表彰のこと(6)

CA3I0570
CA3I0570

(M氏寄贈)

10年以上前の局長出席のプレゼーション会議で、労働安全衛生で表彰される事業場の「身体障碍者の雇用率」を表彰の調査内容に含めるべきだと決まり、労働基準監督署の現場は大混乱となったことがあります。
最終段階での新しい項目についての追加調査は、それまで協力してきてくれた推薦会社との関係で調査がやりにくいものです。
推薦会社にとって、労働安全衛生のことが理由で表彰が為されないのであるなら、自分たちの力不足ということで納得します。しかし、膨大な資料を提出し、書類を作成した後で、安全衛生に関係しないことで、あなたを落選させましたでは、行政に対し不信感を持ってしまうのです。

現場と局幹部の意思の不疎通は問題ですし、それが、本当に必要なことであるなら、調査開始前にそれを提案する機会はいつでもあったのだから、プレゼンテーションの時に問題にして欲しくなかったいうのが現場の本音です。
それで、実際に何か月間も労働基準監督署の調査に協力した事業場が、推薦を辞退したケースも発生しました。

さて、表彰式の当日の運営についても少し問題点を提起します。
数年前までは、表彰式はホテルの一室を借り、神奈川県下の全労働基準監督署長が集まり、表彰式を実施し、その後にはそこでパーティとなりました。現在は局の会議室で局長が表彰状を渡し、大臣表彰を伝達するだけです。
このように、質素・簡略となったのは、当然予算の関係であるが、表彰式は誰のためにあるのかを考えると残念だと思います。表彰される人が華やかな気分になる場が必要だと思うからです。
このことに予算を使用することは、社会的な非難は受けないでしょうから、ここは、ぜひとも労働局の予算を遣い、栄えある人をもてなすべきでしょう。
局幹部が表彰される人々に対し、晴れがましい場で「受賞おめでとうございます。(そして)ありがとうございます。」と述べる機会があってもいいと思います。

表彰のこと(5)

CA3I0679
CA3I0679

(M氏寄贈)

前回、「労働局は褒めることが下手」という話をしましたが、私が経験した「最低な表彰式」というのは、他の役所のものでした。ある地方公共団体の話です。私は労働局の職員として、その行事に参加していました。式典は交通安全に長年協力してきた、民間の人々を称えるものでした。式典の最初に、その地方公共団体の首長はこう述べました。
「最近物忘れが激しくて、今日の催し物は、昨日やった会と同じじゃないかと思い、秘書に尋ねたら、別の会だったんですよ。ハハハ・・・」
この首長は選挙で選ばれている人ですが、選挙民に対しては、普段から自分の部下を非難する姿勢をとっています。だから、軽口を述べ、自分は役人とは違うというポーズを取りたかったのかもしれません。
「×××長○○○賞」といって、自分の役職で賞状を渡す人たちが最前列に座る中、彼は「今日の催しなんて、毎日似たような会が続くんで、よく覚えてない」と言ってしまった訳です。
表彰される人は当然社会の片隅で立派なことをしてきた人たちであり、表彰されるということで晴れがましい気分になっていて、自分の家族たちにも話をしていたかもしれないのに、彼はその人たちの事蹟を表彰式の日に侮辱したのです。

さて、労働局の表彰のことに話を戻します。
各署から表彰の推薦が局に上がってきた後は、今度は法律で定められた労働災害防止団体等の推薦を受理します。そして、それを局の安全課及び健康課内で討議し、どこを表彰する、どこを落とすの案を作成します。そして、その後、いよいよ神奈川労働局内の最高決定機関である局長・部長会議で、候補事業場のプレゼンテーションを行い、最後の了承を得る訳ですが、中にはここで、ストップがかかるケースもあります。

表彰のこと(4)

CA3I0712
CA3I0712

(山梨県大月市で撮影、カタクリの花、M氏から頂きました)

安全課の表彰担当者であった時に、表彰事業場の事蹟を作成しようとしたところ、各署が作成する「表彰の理由」に、このアピールポイントがほとんど記載されてなく、表彰理由について「安全管理体制、安全教育、労働安全衛生マネジメントシステム、リスクアセスメント」等が述べられているだけなので、事蹟が書けず困ったことがありました。
安全管理体制等が優良なことは、表彰される会社にとっては、あたり前のことです。この「あたり前」のことをマンネリ化しないような、継続できるような努力を各会社は必ずしているはずなので、それこそが表彰理由となるのです。
この「あたり前の継続」は、尊くて難しいものです。そして、その継続が存在する限り、無災害1億時間も夢ではありません。
そんな訳で、事蹟を書く時に、署が記載した文書を無視して、会社作成の資料に目を通してみました。すると、すべての事業場で、このことについて何らかの独自対策を行っていることが判明しました。

例えば、「安全道場」なるものを企業内に作成し、活用している事例がありました。「安全道場」というのは、なんとも素晴らしいネーミングだと思いました。実態は、安全衛生に係る研究機関であり教育機関なのでしょうが、そのネーミングに会社の意気込みを感じます。ところが、署の報告書では、その活動の実態が一切記載されていませんでした。また、あるコンプレッサーメーカーの企業のトップによる「安全宣言」は、それは美しく詩的で、私は思わず表彰式の神奈川労働局長の挨拶文にその一節を導入して下案としてしまいました(私は退職時にその文章のコピーを持ってこなかったことを後悔しています)。

労働局という役所は、企業の不手際を指摘することには長けていますが、褒めることが苦手なのです。もちろん、これは労働局が、基本的に取締り機関であることが理由です。

表彰のこと(3)

CA3I0915
CA3I0915

(丹沢のアカヤシオです。M氏から頂きました)

表彰のアピールポイントについて、もう少し詳しく書きます。

私が藤沢労働基準監督署の安全衛生課長をしていた時に、管内のヨーグルト製造業者を「局長奨励賞」の対象に推薦したことがあります。
その会社は最終的に「厚生労働大臣優良賞」まで受賞しましたが、その会社のアピールポイントは「ドライフロア」です。食料品製品製造業は災害多発業種であり、その中でも「すべった転んだ災害」が多いものです。そこで、この会社では「転倒の原因となる床の湿潤化」に着目し、ドライフロア化に取り組みました。例えば、外気と温度差があるパイプの全個所に布をまく、蒸気の排気箇所を設置する、バルブ箇所には必ず水滴防止措置を施す等です。こう記載すると簡単なようですが、床を滑らなくするために、工場の何千もの箇所を特定し、それに措置を施した工場担当者は、本当に凄いことをしたと思います。
元々、工場見学には積極的な会社でしたが、ヨーグルト目当てに来場する家族連れ以外にも、この設備を目当てに来る技術屋さんも多いと聞きます。実際私も、他署に転勤した後で、この工場の見学を災害多発の事業者に薦めたことも何回かありました。

このように、表彰のために重要なのアピールポイントについてですが、署から局に推薦が挙がってくる時に、あまり強調されてないケースも多いのです。つまり、署がアピールポイントというものを強調せずに、単に「何年間も災害が発生していないから」といった理由で推薦されてくるのです。これは、その署の業務多忙が最大の原因ですが、書類上の数字に気を取られ、推薦会社の長所を見落としていることは、署の姿勢として非常に残念な場合があります。