公務員と酒(2)

(関ケ原古戦場跡に咲くコスモス・岐阜県関ヶ原町、by T.M)

谷口一刀氏を悼む

私がよく訪問するサイトに「chakuwiki」というものがありました。ここは、「wikipedia」のパロディーのようなサイトで、色々な「ワード」について、誰もがその説明を書き込むことができますが、ユーモアを交えた投稿が掲載条件でした。なかでも「ご当地の噂」は傑作ぞろいの書き込みが多く、私は、自分の住居の横浜市上大岡周辺の噂や近隣都市の評判を暇に飽かせては読んでいました。このように読者に書き込みを許すサイトは「荒れる」ことが多いのですが、ここは管理人がしっかりしているので、いつも知的で楽しい書き込みを楽しめました。

そんなサイトが急に12月初めからアクセスできなくなってしまいました。調べてみると、このサイトの管理人は谷口一刀という40代のウェブデザイナーの方であり、今年の7月に亡くなられて、約20年間続いていたサイトが閉鎖してしまったものだと分かりました。

「chakuwiki」のユーモアでどれだけの者が楽しみ、勇気づけられたことかは、ひと月300万回を超えるアクセス数が証明しています。因みに、これだけのアクセス数がありながら、サイトの中に広告のような者はなく、管理人にはサイトからの収入が一切なかったものと思われます。

そんな素晴らしいサイトを運営していた谷口一刀氏に、敬意と哀悼の意を表すとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。

さて今回は、前々々回に記載した「公務員と酒」の続きです。反響があったもんでやります。(要するに、知合いから「あんなこと書いて大丈夫か」という忠告と、「昔一緒に働いていた人に悪くない」という意見の2件があったもんで、反響があったと判断しました。)

何度もこのブログで書いてきたように、私がこのブログを書く目的のひとつは、労働行政の最前線に立つ労働基準監督署の職員にエールを送るためです。だから、逆に現場の職員の士気や誇りを挫く者は、厚生労働省の幹部であろうと、労働組合の者であろうと、外部の者であろうと、遠慮なく批判します。

私が、公務員の飲み会がいやなのは、「それに出席することが仕事だ」なんぞという説教たれる、勘違いしている者がいることです。職場のコミュニケーションを取ることは大切なことです。しかし、仕事中に個人的な感情を捨て、「報連相(ホウレンソウ)」を行うことは当然なことであり、それが必要なコミュニケーションと言えるでしょう。

労働局や監督署では、「飲み会が仕事」という感覚が蔓延してますから、その仕事の段取りをする人も決められています。小さな課制署では庶務係、大きな方面署では業務課長、労働局では課長補佐等がその役をします。そして回りの者は、その担当者が宴会の支度をするのを当然だと思っています。担当者が宴会好きならまだしも、自分が飲むことをそれほど好きでない人にとっては、それは決してやりがいのある「仕事」ではなかったと思います。辛そうに「宴会」の準備をしていた庶務の方を思い出すたびに、頭が下がります。

そんな役所の体質に、一人反乱をした者がいます。誰かというと、私です。監督官は、退職するまでに、そういう「宴会」を準備する役につかない者もいますが、私は2度ばかりついています。40代前半で某労働局の監督課の末席にいた時と、50代前半で、これもまた某労働局の安全課にいた時です。

監督課にいた時は職場放棄を1回そのことでしています。労働局の基準部の幹部職員が宴会をやった後で、その会費を私に集めて来いと上司である監察官から言われました。私は次のように答えました。

「何で私が、出席もしていない宴会の会費を集めて来なければならないのですか」

監察官は次のように私を叱りました。

「仕事なんだから集めてこい」

この「仕事」という言葉に私は切れました。私は「仕事」というものは、税金で給料が支払われているものだと思っています。公務員どおしの飲み会、それも内輪だけの会(いわば部下が上司にゴマするための会)が仕事になるはずはないと思っています。

私は監察官に、

「今日は気分が悪いから帰る」

と言って、有給休暇取得の手続きをしないで、その日は帰宅しました。職場放棄した訳です。私は頭を冷やして、次の日に出社しましたが、「職場放棄」については不問に処されました。そして、「会費を集める仕事」というのは、その監察官がしていました。

私は、正々堂々と人事上の「処分」というやつを受けてやろうと思っていましたし、その時に一緒に、「勤務時間中に出された宴会の費用を集めて来いという命令」を問題とするつもりでした。でも、監察官の上司である課長は、事実関係を把握していて、私に「職場放棄」の注意さえ与えませんでした。(でも、これって、私が「職場放棄」した時間の給与をもらっているんだから、何の処分もしないことは、おかしいことですよね。)

要するに、みんな分かっているんです。「宴会」を「仕事」と称することはヤバイことであることを。

でも何で、監察官は私に、「頼むから、宴会の会費を集めてきてくれ」と言えなかったのでしょうか。それなら、別に私も集めてきたのに・・・。

公務員にとって、「飲み会」や「宴会」が仕事となるのは、国家公務員倫理法の届け出をした上で、外部の人間と会食する場合だけです。

この「飲み会と公務員」の話題は、今後も時々やるつもりです。

公務員と酒

(関ケ原古戦場徳川家康桃配山陣地・岐阜県関ヶ原町、by T.M)

コロナ禍で、忘年会もままならぬ季節となってきました。早く飲食業に携わる人々が安心して暮らせる時が来ることを祈ります。今日は「公務員と酒」の話です。

最近の若い人は、オジサン達の飲み会に付き合わないそうです。それを嘆く人もいますが、私は当然のような気がします。なぜって?それは私が、現役時代に飲み会が嫌で嫌でたまらなかったせいです。逆に、「飲み会」大好きな方にお伺いしたいのですが、なぜそんなに飲み会をしたいのですが。(ここで言う飲み会とは、職場で行う飲み会のことです。仲間どおしの飲み会のことではありません)

飲み会をすれば、コミュニケーションがよくなるなどと言う方がいますが、不思議に思います。私は、職場の飲み会に何十回もでたことがありますが、その後で不愉快な気持ちになったことが多数あります。

また、最近の若い者は、飲み会での飲み方を知らないなどどという方がいますが、「そういう考えを持っている馬鹿なオジサンとは、一緒に飲みたくない」というのが、飲み会を忌避する若者の本音ではないでしょうか。

私は公務員となる前の数年間、民間企業でシステムエンジニアをやっていました。その民間企業の時の飲み会と役所の飲み会は、まったく違いました。ともかく、役所の飲み会は回数が多く、長いのです。もちろん、世話になった上司を慰労し、しみじみとした楽しい宴会もありましたが、たいていは「ケチくさく」ものでした。

民間企業に居た時の飲み会は次のようなものでした。

「飲み会は、歓送迎会と忘年会・暑気払いの年4回。時間は約2時間。会が終われば、2次会に行きたい者だけいく」

公務員になった時の初めての飲み会は、新入・転入社員の歓迎会という名目で、座敷形式の飲み屋で行われました。しかし、新入・転入社員のことなど話題にも上らず、5時半に始まり延々と9時過ぎまでやっていました。別に話が盛り上がっているわけではありません。ただみんなダラダラと飲んでいるのです。

そんな飲み会があって、2週間後にまた飲み会がありました。今度はなんと署の会議室で、飲み会があったのです。新人は、午後3時過ぎから、近所のスーパーに、寿司や刺身を買いにいかされました。そして、勤務時間中に会議室で宴会の準備をします。5時になったら、役所の出入り口を閉めて宴会開始です。このような、昭和の宴会形態は民間企業から来た者にとっては、本当に理解しがたく、嫌悪すべきものでした。役所内部での飲み会は、私が覚えているかぎり、平成ヒト桁の時代まで続いていたような気がします。

現在では、役所内での非常識な飲み会はなくなりましたが、飲み会におけるパワハラ等はまだまだ健在です。私が退職する時にも、酒に酔うと、「よしこれから説教だ」と言って、部下を無理やり2次会に連れていって、クドクドと下らないことを言う者がいました。

まあ、そんなに嫌なら飲み会など出席しなければいいという意見の人もいるかもしれません。ところが、「飲み会が大事」と思っている者は、「飲み会欠席」を重犯罪と思ういしく、次の日から「仕事上」で散々な嫌がらせをされるのです。分かりやすく言うと、不貞腐れてしまい、挨拶ひとつままならぬ状況です。そういう連中がパワハラ等の現況であることは言うまでもありません。

このブログを読んでいる若い監督官の方、上司との飲み会は「うまくやって」下さい。(「うまくやる」という意味は、さっさと逃げ出す術を身に着けて下さいとの意です。)飲み会で「説教」するような上司に、「あんな者にはならないという教訓」以外は学ぶべきことはありませんから。

 

忘れられた労働問題

(小武川と鳳凰三山・山梨県北杜市、by T.M)

毎週日曜日の午前9時に定点観測しているんですが、先週のこのブログのアクセス数が、1週間の最高値を記録しました。といっても、5000アクセスをちょっと超えたくらいなんですが、1日平均700アクセスを超えた週は初めてなんで嬉しくなってしまいました。こんな、誤字脱字だらけの長文、誰が読んでるのかと、書いてる私も不思議に思います。

もしかしたら、先週はミニ炎上していたのかもしれません。先週の記事を読んだある人から、「何が書いてあるんだかよく分からない」と言われました。確かに、タクシー業界のことを知らない人が読んだら先週の記事は何だか分からないもんだったと思います。でもね、先週の内容は業界関係者が読んだら、けっこう過激で革命的なものだったんですよ。というか、最後の公式はけっこう物議を醸すかもしれません。

以前からアクセス数が伸びる時は、「無給医」「ウーバーイーツ」等を取り上げた時でした。「正規」「非正規」の問題、「名ばかり個人事業主」等の問題が現代の労働問題の旬なのでしょうけど、これからタクシー業界のことも定期的に書いていこうと思います。

さて今日は、前述した「旬の労働問題」でなく、忘れ去られた労働問題のことを書こうと思います。

先週、平日の午後に仕事の都合で横浜駅西口に行きました。長い工事期間を経て先月にオープンしたばかりのJRビル周辺なんぞを少し歩いてみましたが、私の知っていた横浜駅西口ではなくなっていました。新しいビルとショッピングモールですので、人出がとても多く、若い人もたくさんいましたが、コロナ危機なんて忘れ去られているようでした。こんな場所から感染が広がっていくのかなと思いました。

横浜駅周辺の新たな賑わいとは対照的に、地方都市では老舗のデパートが閉鎖や倒産するケースが相次いでいるようです。私も、宮城県・北海道・栃木県の県庁所在地ではない地方都市で勤務してきましたので、少しはそのような街のことが分かる気がします。

私が監督官に就任した40年前には多かったのに、現在ではほとんどなくなった労働問題というのは、「出稼ぎ」と「内職」です。当時は、労働問題が起きると、「出稼ぎ手帳」のチェックをよく行ったものでしたが、現在では交付する自治体がほとんどないそうです。例えば、青森県の統計によると、最盛期の8万人(1974年)から現在では2000人弱となっているようです。

(注)出稼労働者手帳は、出稼労働者に対して出稼元の市町村が交付する手帳であり、労働者は市町村長から、氏名、性別、世帯主との続柄、本籍、現住所、電話番号、生年月日、世帯員の証明を受ける。出稼ぎに出ている期間は、住民票は異動させない。

出稼ぎが減少した理由は、企業が派遣や構内下請けに人材確保の重点を置くようになったことも一因ですが、地方都市に住む人たちが超高齢化してしまって、出稼ぎという形態がほとんどなくなったということが、その主な理由だそうです。(逆に、「出稼労働者」という優良な労働者が確保できなくなったことが、「派遣」「構内下請」の隆盛の一因ともいえます)

「内職」もまた見なくなりました。内職とは、家庭内で主婦の方が行う仕事ですが、その主流は「衣服の縫製」と「電気機械部品の組立」でした(未だに「最低工賃」としては、この2つの業種関係のものが設定されています)。でも、繊維産業・電機産業の衰退により、内職もなくなりました。なによりも「専業主婦」という形態が減少し、内職より実入りの良いパートタイマーが増加しました。一時私は、「データ入力業務」が「内職」の主流になるかと思いましたが、オンラインデジタルデータで情報入手の機会が増えたことと、「企業の機密情報漏洩防止」のため、産業としては成立しませんでした。

現代では、現役の労働基準監督官は「違法派遣」「偽装請負」「正規・非正規の労働条件格差」「名ばかり個人事業主」「外国人労働者への不法行為」等の問題で多忙だと聞きます。それと比較する時、出稼労働者への賃金不払いを調査し、その出稼労働者を専業主婦の奥さんが内職しながら地方都市で待つなんていう光景があった私が現役の時代は、(特に昭和の時代)なんとも牧歌的なものでした。(携帯電話がなく、ビデオ通話なんて夢のまた夢だった時代のことです)

韓ドラと労災と

(津久井湖鳥瞰・相模原市緑区、by T.M)

今日は前半は私の趣味の話です。「労働問題ネタ」は後半します。

テレワークで巣ごもりしていたら、カミさんが一日中私が居ることにイライラしているようなので、NetfliXに加入しました。カミさんは、韓国ドラマの「愛の不時着」を一気見してご機嫌でした。カミさんから、NetfliXの韓ドラを観ることを勧められたのですが、ナショナリストの私としては、頑なに「日本のドラマ」の方が面白いからと信じていました。

ところが、ひょんなことから韓ドラ「アルハンブラ宮殿の思い出」の第1話を観てしまったところ、完全にハマってしまいました。1話70分のドラマを16話を2日で一気見しました。因みに、このドラマは従来の韓ドラファン(中年以降の女性ファン)からはとても評判の悪いドラマです。それもそのはずだと思います。ドラマ題名及び紹介動画から。内容を想像すると「ラブストーリー」のような気がするのですが、実際は「SF・ファンタジー」系の物語であり、「ゴジラとガメラ大好き、宇宙戦艦ヤマトを夢見て、萩尾望都がなつかしく、勇者ヨシヒコに共感するという60代のオタク男」の琴線に触れる物語です。何よりも映像が素晴らしかったです。韓ドラの奥の深さに驚きました。

こんな訳で、立て続けに「VAGA BOND」「梨泰院クラス」を一気見しました。「梨泰院クラス」を観ている時に、週刊少年ジャンプに連載中の国民的マンガ「ワンピース」をオマージュしている箇所が随所に見られ嬉しかったです。それもそのはず、「梨泰院クラス」は、韓国のweb漫画が原作だそうです。

主人公は自分の居酒屋を大きくすることを夢見ていますが,どんな経営者になりたいか尋ねられたところ、「誰よりも自由な経営者になる」と答えました。これは、ワンピースの主人公のルフィが常々言っている言葉と重なります。「オレは海賊王になる。海賊王とは一番自由なヤツだ」

また、梨泰院クラスの主人公が、ミスをした部下をかばう時に、「その仕事はオレが命じたものだ」と言うセリフは、ワンピースの中の「頂上戦争」の場面で、「白ひげ」が言った有名なセリフです。何よりも、梨泰院クラスの中で、主人公の参謀となる女性が主人公に言う言葉です。「私はあなたの、諸葛孔明・レイリー・マーリンのような存在となる」。このレイリーがワンピースの中で、主人公ルフィーを導く「冥王シルバーズ・レイリー」を指すことは言うまでもないことです。
(韓ドラとワンピースについて考察する、還暦過ぎの私はおかしいでしょうか?)

ここから「労働問題ネタ」を書きます。

そんな「梨泰院クラス」の物語の中で、少し気になる場面が出てきました。主人公が過去10年間の間に2回、体に大きな裂傷を伴う大きな労災事故にあったという場面です。これは、現在の日本では、ほぼあり得ません。

日本の雇用者数は約5700万人、年間労働災害発生件数は約13万件(2018年統計)。ハインリッヒの法則から、重大災害は労働災害発生件数の約30分の1と考えられるので、10年間に2回の大きな労働災害に被災する者は約200万人に1名です。私の罹患したギランバレーが10万人に一人の難病と言われていますから、これは相当に希少な数字です。

(注)「ハインリッヒの法則」については、日本の労働災害発生状況がその法則どおり動くかは確証がありません。

もちろん物語の流れの中で、このような場面が描かれた訳ですから、これが真実な訳ではありません。でも気になったので、韓国の労働災害の発生データを調べてみました。すると、驚くべき数値がでてきました。

韓国の労働災害発生率は日本の約2.2倍、死亡災害の発生率は約5.5倍
(注) データの出典元は、「中災防HP・海外トッピクス・韓国労働災害統計」
2017年統計 災害発生千人率「日本2.2、韓国4.8」 死亡災害10万人率「日本1.9、韓国10.5」 

韓国の労働災害が多いのは、労働安全衛生を専門とする者の間には有名でした。私が監督官になった今から約40年ほど前に、造船業者からこんな話を聞きました。
「ある造船業で、1年半の工期の新造船建造中に2人の死亡災害を発生させた。船主(米国の会社)に謝罪したところ、次のように言われた。『同型の船を韓国で作ってもらったところ、工期は6ヶ月だったが、死者は20名だった。だから、いちいち報告しなくてよい』」
当時の両国の安全管理水準の差は、現在では考えられないほど大きかったようです。

日本は現在、半導体・造船で韓国に遅れをとり、どうやらドラマでも韓国に負けているようです。でも、このような安全管理水準の状況で、日本は常にトップランナーでいて欲しいと思います。
そして、韓国については、日本の災害発生率をいつの日か下回って欲しいと思います。
こういう数字の競い合いこそ、両国はすべきであると思います。

(注) 世界的に見るとEUの労働災害発生率がずば抜けていいんだけど(特に英国)、どうも統計の取り方に差があるような気がします。

監督官の虚像と実像(4)

(冬の不忍池、by T.M)

労働基準監督官は一般的に、「恐い」「威張っている」「偉そう」なんていうイメージがあるのかもしれません。しかし、実際にやっている仕事は地味なもんです。居丈高な姿勢が通じるのは一部大企業相手くらいです(もっとも、「逆襲」させれると、大企業ほどやっかいなものはないんですけど)。 

例えば、中小企業の社長さんが、悪意なく法違反をしていた場合について(法の不知等の理由で)、監督官は是正勧告書を手渡し、やさしく法の是正を呼びかけるのです(少なくとも、「私」はそうしてました)。理由は、厳しく指導して、相手が反発し、法違反の是正が遅れるくらいなら、監督官が頭を下げて法違反を手っ取り早くなくした方が良いからです。もちろん、監督官は最後は強権をもって法違反の是正を指導できます(つまり、「書類送検」)、でもそれは手間暇がかかります。良い監督官ほど、是正を促す姿は柔和です。つまり、いざととなれば「送検する」という覚悟ができているからです。無能な監督官ほど、相手が弱いとなれば威張りまくります。そして、相手が怒った時は、どうしたらよいのか分からなくなり、仕事は滞ります。もっとも、これはどこの社会でも同じようです。(私たち監督官が垣間見る「検察官の世界」もそうでした)。 

だから、監督官が相手を説得している姿はもしかした、とても情けない者に映るかもしれません。「税金泥棒」「公務員は楽でいいな」は毎度のこと、時には「会社が潰れたら、おまえの責任だぞ。そん時、労働者がおまえを殺すぞ。」なんていうことを言われます。もっとも、ここまで言われたら、後は是正勧告書の「改善指示日」を待つだけです。その日にまでに、「是正報告書」がでてこなければ、もう一度事業場に行って、法違反の是正がなされていなければ、「司法着手」すればいいだけです。

逆に、事業主が監督官をどれだけ罵っても、後で冷静なれば、何も会社に不利益はおきません。

ブラック企業相手には、監督官は厳しくいきますが、要は期日までに違反を是正させりゃいいだけですから、監督官はそのためには、いくらでも頭を下げます(下げるべきです)。 

まあ、そんな訳で、監督官の実像はけして「偉そう」なことはないんだということを申し上げておきます。 

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ここまで書いたら、成人式の日に不祥事を起こした呉服の着付け店「ハレノヒ」の賃金不払いのニュースが飛び込んできました。何でも、過去5回是正勧告書を交付していたとのこと。強権に移行するタイミングを、監督署は確かに逸したのかなと、少し心配になりました。