私は建設現場の監督で恥をかきました(6)

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次長の話は続いた。
「おまえは、違反を指摘できないか、そればかり考えていた。
しかし、違反を指摘するかどうかは瑣末なことだ。災害をなくすために、安全確保を指導することが監督の目的だ。
労安法は最低限の基準を定めたものだ。それを把握していない、おまえが確かに悪い。それは、未熟なおまえを監督に出した俺たち上司の責任でもある。だがな、監督官は現場にでなきゃわからないんだ。
ゼネコンの現場代理人はとても勉強している。労安法に関しては、今のおまえよりはるかに理解している者が多い。おまえは、苦しまぎれに労基法第32条違反(36協定未提出違反のこと)を指摘した。だが、そんなおまえの考えなど現場代理人は見抜いている。おまえは、やってはいけない失敗をしたんだ。」
私は、是正勧告書を受取った時の現場代理人の苦笑を思い出した。
「そんな優秀な現場代理人たちだが、今のおまえと同じように、違反をなくせばいいと考えている者も多い。
おまえは、もっと勉強しろ。現場で分かんなきゃ、代理人に食い下がって質問しろ。そしておまえはもっと恥をかけ。おまえのような半端者に、完璧な監督ができるなんて誰も思っていない。それで相手に迷惑をかけたと思ったら俺に言え。俺はいつでも、おまえに代わって謝りに行く。
おまえはまだ、恥をかける立場だ。そのうち、恥をかけない時がくる。それまで、恥ずかしい思いをたくさんしろ。」
「それから、建設現場では工事用エレベーターに乗るな。確かに、ロングスパンのエレベーターのロック装置やリミットスイッチを確認した後は、おもわずそれに乗ってしまうことがある。だが、それでは足場の細かいところは分からない。労働者が働いている場所はすべて歩け。足でかせげ。」

その後、私は退職の日まで、現場で工事用エレベータに乗ったことはなく、勉強不足から来る恥かしい思いもたくさんした。そして、いつしか部下の代わりに謝りいく立場にもなった。
でも、S次長を超えるような監督官にはなれなかった。それが、少し悔しく思う。