タクシーとクレジットカード

(浜松市スズキ本社のスズキ歴史館、by T.M)

先日、神奈川県内のある私鉄駅からタクシーに乗りました。そこで運転手さんと世間話が盛り上がったんですが、「支払い」のことに話が及ぶと、「クレジットカードやパスモ等のキャッシュレス決済の手数料はタクシー運転手の負担になる」という事実を教えてくれました。

私は驚きました。そういう噂を聞いてはいたんですが、何か昔の地方の小さいタクシー会社の話で、まさか神奈川県に本社を置く、大きなタクシー会社が現在でもそんなことをしているとは思いもしませんでした。詳しく聞くと、神奈川県内では、「キャッシュレス決済手数料」が運転手持ちの事業場もあればそうでない事業場もあるとのことでした。私はその時に手持ちの現金が少なくて、パスモで支払ったのですが、なんか運転手さんに負担をかけているようで申し訳ない気分がしました。

私は運転手さんに、「労働基準監督署に相談に行ったのか」を尋ねたところ、「労働組合が相談に行っているが何もしてくれない」とのことでした。私は「監督署は何をしているんだ」と思いましたが、自分が現役の時に相談こられたら、けっこう悩んだろうなと思いました。

これって、「労働基準法違反が成立しているか」と言われると、ちょっと考えます。

「業務に係る費用が労働者負担」と言えば、昔派遣業で問題となった「データ装備費等」のことを思い出します。これは、「保険や装備品の費用について、労働者の賃金から天引きする」というもので、明らかに労働基準法第24条(賃金不払)違反でした。それと比較して、タクシー運転手さんの「手数料運転手負担」というのは、少し違うと思います。労働契約書の文言を少し変えるだけで、そのような状況は合法となることが可能です。

(注1)具体的な事例を挙げますが、前提として分かってもらいたいのは、タクシーの運転手の賃金は「オール歩合制」がほとんどだということです。専門用語で「A型賃金」「B型賃金」「AB型賃金」とか色々言うけど、私はオール歩合制(B型賃金)以外のタクシー会社っていうのは知りません。

(注2)リース型賃金体系っていうのもあって、一定の賃金を会社に支払えば、後の売り上げはすべて労働者のものという賃金体系もあります。これはオール歩合給の変形制です。この賃金体系を始めた、関西のタクシー会社の名前から「○〇方式」と呼ばれています。

さて、ここで60%の歩合率のタクシー会社があるとします。「1000円」の売り上げがあれば「600円」が運転手のものです。ここで、「50円のキャッシュレス手数料」が発生したとします。会社側が、この50円について、月額の賃金から控除していれば、それは労働基準法第24条違反になるような気がします。しかし、歩合率そのものを下げてしまえばどうでしょうか。つまり、「キャッシュレス手数料が発生した場合は、歩合率を55%」とするという労働契約にしてしまうのです。これなら、賃金不払いにはならないかもしれません。

また、「売り上げからキャッシュレス手数料を控除した金額から歩合給を算定する」という方式でも、労働基準法違反は発生しないと思われます。

いずれにせよ、ストレートに「運転手がキャッシュレス手数料を支払う」というような労働条件にしているのでなく、「キャッシュレス支払い時の歩合給の賃金体系の変更」で、労働基準法違反ではないと主張できます。

でも、これってある意味言葉遊びです。キャッシュレス社会を推進していくと、この「手数料」という問題は必ず発生します。それを「誰が負担するのか」という部分で「労働者の賃金から負担する」ということは間違っています。

でも、では「会社が負担するのか」ということになれば、それもまたおかしい気がします。国が進める、「キャッシュレス社会」の費用を国民が一方的に負担しなければならないのでしょうか。

キャッシュレス社会への推進役は経産省だそうです。国は「貨幣をなくす」ことで、社会全体の効率を高め、社会的な費用削減を目指しているのでしょう。ならば、この「手数料」の問題こそ、減税等で最優先に取り組むべきことだと思います。

何か、「タクシー運転手さんとの世間話」から「キャッシュレス社会でのあるべき労使関係」というものを考えてしまいました。