休憩時間の問題

(航空機のアラウンドビューモニター、by T.M)

埼玉新聞 7月30日

埼玉県立がんセンターで働いていた看護師の女性が、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、県立病院機構に対し、未払い賃金の支払いを求めた訴訟の判決が29日、さいたま地裁で開かれ、市川多美子裁判長は、被告に未払い賃金の一部、約44万円などの支払いを命じた。

 原告女性は、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、始業前や残業に関する未払い賃金などを求め、約372万円などを請求。

 病院側は、時間外労働の義務は命令によって発生し、時間外勤務手当も命ぜられた職員に対し支給されると主張。原告に対しては命令した事実はないとしていた。

 判決理由で市川裁判長は、システム上、原告がパソコンを使用すれば「始業前の業務を行っていることを知ることができた」と指摘。その上で、始業前業務を禁じたりする形跡はないことから、「黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当」とした。

 一方で「病院側の明示などに基づいて終業時刻後に労務を提供したと認める証拠がない」などと、終業後の未払い賃金については認めなかった。

この判決について残念なのは、労働基準監督署が絡んでいないこと。埼玉労働局は何をやっていたのでしょうか・・・

>>システム上、原告がパソコンを使用すれば「始業前の業務を行っていることを知ることができた」と指摘。その上で、始業前業務を禁じたりする形跡はないことから、「黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当」とした。

極めて当たり前のことだと思います。ようするに、「見て見ぬふりをするなよ」ということです。部下が所定時間前に来て残業しないと、仕事が回らないことを管理職は分かっていたはずです。

終業時刻後の残業を認めなかったのは、シフト勤務が行われているために、「帰宅しようと思えば定時に帰宅可能であった」という可能性も否定できないからだと思います。

いずれにせよ、妥当な判決であると思います。

さて、「病院及び社会福祉施設」の残業についてですが、個人的には「休憩時間の取得方法」にも、かなり問題があるように思えます。

働いている人は気付いていない方が多いのですが、「休憩時間」について法違反が発生していることがあります。例えば、病院等の夜勤について、「仮眠してもかまわないけど、緊急の呼出しに対応できるように、休憩室にいて下さい」という当該時間について、「賃金を支払う必要のない休憩時間」だと勘違いしているのです。このような時間は、「待機時間」であって、立派な「労働時間」です。休憩時間とは、「労働者が自由利用できる時間」でなくてはなりません。

私が現役の監督官であった時に、病院及び社会福祉施設の休憩時間について、けっこう問題が多かったような気がします。残業時間が厳しく問われる昨今において、休憩時間の在り方についても、今後問題提起がされるような気がします。

最低賃金の謎

( 飛行機からの富士山、by T.M)

失われた30年とかいいます。1990年から2020年までの経済成長率は日本1.5倍増に対し米国3.5倍増、中国37倍増、ドイツ2.3倍増だそうですが、この日本の低成長を揶揄した言葉だそうです。。

日本人の賃金も上昇していないそうです。この30年間に日本の平均賃金が4.4%増に対し、米国47.7%増、英国44.2%増、ドイツ33.7%増、フランス31.0%増だそうです。

この数字を見て、ちょっと驚きました。私が知っている賃金関係の金額の指標はもっと上昇しているからです。その指標とは「最低賃金額」のことです。

1990年の最低賃金は全国平均で516円、2020年では902円で、30年間に74%増となっています。東京だけに限るなら1990年が548円で2020年は1013円なので、85%増です

この30年間に平均賃金がほぼ横這いなのに、最低賃金だけは約80%上昇している。経済学的には、何を意味するのでしょうか?

多分現在では、30年前よりも「最低賃金ギリギリの給与額で働く人の割合」が増えているということなのでしょう。しかし、「最低賃金を引き上げても経済成長しない」ということも事実のようです。

(あと、地方の賃金と東京の賃金格差も大きくなっているようです。)

川崎北労働基準監督署

(十国峠からの富士山、by T.M)

朝日新聞社

従業員が制服に着替える時間などの賃金を支払っていなかったとして、飲食大手フジオフードシステムが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかった。厚生労働省のガイドラインでは、着替えなどの時間は労働時間に含むと定められている。

 同社の女性従業員が加入する労働組合「首都圏青年ユニオン」が14日、記者会見して明らかにした。女性は、同社が運営する商業施設内のカフェでパートとして勤務。更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかるが、労働時間には含まれていないという。

 ユニオンは同社に、こうした時間分の賃金支払いを要求。だが会社側が「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」として支払いを拒否したため、労基署に申告したという。

 ユニオンによると、労基署は着替えなどの時間は労働時間にあたると認定。女性に対して過去2年分の未払い賃金を支払うよう、6月に同社へ是正勧告を出した。ただ、現時点で未払い賃金は支払われていないという。

 フジオフードは「まいどおおきに食堂」などを全国で800店以上展開する。同社側の代理人弁護士は是正勧告を受けたことは認めた上で、「今後の対応は検討している」と話した。

被害労働者には申し訳ないのですが、「ブログネタをありがとうございます」と言いたくなるような記事です。

しかし、監督署サイドとしては、いい時代が来たと思います。「残業代の遡及是正」を命じたら、こんな風にマスコミが取り上げてくれるんですから。私も、現役時代は総額で億を超える遡及是正を何回か命じたことがあります。でも、新聞等に取り上げられることは一切ありませんでした。時代の空気が変わってきたのは、東京労働局に「カトク」(過重労働撲滅特別対策班)ができた、「働き方改革」が始まった時期からです。こんなに注目されるとは、川崎労働基準監督署の職員を羨ましく思います。監督署、頑張れ~。

さて、記事の内容についてです。勤務時間中に制服の着用が義務づけられているなら、着替え時間は当然労働時間です。

「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」という回答は意味不明です。これは、「自宅から制服着用でも良い」ということなのでしょうか?だとするなら、その制服を着用して、駅の公共トイレに入ってもかまわないということになります。その様子を撮影されてSNSで公開されてもかまわないのでしょうか。通勤時に制服の着用を許可するということは、そういうことが起きることも想定されます。

一流の会社であるなら、会社制服とは、その企業のイメージを決定する重要なツールであると思います。「労働時間以外の着用可」とすることは、「労働者のプライベート時間」でブランドイメージの毀損行為が行われても仕方がないと企業が考えていることになります。

本来であるなら、「制服着用時は労働時間であるので、当社の社員として見苦しくない行動をしなさい」と従業員に対し指示すべきでしょう。

また、「更衣室で着替えることは義務づけておらず、労働時間にはあたらない」という意味は、「更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかる」というくらい離れている更衣室で着替える必要がないという意味なのでしょうか?

ならば、女性職員が着替える場所が他にあったということでしょうか。まともな着替える設備がないところで着替えろということは、それはそれで別の問題が発生するような気がします。

いずれにせよ、この問題は会社側に分が悪いと思います。

通信障害

(伊豆土肥の世界一の花時計、by T.M)

安倍前首相のご冥福を祈ります。

私は経済問題や外交問題が分かりません。しかしながら、労働問題については、現場を見ているので、いくらか知っているつもりです。安部前首相の行った「働き方改革」については、評価をしています。雇用側の意識改革に成功したと思っています。

安部前首相については「格差と分断」を助長したという意見もあります。しかし、その件で一番責任があるのは、「構造改革」の名分のもとに派遣業の範囲を広げた、小泉内閣にあると思います。

毎日新聞 7月6日

全面復旧まで約86時間を要したKDDIの通信障害。総務省は次官級の幹部を同社に送り込み、利用者対応などを指示した。民間のトラブルに所管官庁が直接関与するのは極めて異例だ。何があったのか。

 KDDIの通信障害が発生したのは2日午前1時35分ごろ。トラブルが長期化する中、総務省の竹内芳明総務審議官(次官級)が課長補佐級の職員とともに、新宿区にある同社の特別対策室に派遣されたのは同日夜のことだ。

  (中略)

 総務省が職員派遣を決めた背景には、KDDIの利用者対応に対するいらだちがある。同社がホームページなどで利用者に通信障害を知らせたのは、2日午前3時ごろ。しかし、その内容は「当社の通信サービスがご利用しづらい状況が発生しております」というあっさりしたもので、状況を把握できない利用者から不満の声が上がっていた。

「fukusima50」という映画で、東日本大震災の時の福島第一原発事故での現場作業員の奮闘ぶりが描かれました。その映画の中で、現場職員は必死になって原発の暴走を止めようとしているなか、足を引っ張る「東京本社」の様子を描かれています。

私は多くの労災事故の現場を見てきましたが、爆発事故、建築現場の足場崩壊、土砂崩壊等で現場が混乱している状況にも立ち入ってきました。そんな現場で、現場職員が行うべき作業は次の2つです。

  • 被災者の救出
  • 2次災害の防止

ところが多くの災害で、この現場の作業員の活動を本部が妨げます。まあ、本部の言いたいことは分かっています。次のような報告が欲しいのです。

  • 状況はどうなっているんだ。災害の原因はなんだ。
  • 復旧はいつなんだ

この時の現場作業員の状況は、「交通事故にあった者を緊急手術する医者」と同じようなものです。手術中の医者に、次ことを尋ねる馬鹿はいないでしょう。

  • 手術はいつ終わるんだ
  • どこが悪いんだ
  • これから容体はどうなるんだ

映画「fukusima50」を観た方は分かると思いますが、現場はこんな本部からの質問に答える状況ではありません。刻々かわる状況に対応し、2次災害の防止に手を尽くすだけです。

本部の立場も分かります。大きな事故の場合は、マスコミ等が殺到し説明を求められるからです。しかしなぜ、この時「本部」は「現場」と一緒になって戦ってくれないのでしょうか。それは、多くは本部の「保身」が原因で、「現場」を守れません。

「現場」が「本部」に望むのは、「現場」が希望する物資・人材を速やかに現場に投入してくれることです。映画「fukusima50」では、東電本社が「菅首相が現場に視察に行く」ことを停められずに、挙句に「防じんマスク」の手配まで現場にさせる場面があります。現場にとって、妨害工作としか思えない事態だったと思います。

さて、菅首相の原発事故時の現場視察については、色々な評価があるようですが、冒頭の新聞記事にある、通信障害の時に派遣された総務省職員はいったい何しにKDDIに行ったのでしょうか?復旧に全力を尽くしていた現場の邪魔にならなかたでしょうか? 後日の検証が必要であると考えます。

過労死のグラフ

月24日に厚生労働省から過労死の令和3年の労災認定件数が発表されましたが、平成20年以降の労災支給決定件数が上記のものです。

過労死は2種類あります。「生活習慣病系疾患(脳・心臓疾患)」と「精神疾患系(ストレス障害)」です。「長時間労働をしていたら、いきなり心臓を押さえて倒れてしまった」が生活習慣病系で、「パワハラに耐え切れずに自殺した」が精神疾患系です。

上記のグラフにおいて、「赤」は脳・心臓疾患による労災支給決定件数、「青」が精神疾患系の数です。このグラフで分かるように、仕事で体調を崩す方は「生活習慣病」より「ストレス」の方が圧倒的いものです。

と言うより、生活習慣病に関係する労災認定数は減少しているのに対し、ストレスに関係する数は凄い勢いで増加しているのです。

これはつまり、ストレスを産み出す職場が増えていて、ストレスの度合いが大きくなっていることではないでしょうか。

こんなことを考えていたら、例の青森の「ハシモトホーム」の「症状(賞状)事件」の記事を目にしました。「宴会の席で誰かをイジル」ということは、「いじった者」はストレス発散になるが、イジラれた者には傷が残ります。つまり「いじめ」と一緒です。

人間社会には、どこにでも「いじめ」があると言ってしまえばそれまでですが、上記のグラフのようにそれで病気となる者が増加しているとしたら、日本の社会は本当に貧しくなったのだと思います