支払われるべきだと思っています。

普通に話題となる最低賃金とは、各都道府県別の「地域最低賃金」のことです。20年くらい前までは、業種別に最低賃金が設定されていましたが、年々その数は少なくなっています。でも、まだ一部残っています。

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/dl/minimum-19.pdf

 この「産業別最低賃金」を復活させ、「派遣業」に適用させればいいと思います。

 この意見については、労務の専門家から次のような反論がくると思います。「派遣労働者の最低賃金の適用は、『派遣先』に適用される最低賃金だから、『派遣元』の業種である『派遣業』に対し、割増の最低賃金を設定しても意味はない」

 そういう指摘には次のように反論させてもらいます。「そもそも、20年くらい前までは、派遣労働者に対しては、『派遣元』の最低賃金が適用されていた。しかし、派遣先の産業別最賃が高額であるケースが相次いだので、『派遣先』の最低賃金を適用した。しかし、私はその出発点が間違っていたと思う。その時に、派遣先の高額な『産業別最賃』を適用できるようにすることより、派遣元の派遣業に『より高額な産業別最賃』を設定すべきだった」

『派遣元』の業種の最低賃金を適用することは、労働保険の料率の考え方から合理性があると当時は説明を受けた記憶があります。もちろん、これを「派遣元」から「派遣先」の適用の最賃に変更したことは、「派遣労働者に派遣先の高額な産業別最賃」を適用させたいという判断があったことです。でも時を経て、そちらの方がより合理的であるという別の判断だでたのなら、元に戻すことも可能であると思います。

 さて、令和2年から派遣法で、「同一労働同一賃金」の観点から、「最低賃金らしきもの」を事業場に求めていることを最近知りました。私は「労基法」「労働安全衛生法」については、飯のタネにしてますが、「派遣法」については門外漢なので少し調べてみました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

要するに、派遣法は派遣会社に次のことを求めています。

「派遣労働者には派遣先の労働者と同じくらいの賃金を払え。その方法としては、次の2つのうちのどちらかを選べ」

結局①を選択する派遣会社はなく、②の方式をとるのが多数ということでした。

それはでも、当たり前のことです。派遣会社は「賃金の高い大企業」に労働者を派遣をしていることも多いので、派遣先の賃金に合わせる訳にはいかないのです。

「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」とは次のとおりです。

https://www.mhlw.go.jp/content/000817351.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/000817353.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/000817358.pdf

この、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」について、某地方労働局監督課に電話して、こんな質問をしました。

「派遣労働者の同一労働同一賃金について、例えば労使協定で時給1500円としているところ、労働契約を1200円として、それだけしか払わなかった。この場合、刑事罰を伴う労働基準法第24条違反(賃金不払い)が成立しているか」

すると、監督課の職員は「同一労働同一賃金のことは、雇用・均等部に聞いてくれ」と言いました。雇用・均等部に電話すると、「派遣労働者のことは需給調整事業部に聞いてくれ」と言いました。需給調整事業部に電話をすると、「賃金未払の件は監督課に聞いてくれ」と言いました。ここで、私は少し強く主張しました。「たらい回しにしないでくれ。私の質問自体に何かおかしいところがあるのなら教えて欲しい。」そうすると、「調べてから電話する」とのことでした。

電話も待っていると、かかってきたのは監督課某監察官からでした。そしてこんな回答を得ました。

「派遣労働者の同一労働同一賃金について、例えば労使協定で時給1500円としているところ、労働契約を1200円として、それだけしか払わなかった。この場合、刑事罰を伴う労働基準法第24条違反(賃金不払い)となる。ただし、そのようなケースでは需給調整事業課が一番最初に対応する。」

私は、その返答に驚きました。

「このケースで賃金不払いの法違反が発生するということは、実質的に、派遣労働者に対する特別な『最低賃金』が設定されていることになるのではないか。労働者が労働基準監督署に、賃金不払いで申告することが可能な訳だから、3年間の遡及支払いを監督署が命じるケースも想定される。労災補償等の平均賃金が変わってくる可能性もある。こんな大きな問題について、なぜ私の質問をたらい回しされるほど、労働局の職員は関心がないんだ。」

監察官は、私の問いかけにこう答えました。

「まだ、大きな問題はおきていない。問題がおきたら本省と協議する」

私は最後に言いました。

「大きな問題が起きていないということは、この実質的な『派遣労働者の最低賃金制度』の概要が周知されていないからだ。その証拠に、私の質問について最初の段階で即答できるものがいなかったじゃないか。私は、この制度は派遣労働者の処遇改善に役立つ非常に良い精度と思う。需給調整事業部と基準部が合同で研修を行う等が必要があるのではないか」

まあ、こんなふうに言いたいことを言って電話を切ったのですが、しばらくたってから、もう1回監督課に電話をして次のことを尋ねました。

「派遣登録を受けずに違法派遣している企業の派遣労働者が時給1200円だったとする。派遣先の同一業務を行う労働者の時給が1500円だったとする。この場合は、差額300円について、労働基準法24条違反と言えるのか」

すると、監督課の答えは次のとおりでした。

「労使協定等で明記されていない場合、当初の労働契約の時給1200円となり、労基法第24条違反は成立しない」

この答で、私はやっとこの「同一労働同一賃金」の派遣法の主旨を理解しました。やはり「最低賃金」ではありませんでした。そして、需給調整事業課と監督課の、賃金未払問題への棲み分けの様子が分かりました。

そして、この派遣法の「同一労働同一賃金」について、「目指すところは素晴らしい法律」であるが、実務上はかなり問題があるなと思いました。

(続く)

最高裁判決、同一労働同一賃金

(コットンハーバーとみなとみらい、by T.M)

BTSの良さが分かりませんでした。何でビルボードの1,2位を取れるのでしょうか?

でも、街中で彼らのダンスを真似している中学生を見ていて、何となくBTSの人気の理由が分かる気になりました。その中学生たちは、40年以上前に、ピンクレディーの振り付けを真似していた私の友人とそっくりです。

BTSは、歌だけではなくダンスという手法を使って自分たちを表現しています。テレビでピンクレディーを見るしかできなかった私たちの世代と、ユーチューブ等でいつでもダンスと歌を鑑賞できる世代では、自ずとアートに対する評価が違ってくるのでしょう。

落語とジャズを愛する世代は、もはや絶滅危惧種なのです(でも、私はジャズと中島みゆきが好きだ)。

先週、非正規職員に対する「賞与」及び「退職金」の不払いについて、最高裁が3つの事件(それぞれ違う会社)について判決を出しましたが、事案ごとに原告側(非正規労働者側)の勝訴と敗訴に分かれました。このことを少し考えてみたいと思います。

原告敗訴の事案については、原告の働き方が、様々な理由により正規職員と「同一労働」ではないと判断されたもので、原告敗訴であっても「同一労働同一賃金」の原則が否定された訳ではありません。また、今回は旧法(労働契約法第20条)の違反を問うたもので、新法(パートタイム労働法第8条、9条)の違反の有無を決定したものではありませんので、敗訴した原告と同様なケースであっても、今後、処遇改善の判決が下される可能性もあります。

今回、原告敗訴となった事案で、支援団体等のコメントをみると、「経営者側」を責めるコメントばかりでしたが、非正規労働者への不合理な取扱いについては、他にも原因があるのではないかと思いました。

非正規職員の処遇の改善がなかなかすすまない理由としては、経営者の不誠実さもそうですが、正規職員からの協力・理解が得られないことも大きいのではないでしょうか。

多くの企業(公的機関を含む)で、ここ30年間は人員削減が行われてきました。その人員削減の穴埋めに使われたのが非正規労働者でした。そして、多くの企業・役所では非正規職員なしでは仕事が回らなくなりました。

私が監督官になった30有余年前には、新人監督官が電話取りや窓口相談をしていましたが、今の監督署では非正規職員がそれを行います。非正規職員さんは「相談員」さんと、それ以外です。相談員さんは、社労士等の資格を持つ方が多く、自分の本業である社労士業と兼業されている方もいて、非常に頼りがいがあり、給与もそれなりに支払われています。そ以外の非正規職員の方は最低賃金より少し高い賃金のパート職員です。これら、非正規職員の方がいなくなれば、監督署の仕事は回りません。

しかし、監督署の正規職員は、非正規職員の方々の去就には多くは冷淡です。非正規職員が入社してきても、挨拶もなく働き始め、いつの間にか消えて行くことを経験しました。当然、職場での飲み会等にも呼ばれません。明らかに、正規職員・非正規職員の間には壁がありました。と言うより、正規職員にとって、非正規職員の労働条件なんて、総務系の者以外は関心がないのです。

職場内での労働組合での会合においても、「文句を言う、非正規職員はやめてもらってかまわない」と明言する者や、非正規職員の処遇改善は、正規職員の労働条件の低下に繋がることを懸念したりしている者がいて、驚いたこともあります。

非正規職員の数が正規職員より少ない職場において、非正規職員の処遇改善のために必要なものは、正規職員の協力です。正規職員が、非正規職員の処遇改善こそが実は正規職員自体の労働条件の改善につながることを意識しなければなりません。まあ、もっとも、正規職員どおしで人事の足の引っ張りあいだけが盛んな、役所システムでは100年たっても無理でしょう。

変化は、非正規職員が圧倒的に過半数を超える職場から始まります。今回、日本郵政所属の非正規職員が勝訴したことは、そういう意味で当然と言えば当然のような気がします。