建設アスベスト訴訟について

(山梨の林道、by T.M)

「特別労働監督官 チョ・ジャンプン」がアジアドラマで始まります。2019年の韓国ドラマで、韓国の労働基準監督官の物語ですが、評判がよさそうなので、観てみようと思います。

チョ・ジンガブは幼い頃から、正義感が強く曲がったことが大嫌いな熱血漢で、得意の柔道で国家代表選手になることを期待されていたが、試合中の不正に抗議したことが原因で選手生命を絶たれる。その後特技を活かし高校の体育教師になるが、教え子のドックが優等性のドハらから脅迫を受けていることを知り、実行犯の生徒を殴ったことから教職を追われる。その後公務員試験を受け、ジンガブは雇用労働部(日本でいう労働基準監督署)に配属される。度重なる問題から妻のミランに別れを告げられたジンガブは今度こそは問題を起こさないようにと事なかれ主義の平凡な公務員になる。ある日、バス運転手たちがストを起こし、解決を命じられたジンガブはいやいやながら現場に向かう。そこで元教え子のソヌと再会する。以前と変わらぬ瞳のソヌに助けを求められたジンガブは忘れていた情熱を取り戻し巨悪の不正を暴くため立ち上がる!

なんか、日本の「ダンダリン」よりも面白そうです。と言うか、「ダンダリン」は竹内結子が良かったけど、内容的にはイマイチという感じでした・・・

さて、今日の話題は、「一人親方の労働安全衛生についてです。まずはリンクを張ります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000841259.pdf

これは、今月11日に、建設アスベスト訴訟において国が敗訴の最高裁判決を受け、厚生労働省の労働政策審議会安全衛生分科会が今後の対応を検討した時に、厚生労働省から委員に手渡された資料です。議事録はまだ公開されていないので、どのような意見が出たのかは分からないのですが、今後が気になります。

さて、この裁判のことを少し説明します。

建設アスベスト訴訟とは、建設現場で働き、建材に含まれるアスベストが原因で、病気になった方々が、国と建材メーカーに対して損害賠償を求めた訴訟ですが、本年5月に原告団は、最高裁判所で勝利を勝ち取りました。

この裁判判決で重要なことは、「一人親方」と呼ばれる個人事業主の人々に対しても、「人体への危険は労働者であってもなくても変わらない。労働者にあたらない作業員も保護されるべきだ」と指摘し、国の責任を認めたことです。

最高裁はその根拠として、労働安全衛生法第22条と第57条の保護対象は労働者に限定されないとしました。

安衛法第22条 事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

(略)

安衛法第57条 労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくは労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるものは、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装に次に掲げるものを表示しなければならない。

(略)

この最高裁判決は、労働安全衛生法の司法警察員である労働基準監督官を困惑させています。なぜなら、監督官は労働安全衛生法とは、労働基準法と相まって「労働者への保護法規」と認識していたからです。「一人親方の保護」は法の範疇になく、自分たちの職務外だと思っていました。

例えば極端な話、労働基準監督署では「業務中に働いていた人が業務に起因することで死亡した場合」に「亡くなった方が一人親方だと判明した時点」で調査を打ち切ります。というより、「自分たちの職務権限外の出来事だから、調査できない」という判断をするのです。

この最高裁の判例について、多分現場が混乱するだろうと思うことを書きます。

今回、最高裁が「保護対象は労働者に限定されない」と判決した、労安法第22条について、労働基準監督官は次のように解釈してきました。

(安衛法22条原文)

 事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

(従来の監督官の安衛法第22条の解釈)

 事業者は、「労働者を」次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

要するに、監督官は安衛法第22条についてこの『』書きの「労働者」という言葉を、特に意識せずにそう思い込んできたのですが、それが本当は次のような解釈であると、今回最高裁は述べたのです。

(今回の最高裁の労安法第22条の解釈)

 事業者は、「労働者及び一人親方等について」次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

私が最初に疑問に思ったことは、

  「この事案はどこまで、広がるの?」

ということでした。

実は、安衛法第22条のように、条文中に「保護主体」を曖昧にしたままの法条文が労安法にはいくつかあります。もしかしたら、そのような条文について、すべて「保護主体」は「一人親方等」を含むものになるのではないかという疑念が涌きます。それらは次のようなものです。

安衛法第20条 事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険

二 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険

三 電気、熱その他のエネルギーによる危険

安衛法第21条 事業者は、掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

何か、話がどんどん大きくなっていきそうな気がします。この問題は不定期に何回か分けて書きます。