(先日は私のペットの3回忌でした)
監督署が倒産事業場に対し、前回説明した未払賃金の立替払いの事務手続きを行う場合、一番の障壁となるケースは「未払賃金額を証明する書類」が散逸してしまうことです。労働者個々の未払賃金額が確定できなければ、公的資金(労働保険料)で救済できません。そのためには、「賃金台帳」や「タイムカード」の確保が必用です。
(注)過去には、「事業主」と「労働者」が結託して、この制度を悪用して不正受給をした者もいました。立替払いの上限金額は「296万円」ですから、悪い事をかんがえる奴もでてきます。
事業場が手形の不渡りを出し、銀行取引停止処分となると、事業場の事実上の業務停止となり、破産が決定します。事業主はこの手形の決済日前日までは、何とかしようと金策に走り回ります(この辺の状況は、「陸王」や「半沢直樹」の原作者である、元銀行マンの池井戸潤氏の小説に鮮やかに描かれています)。そして、万策尽きた時に、経営者は「弁護士に依頼し倒産するか」か「夜逃げするか」どちらかを選択するしかないのです(お気の毒なことですが、「自殺」してしまう人もいます。実を言うと「はれのひ」の経営者についても、私はそれを心配していました)。
不渡りの情報が公けになると、債権者が事業場の事務所に押しかけます。そして、債権を回収しようと、事務所に金目のものを片っ端からもっていってしまいます。これが、法律に違反している行為であるかどうかは微妙な所です。
あるヘアーサロンが倒産した時のことです。事業主が行方不明となり、賃金不払いが発生しましたが、そこの雇われ店長が私(監督署の事件担当者)に尋ねました。
「レジの中に、売上金が残っているのですが、どうしましょうか。」
私は答えました。
「あなたが、責任をもって預かっていて下さい。そして、事業主が現れた時にどうするかを相談して下さい。あなたの身の安全のために、そのお金があることは他の債権者に黙っていた方がいいです」
でも、その時私は内心こう思っていました。
「何て正直な人だ。そんな金、未払賃金のかわりにもらっておけばいいんだ。私や事業主には事後報告でかまわないのに・・・」
役人である私は、声に出してそれを言えないのです。