運転士とトイレ

(にっぽん丸・横浜ハンマーヘッド、by T.M)

ブログネタに困る先週のような週もあれば、今週のように書いてみたい、読んで頂きたいと思うネタがたくさんでてくる週もあります。

1 新幹線の運転手さんが、急に腹痛をもよおして、運転席を3分離れた事件。

2 アスベスト訴訟で最高裁が国に賠償を命じ、国と原告団が和解した事件

3 2019年に外国人技能実習生として鋳物製造会社で作業中、右腕をベルトコンベヤーに巻き込まれて切断したのは、従業員が作業内容の説明を通訳なしで行うなど指導監督が不十分だったためとして、ベトナム国籍の20代男性が、同社に総額約8960万円の損害賠償を求める訴えを起こしたこと

どのネタをとっても、ひと記事は書けそうです。また、現在CSの「アジアドラマチャンネル」で放送されている、「錐」(2016年・韓国ドラマ)は「労働問題」がテーマの作品で、正規・非正規の問題、パワハラ問題等日本の労働現場でもよく見かけられる問題を取り上げられていますが、とても出来が良いもので、まだ3話目が終わったところですが、今後紹介していきたと思います。

前回の記事で、今週は「トラック屋さんの労働問題」を書きますと宣言しましたが、急遽予定を変更して「新幹線の運転手さん」ネタを書きます。「トラック屋さんの労働問題」は後日に回します。

まずは、状況のおさらいです。

(FNNプライムオンライン・5月21日)

時速150kmで走行中の新幹線で、運転士が腹痛にともなうトイレのため、運転室を離れるトラブルがあった。

JR東海・近藤雅文運輸営業部長は「極めて不適切で、おわび申しあげます。申し訳ございませんでした」と述べた。

JR東海によると、5月16日に東京から新大阪行きの東海道新幹線で、出発からおよそ40分後、運転士が腹痛を感じ、車掌が運転室に到着したあと、トイレに行くため、およそ3分間運転室を離れたという。

新幹線は、時速およそ150kmで走行中だった。

国土交通省は、省令で「運転士は走行中に席を離れてはいけない」としていて、今後、行政処分などをするかどうか検討する方針。

この記事に対し、yahooのコメントは運転手に同情的で、JR東海の管理体制の不備を指摘するものが多かったように思えます。私もそれに同感です。

上記のようなトラブルですが、実は私も経験があります。法定の安全教育の最中に便意を生じてしまったのです。私は、講義途中の休憩時間を予定より30分くらい早く取って難を逃れました。慌ててトイレに駆け込んだので、気付いている受講生はいたと思います(全員にばれていたりして・・・)。

「バレリーナは、踊る前に緊張でトイレにいきたくならないのでしょうか?」「裁判所の裁判官は、重大な事件の審理中にもようしたらどうするのでしょうか?」「サッカー選手の試合中の用足しはどうなっているのでしょうか」 けっこうみんな悩んでいると思います。

新幹線の運転手と似た職業では、航空機のパイロットがありますが、必ず2人ひと組でペアを組んでいますので、この悩みはなさそうです。だから、新幹線の運転手も2人ひと組にしろという意見がありますが、「だったら高速バスの運転手はどうなるんだ」という意見もあります。

私はこの問題を、労働安全衛生の立場から論じてみたいと思います。JR東海の見解からすると「事故が起きたかもしれない」ということですから、それは「運転手」や「車掌」も被災するということを意味しますから、「労働安全衛生」の観点からも再発防止対策を講じる必要があるからです。

まずJR東海の「極めて不適切で、おわび申しあげます。申し訳ございませんでした」という言葉ですが、「過去に何件このような事態があったのか」ということを今後調査することを付け足した方が良かったと思います(実際はそうであって、報道がされていないだけなのかもしれませんが)。

このような事態の時には、JR東海の規定によると「運行を管理する指令所に連絡して指示を仰ぎ、免許のある車掌がいる場合は運転を交代し、そうでない場合は、運転士の判断で新幹線を停止させることもできる」ということですが、この規定に照らすと今回は「車掌が免許を所有していなかった」ということが問題になったようですが、それならやはりJR東海の管理ミスであり、運転手の責任は軽いと思います。

JR東海は、労働安全衛生法に基づいて、今回の「ヒヤリハット事故」(実際に事故に至らなかった危険事象をこう呼びます)について、労働安全衛生委員会で討議すべきでしょう。労働安全衛生委員会のメンバーはその半数が、労働者の過半数の代表者が推薦した者(あるいは過半数労働組合により推薦された者)で構成されています。そこで、今回の件について、労働側メンバーから職場の実態を聞くといった手続きが必要になります。

新幹線が開業してから約60年。今回のヒヤリハット事例は、絶対に過去に存在したはずですから、まずはその時にどのような対処が現場でなされたのか、現場の労働者も言いたいことがあるのではないでしょうから、それを確認することが再発防止の第一歩です。