(新座市の野火止め用水、by T.M)
倒産がらみの賃金不払い事件で、検事が監督官に命じる期待可能性の有無の捜査とは、要するに「所定賃金支払日に被疑者に金がなかったら、ない袖は振れないのだから、賃金不払いは犯罪行為とならない。当日に資金がないとしても、事前に不急不要なものに資金を使ったかどうかを調査しろ」ということなのです。
恐ろしいことに、この「不要不急な支払い」の中に「手形の決算等」は含まれないのです。手形を不渡りにしてしまえば、会社は銀行取引停止処分となります。つまり倒産です。倒産を回避するための金策は賃金の支払いより、刑事事件的には優先されるという考えです。いくら倒産時の債権の分配については、税金・社会保険料・労働債権は先取特権があると説明しても、検事には通用しません。
ところで、「ハレノヒ」の賃金不払い事件について、果たして経営者は「会社の存続を目的とした経費」以外のことに資金を遣っていたでしょうか。多くの経営者は、景気がいい時には、スポーツカーや絵画等の贅沢品に手を出しますが、いざ会社が傾いてくると、やはり会社の存続を第一とした金の使い方をするものです。従って、倒産がらみの賃金不払い事件の捜査は困難を極めることになります。
今回の「ハレノヒ」の賃金不払い事件について、横浜南労働基準監督署が送検したのは、「昨年の8月1日から8月31日までの賃金」についてです。「ハレノヒ」の事業停止日は今年の成人の日の「1月8日」ですから、今回特定した法違反の後も継続して賃金が未払であったことになります。それを事業停止日の5ヶ月前の法違反のみに止めたということは、その期間ならまだ期待可能性の立証が可能なものであり、それ以降の事業停止日までの賃金不払いについては、「期待可能性が無かった」ということになります。
因みに、賃金不払いの「期待可能性有」の立証方法には、倒産日直前の1ヶ月だけを犯罪事実とするという方法もあります。倒産日1ヶ月前の法違反の特定というのは、「会社の継続が困難なことは、資金繰りから推定できた。次回の支払日に賃金が支払えないことは経営者は予見できたが、労働者を働かした」という理論構成によります。今回の事件の横浜南署の対応のとおり、倒産日から離れた期日の賃金不払いを事件とするのか、倒産1ヶ月前を狙って送検するのかはケースバイケースです。