長時間労働規制の問題点(22)


(上越線の水上号 ,by T.M)

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今日は、某社の安全大会。私は、そこで1時間ばかり、「長時間労働と労働衛生」の話をします。
「働き方改革」とは、要するに「育児と介護」の時間を労働者が確保するために行われるものです。
その方法は
    ①「長時間労働の抑制」
    ②「正規雇用労働者と非正規雇用の労働者の格差を縮める」
    ③「労働生産性を高くする」
ということで、その結果
    「労働者の家庭にいる時間を長くし、育児と介護時間を確保し」
    「女性・高齢者(非正規労働者となる可能性大)の社会進出を拡大し」
    「子育てしやすい環境を整え出生率を上げる」
というものです。
そんな流れの中で、現在の労働局の「長時間労働の取締り」が行われています。
ロジックは理解できますが、上手くいくのでしょうか(特に「労働生産性の向上」の箇所)。成功したら、とても素晴らしいことだとは思います。
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(前回ブログの続きを書きます。)
労働基準監督署は、「違反を指摘するが、違反の是正方法は教えてくれない」とよく言われます。
もちろん、違反を勧告する監督署側に立って言うならば、「何甘えたこと言ってるんだ」ということになります。監督署は民間企業の「経営」の部分には、口を出しません。行政が、その部分に指示をするということは、自由社会ではなくなるからです。従って、行政は「法違反だから、それをするな」と言うことしかできません。その理屈は、私も理解しています。

しかし、「是正勧告書」でそれまで企業が行ってきた「文化」を否定して、それを変えろという訳です。それが、「100%悪い文化」だとしても、何かしら方向性のようなものを示す必要があると思います。(「100%悪い文化」などあるのでしょうか)

長時間労働規制の問題点(21)


(高原列車・小海線と甲斐駒ケ岳、by T.M)

(前回ブログの続きを書きます。)
これは実際にあった話です。

労働基準監督署がある大企業の本社の総務部に「長時間労働を指摘する」是正勧告書を交付しました。そのため、総務部は、全国の各支店に通達として、「労働時間の適正化」を指示しました。すると、何が行われたかというと、各支店では「自主的な労働時間隠し」が行われたのです。

通達を受けた支店の立場としては、他に方法がなかったのです。長年続いた長時間労働の体質は、一通の文書で変えられないのです。目の前にある仕事を処理することと、総務部の意向に沿うことを両立するためには、違法なこととは知りつつも、「労働時間隠し」をして、嘘の報告を総務にするしかなかったのです。各支店から、嘘の報告を受けた総務は監督署に、「法違反は是正しました」との報告書を提出しました。

それから、数年後のことです。最初に「労働時間隠し」を行った支店は、それが常態化してしまいました。それは、あたり前です。帳簿上は「長時間労働がない」のですから、支店の業務内容を変える必要性がないのです。そのような状況を不満に思った1名の労働者が監督署に申告しました。そして、監督署は数年前の是正報告の一件もあり、悪質事業場としてその会社を送検しました。

このブログを読んでいらっしゃる民間企業の関係者の方のなかには、この事件が起こりうる可能性を実感できると思います。私は最近、監督署が大々的に宣伝して送検した事例も、これに類するような事案ではなかったかと思います。

「労働時間隠し」を行う事業場は悪質です。何より、労働者を傷つけています。しかし、監督署の指導も、もう少し工夫すればと思う点もあります。

長時間労働規制の問題点(19)


(チューリップと八ヶ岳、by T.M)

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雑誌「労働安全衛生広報」に、私が寄稿した記事が掲載されました。労働安全衛生マネジメントシステムに関する雑文ですが、御興味のある方は、機会がありましたら、読んで見て下さい。
また、雑誌「日経ビジネス」の労働基準行政の特集記事に、数行ですが私のインタビュー記事が掲載されました。
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(前回ブログの続きを書きます。)
本当にどっかの団体が、私の「個別残業時間契約(36協定不要論)」を取り上げてくれないでしょうか。問題提起としては、絶対にいい案だと思います。

もっとも、こんな案が本当に本格的に議論されたとしたら、経営側と組合側の双方から叩かれると予測します。

まず、経営側は、「労働者のチームプレー」ができないことを指摘するでしょう。例えば、製造業や建設業のように、ひとつの仕事をチームとして行っているところは、工場ラインの操業や建築工事について、残業命令が出せなければ困ってしまいます。
(もっとも、ホワイトカラーや研究職といった人たちには、意外と歓迎される可能性もあります)

労働組合からは、もっとひどい反発を受けるでしょう。
何しろ、連合は
 「採用面接で、求職者に対し、残業が可能であるか尋ねる会社はブラック企業だ。」
と主張しているくらいです。
残業するかしないかの権限を、労働者個人に委ねるべきだなどと述べたら、怒られてしまいそうです。
(採用面接時のこの質問が全てNGであるとは思いません。採用後に長時間労働をさせるつもりで、企業がこの質問をすることはトンデモないことだと思いますが、色々な事情を抱えて求職する、主婦のパートタイマー等に対しては、当然の質問だと思います。)

さて、次回からは、長時間労働に係る、私の第2の提案を記載します。

長時間労働規制の問題点(20)


(ナノハナと甲斐駒ケ岳、by T.M)

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6月、7月は安全週間準備月間から安全週間へ向かう、労働安全衛生コンサルタントの稼ぎ時。お陰様で、去年は同時期に3本しか入ってなかった「安全講和の依頼」が今年は8本。そして、セミナー2本を予定しています。今年の講演依頼の特徴は、「長時間労働と労働衛生」について話してくれという要望が多いことです。これが世の流れのようです。
しかし、8月には1本も仕事が入っていません。頼まれていた原稿書きでもしてようかな。
明日の暮らしが見えない自営業の侘しさを感じています。
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(前回ブログの続きを書きます。)
私の長時間労働問題対策への第2番目の提言をします。
それは、監督署が事業場に対し、長時間労働が問題だとして是正勧告書を交付する場合は、「是正期間を最大1年程度の長期間」の余裕を見て欲しいということです。
現行では、多分「1ヶ月」程度の期間をもって、会社の労働時間の改善を求めていると思います。しかし、1ヶ月間では長時間労働体質の会社を劇的に変化させることはできません。

現在、労働局では、全社的な改善を求めることが目的で大企業の本社を狙って臨検監督を実施しているそうです。
しかし、本社の総務に是正勧告書を交付して、「貴社の長時間労働を何とかしろ」と指導しても、総務は困惑するばかりでしょう。なぜなら、大きな企業になればなるほど、総務は営業やら工場等の各部署に対し、監督署の指導前から「長時間労働をするな」という指示を出しているはずだからです。
総務が、それをしても、それまで長時間労働が無くならなかったということは、各部署で何かしらの理由があるということです。

長時間労働規制の問題点(18)

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(ウオール街のワシントン像)

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労働基準法の改正についてですが、今国会で成立するのでしょうか・・・
共謀罪のことばかり話題になっているようですが、会期は6月18日までです。
「働き方改革」とは、少子高齢化社会に向けて、「子育てと介護」の問題をどうにかすることを目的としていたはず。何か労働時間規制のことばかり先行しています。
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(前回ブログの続きを書きます。)
「36協定(労使協定)」を締結する主旨としては、「労働者個人の立場は弱いから、団体で事業主と交渉する」といったものです。私はこの考えを理解しますが、昭和50年代までの労働組合が強かった時代ならまだしも、中小企業では組織率が壊滅的な現在ではあまり現実的な考えとは思えません。

ー もちろん、「だから労働組合が強くならなければならない」「一人でも加入できるような、NPO型労働組合が増えるべきだ」「今後は、高齢者、パートタイマー、非正規労働者等のためにこそ労働組合が必要だ」等の意見があることは分かりますが、そもそも労働組合とは「組合費を払っても加入したい」という労働者がいるかどうかが前提です。-

私は次のような、提案をします。
 1 時間外労働規制の根本は、個別労働者との合意によるものとすべきである。
    (これを「個別残業時間契約」と呼びます)

 2 「個別残業時間契約」は、2週間の期限の猶予をもって、労働者側から破棄できるものとする。

 3 「個別残業時間契約」を、個人から委任された労働組合が行うことを認める

このようにすれば、労働者の権利も守られるのではないでしょうか。