(千代田湖、by T.M)
メンタルヘルスを原因とした過労死の一典型に「自殺」があります。電通事件や昨年の国立競技場の建設現場の現場代理人の自殺がその事例となります。
このうつ状態からの「自殺」について、「死ぬくらいなら、会社を辞めれば良かったのに」と言う方もいらっしゃいます。私も以前はそう思っていました。しかし、ある体験から、それは無理だと思うようになりました。
5年前に、ギランバレー症候群という病気になりました。この病気は神経系の病で、ある日突然に手足に痺れがきて、7日~14日くらいをかけて四肢がだんだん動かなくなり、最悪の場合は呼吸器が停止し、死亡に至るというものです。最悪期を過ぎると、徐々に回復はしてくるのですが、リハビリに何年もかかり、後遺症が残るケースもあります。
私の場合は、最悪期は首以外動かなくなり、気管切開し人工呼吸器に繋がれ、食事は嚥下できず鼻から管で胃に栄養液を入れてやり、瞼さえ自力で閉じることができず、眠る時は顔にタオルをかけました。その後、リハビリに2年間をかけましたが、今でも後遺症で手足に痺れが残り、下り階段は手すりを掴まなくては降りることができず、声帯が半分しか動いていないので時々呼吸困難となります。
最悪期に向かっている時に、自分の手足が動かなくなっていくのを意識していたら精神がまいってしまい、眠ることができなくなり、医者に睡眠薬と精神安定剤を投与されました。
リハビリ中も当初は、同クスリを服用していました。しかし、リハビリを続けていくなかで、「自力で眠るようならなくてはダメ」だと思うようになり、ある夜に医師と相談することなくクスリを飲まずにいました。数日くらい眠れなくても、最後には眠れるだろうと勝手に判断したのです。
ところが、その夜に気分がとても落ち込んだのです。回りが暗くなっていくような気がして、とても怖くなる反面、もうどうでも良くなって、このまま死んでもいいと思うようになりました。最高にまずい状態になった時に、当時飼っていた白猫が近寄ってきて、私の手をなめてくれました。一瞬正気になって気付きました。「クスリのせいだ。」そしてあわてて、精神安定剤を飲んだところで、気分は落ち着きました。
後日、医者にその時のことを話すと、こう注意されました。「それは『離脱』という症状だ。睡眠薬や精神安定剤を減らす時には、段階的に少なくしていかないと、とんでもないことがおきることがある。」
医者の説明によると、この離脱症状は、うつ病の症状に似てるところもあるということでした。もし、うつ病の患者が、あの時の私のような精神状態であるなら、自殺してしまうかもしれないと実感しました。
それ以降、私は自殺まで追い込まれる、メンタル系の労災被災者について、「自殺するくらいなら、会社を辞めればいいのに」とは思わなくなりました。