メンタルと過労死(3)


(写真は、私のウチに突然やって来て、猫のごはんを食べるタヌキです。まだ、子ダヌキで人間を恐れていませんが、可哀そうに、病気(疥癬病)で毛が全て抜けてしまったようで、不気味な様子です。ちなみに、自宅は、横浜市内ですが、タヌキ、アライグマ、ハクビシンを見かけることがあります。)

  平成 3年 電通の若手社員が自殺。平成12年に最高裁判決で労災認定。
  平成25年 電通での今回の過労自殺。
  平成26年 関西電力で、事故処理にあたっていた課長職の職員が過労自殺。
  平成27年 神奈川労働局で、大手電機メーカーの職員が長時間労働で鬱病を発症させたことを理由に同社を書類送検 等 

マスコミ等で話題になっている、これらの事件の共通項目は、みなメンタル不調となり、死亡あるいは長期休職となっっているということです。
約30年前の厚生労働省の「過労で人は死なない」という見解は、「ストレス」という要素を考慮する時に、明らかに間違っていたと言えます。  

 もっとも、ストレスで死に至るこというとは、お医者様も当時から認めてはいらっしゃったとは思います。問題は、「心因的ストレス」は長時間労働以外でも発生するので、死に至らしめたストレスが長時間労働に起因するものであるかが判然としないということが、長く過労死の労災認定を遅らせてきた問題です。

ストレスが原因で自殺した者について、そのストレスが「職場の問題」から来るものか、「家庭内問題を含めたプライベートの問題」に由来するものなのか、多くは両者の複合的な要素が自殺の原因となるケースが多いので、労災認定の時は難しい判断を要求されるのです。

因みに、過労死の平成27年度の労災認定件数ですが、
   脳・心臓疾患       96件
   ストレスを原因とした自殺 93件
      (厚生労働省発表)
で、心臓麻痺や脳梗塞の発生件数と、自殺の発生件数はほぼ同じとなっています。

                          
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メンタルと過労死(2)

(菜の花、by T.M)

入省当時(33年前)の新人監督官研修で,こんなことを仰っていた、お医者様がいました。

「人は過労では死なない。だから過労死なんてナンセンスだ。千日回峰を見てみろ。人は過労で死ぬ前に意識を失って倒れるものだ。」

(注)千日回峰行については、下記リンク参照(出典:ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E6%97%A5%E5%9B%9E%E5%B3%B0%E8%A1%8C_(%E6%AF%94%E5%8F%A1%E5%B1%B1)

確かに、純粋な過労により、「脳疾患」や「心臓疾患」を引き起こし死亡にまで至る例は、当時のお医者様の多くが主張されていたように、ほとんど有り得ないのかもしれません。
当時のお医者様達は、「ストレス」という要素をまったく考慮してませんでした。

「長時間労働」で直接的に肉体を損傷する可能性は低くても、「長時間労働を原因としたストレス」によって人は死に至ることが発生します。

例えば、あの東日本大震災の時の、津波の後の「避難所」の生活の事例です。そこの生活によるストレスで、ある人は鬱となり衰弱し死に、ある人は脳梗塞等を患いました。
平成24年8月の復興庁の調査では、震災関連死のなかで、「避難所等の生活によるストレスからの死亡者数」を184名と発表しました。津波の死者は、3月11日に死亡した者だけが記録されているようですが、実はもっと多いのです。

現代の日本で普通に暮らして人々が、飲料水と食料だけはかろうじて確保できたとしても、水洗トイレが使えないため人々の排泄物が身近に存在し、おまけに掃除をする綺麗な水はなく、風呂には数日おきにしか入れず、プライバシーがまったくない長期の生活を強いられるとしたら、そのストレスはどれだけ過大でしょうか。

メンタルと過労死(1)

(チャップリン作、「モダンタイムス」より)

1936年に制作された、チャップリンの「モダンタイムス」の話です。

チャップリン扮する工場労働者は、ベルトコンバヤーの流れ作業に従事していますが、長時間労働を続けたあげく、機械に巻き込まれるというトラブルに会い、精神を病んでしまいます。彼(チャップリン)は精神病院に入院しますが、退院した時には会社から既に解雇されていて、紆余曲折の末ホームレスとなってしまうのです。その後、彼はポーレット・ゴダール扮する少女と出会うことにより、精神が救済され、少女と一緒に現実に立向かうため旅立つところで映画は終わります。

ポーレット・ゴダールのような女性に出会えるなら、このような人生もまたいいかと思えますが、現実の社会ではなかなかこうはいかず、メンタル不調に陥った時点で、生活に色々な支障をきたすことが実際ではないでしょうか。

現代の日本で、過労が原因で労災事故にあった労働者が、そのトラウマからメンタル不調となり休業したならば、確実に労災認定されますし、病院に長期入院したとしても、解雇されることはなく、職場復帰を会社は待つということになります。そのような社会的なフォローは、チャップリンの時代より現代の方が整備されています。

しかし、今でも通用するシチュエーションを描く映画を、80年前に作ったチャップリンは、やはり天才だったのでしょう。
(それとも、労働問題の本質は80年前とあまり変わっていないということでしょうか)

さて、今回からは「過労死等を考えるというテーマ」でブログを書きます。

私が新監であった頃の30年前は、まだ、過労死の認定基準もなく、厚生労働省の正式見解としては、「人は過労が原因では死なない」というものでした。
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ブログ再開にあたって

(秋谷の夕暮れ、by T.M)

お久しぶりです。
2月初めからの、ブログの中断をお詫びします。申し訳ございませんでした。

中断理由については、ある友人から、「あの事件のこと、書いたらまずいんじゃないの」と忠告を受けたためです。
その事件とは、新聞発表もされていないのに、「私しか知りえない事実」を公表しているというものでした。

私は、やばそうな事案については、「会社」「個人」が特定されないように、「業種」「役職」を変えて書いているつもりでしたが、そういえば、「×××」については、レアケースですし、まだ当事者同士で紛糾中ですので、読む人が読めば事件の裏話のことが分かってしまうので、ブログから削除することとしました。
ついては、「どこを削除した」ということが分かると、何の事件かも分かってしまうので、11月以降の労働時間関係の記事をすべて削除しました。
「私及び行政の内部にいた者しか知りえない事実」をもって、特定の「個人」及び「企業」を誹謗しないように、今後も努めてまいります。

言い訳をするなら、ブログのアクセス数が多くなってきたので、知人も心配して忠告してくれたもので、他の元労働基準監督官の雑誌への掲載記事なんぞ読むと、やり過ぎと思えるものが多々あり、私のブログはそれよりましだなどと思うのですが・・・。

少し、近況報告します。
独立から1年。苦しいながらも、ポツポツと仕事も定期的に入ってくるようになりました。
今までは、特定のグループ内の講演会(安全大会、技能講習等教育関係)が中心でしたが、5月には一般向けセミナーも予定され、雑誌への原稿掲載も決まりました。まだまだ手探りの日々が続きますが、一筋の光明だけはある状態です。

皆さま、今後ともよろしくお願いします。

追記
私の監督官の後輩、そして私より早く独立し、福岡で社労士を開業した原論氏が、今度、本を出すそうです。
  「労基署は見ている」 日経新聞社
楽しみです。

(本の紹介のURLです↓)

https://www.amazon.co.jp/%E5%8A%B4%E5%9F%BA%E7%BD%B2%E3%81%AF%E8%A6%8B%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82-%E6%97%A5%E7%B5%8C%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E5%8E%9F-%E8%AB%96/dp/4532263352