(池の平林道からみずがき山を望む・山梨県甲府市,by T.M)
パラリンピックのトライアスロンで銀メダルに輝いた宇田秀生さんは、2013年に結婚式5日後に労災事故に合い右腕を肩から切断したそうです。そんな悲惨な事故から8年後に、こんな記録を樹立するなんて、労働災害の調査等に長年関わってきた者としては、本当に彼を尊敬します。
パラリンピックの開催の是非については、色々意見があったようですが、テレビで選手やそれを支えるスタッフの姿を観ていると、自然と涙がでてきます。参加者全員に金メダルを授与する訳にはいかないのでしょうか・・・
「勝つことよりも参加することに意味がある」そんなオリンピックの精神はパワリンピックな中にこそ生きているような気があいます。
さて、話題は変わり、コロナ被害のことです。
読売新聞オンライン・8/24
青森県八戸市の百貨店「三春屋」が、新型コロナウイルスの感染拡大などで経営不振になり、全従業員約140人の約7割にあたる約100人に解雇通知を出したことが23日、わかった。従業員の労働組合は「希望退職者を募集するなど努力義務を果たしておらず、不当だ」と撤回を求めている。
三春屋を経営する「やまき三春屋」によると、通知は11日付で、解雇日は9月10日付としている。
土谷与志晴社長は読売新聞の取材に対し、「新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ち、今秋に予定していた改装計画にも支障が出ている。経費削減に取り組んだが三春屋ののれんを残すため、さらに人件費削減が必要」と述べた。希望退職を募らなかった点には「それほど財務状況が逼迫(ひっぱく)している」と釈明。従業員の再就職は「積極的に支援したい」としている。
労働契約法第16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。現在のようなコロナ禍において、経営不振を理由に解雇するためには、次の条件が必要です。
「人員削減の必要性」人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
「解雇回避の努力」配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
「人選の合理性」整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
「解雇手続の妥当性」労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと 等
前述の新聞記事引用の解雇事案について、「解雇事由が妥当であるか」の判断は私にはできません。
しかしどうも、私の経験から照らしてみて、「やり方が強引」なので、今後泥沼になるような気がしています。
まずかった点は2点あります。
ひとつ目は「解雇通知が文書で行われ、予告日は8月11日付で、解雇日は9月10日付」であることです。これは労働基準法第20条で示された「解雇予告」期間の30日間をクリアしようとしたのでしょうが、いかにも唐突な解雇通知です。経営陣が「刑事告発」されないことだけを考慮した手続きのように思えます。別の新聞記事には次のようなものがあります。
朝日新聞記事
同労組によると、会社側から、正社員や契約社員を対象に
8月11日付で解雇の予告通知書が送られてきた
という。18、19の両日には全従業員に対して説明会などを実施したが、解雇に対する明確な理由がなかったという。大量解雇は、規模を縮小して営業を続けるためだとみている。
文書の送付だけで解雇が通知されるとは、経営側の怠慢としか言えないでしょう。解雇される者、一人一人と管理職が面談し、事情を説明し、解雇通知を手渡すことが「誠意」です。文書一枚の解雇となれば、労働者の反発もより強くなります。また、労組側の主張の「希望退職者を募集するなど努力義務を果たしておらず、不当だ」という主張の根拠ともなります。
ふたつ目の会社側のまずい点は、社長の「三春屋ののれんを残すため」という言葉です。解雇される労働者にとって、「のれん」などどうでもいいことです。もちろん、社長は「事業継続のため」という意味で「のれん」という表現をつかったのでしょうが、取りようによっては、「永禄年間から続く三春屋の名前を残すためには労働者の解雇は仕方がない」と経営側が上から目線で思っているとも見えてしまいます。
「解雇は避けられないものだから、人間どおしの感情の問題や修羅場は無駄だ」ということを、もし経営者が考えているとしたら、地域の協力を得て存続するデパートのとしては失格ということでしょう。
今後の問題点は2つでしょう。
- 解雇された労働者に「特別退職金」はあるのか(無理なような気もします)
- 経営側で責任をとって辞任する者がいるのか
昭和25年、朝鮮戦争前にトヨタは経営危機に陥りました。「乏しきを分かつ精神に立ち、人員整理は行わない」との方針で労使と話し合いを続けてきましたが、銀行からの融資がなく倒産する危機に直面し、人員整理が避けられない状況となり、約2,000人が退職しました。そして、社長の豊田喜一郎は辞任をしました。
「整理解雇」を行うということは、企業の信頼の危機です。それを救う者がいるとしたら、経営者の進退の覚悟のような気がします。
この「三春屋」の従業員の再就職手続きが、早期に進みますことを祈ります。