驚いた!かんぽ生命保険・・・

(C56型蒸気機関車・小海線清里駅、by T.M)

ある新聞記事からの抜粋です。

かんぽ生命保険の不正販売問題で営業自粛中の郵便局員が、国の持続化給付金を申請している-。そうした疑惑が関係者の間で広まっていることを受けて、日本郵便が調査を始めた。昨年7月からの営業自粛に伴い、収入が激減した局員が多数いることが背景にある。新型コロナウイルスの影響と偽って申請したことが判明すれば、刑事罰に問われる可能性もある。
―(中略)―
  同社の営業担当は固定給とは別に、保険の契約件数に応じて営業手当を得ている。この営業手当に関しては個人事業主として各自で確定申告することから、新型コロナの影響を理由にした申請が可能になる。国が給付金の受け付けを開始した5月1日以降、西日本新聞には「一部の局員が新型コロナの影響と偽り、給付金を申請している」との情報が複数寄せられている。

この新聞記事を読んで、私はとても驚きました。
これって、おかしくないですか。どうして、誰も今まで問題にしてこなかったのでしょうか?

かんぽ職員の持続化給付金の不正のことを言っている訳ではありません。かんぽ職員の中には、「かんぽ生命保険(法人)」に対し、「労働契約」と「委託契約」の二重契約をしている者がいることを知り、唖然としているのです。これって、凄いことですよ。こんなことが許されるのでしょうか。「労働時間隠し」で長時間労働をさせているのではないでしょうか。法的な取扱いの整合性はどうなっているのでしょうか?

例えば、私が経験した事案に次のようなものがありました。
「新聞販売店で、配達業務については賃金を支払うが、新規契約の拡張については歩合制を取っているところがあった。労働者が、営業活動での残業代を求めたが、会社側は『配達業務』と『営業業務』は別のものと拒否したため、労働基準監督署に申告した。私(労働基準監督官)は、会社の論理は成立しないとして残業代支払いを命じた」
この時は、法違反として是正勧告しましたが、「労働契約」と「委託契約」の二重契約を認めると、上記の事案は合法となってしまいます。これは、現状の労働法制を根底から揺るがすものです。

別の例えで言うと、次のようなものになります。
「あるソフトウェア会社で、どうしても過重労働が発生してしまう。そこで会社は、36協定の範囲内を、『労働契約』として事業場で行なってもらい、それ以上については『委託契約』として、自宅で業務を行ってもらう」
ということが合法になる訳です。こんな場合、過労死事案の労災認定はどうしたら良いでしょうか。

前々回のブログ記事に書いた新聞記者のケースでは次のとおりです。
「事務所にいる時間は労働時間。それ以外は委託契約の範囲」
また、「二重契約」ということに考えずに、「ボランティア時間」と「労働時間」の二通りあると考えるなら、無給医のケースでは次のとおりになります。
「労働契約で締結した時間だけが労働時間。その他はボランティア時間」

新聞記事から、大手企業であるかんぽ生命保険が、堂々とこのような二重契約をしていることを知り、私はショックを受けました。
私が現役の労働基準監督官であった時代には考えられないことです。厚生労働省はこのことを承知し、合法としているのでしょうか?「働き方改革」のひとつとして、認められるようになったのでしょうか?(私の記憶が正しければ、以前は、「違法」であったと思います)

この件について、少しウォッチングを継続してみたいと思います。

追記
かんぽ生命保険の職員の不正問題については、興味がなかったもんで、あまり知りませんが、ひと言申し上げます。職員が処罰されたそうですが、これっておかしくないですか。「個人事業主」として活動していた時の不正を、「労働者」として処罰する(?)
もしかしたら、不正事件の原因のひとつには、このような「珍しい」労使関係にあるのではないかとも思ってしまいます。

お休み!

(宮ヶ瀬ダム・神奈川県愛川町、by T.M)

在宅勤務が来週からなくなりそうです。

コロナ禍が一段落しそうなんで、めでたいことなんですが、在宅勤務中の「成果」を一挙に提出しなければなりません。

ふた月近くの在宅勤務中のレポート作成で、現在超多忙です。

そんな訳で、今週はブログの更新をしません。

訪問して頂いた方、ありがとうございます。そして、ごめんなさい!

せめて、我が親友の某地方労働局勤務のT.M氏の写真でもお楽しみ下さい。

今日はオマケでもう一枚つけます。

(宮ヶ瀬ダム下流の石小屋ダム・神奈川県愛川町、by T.M)

中日新聞と無給医

(鯉のぼり・山梨県北杜市、by T.M)

記者に有休認めず、中日新聞東京本社に勧告(朝日新聞) 
5/15(金) 22:25配信
 中日新聞東京本社が女性記者(48)の年次有給休暇の取得を拒んだとして、中央労働基準監督署(東京)から15日に労働基準法違反で是正勧告を受けたことがわかった。
 公表した新聞労連と東京新聞労組によると、記者は日決めの「原稿料契約」で東京中日スポーツの報道記者として芸能取材を担当。長年、社員の記者と同様に会社の指揮命令下で働いてきた。2月に年休を取得したところ、会社は「雇用関係にない」として休んだ分の賃金を払わなかったが、労基署は記者は労働者にあたると指摘したという。年休分の賃金はすでに支払い済みで、6月からは限定正社員として採用されることが決まっているという。中日新聞東京本社の大塚浩雄・東京中日総局次長は、是正勧告を認めた上で「すでに解決済みの話なので特にコメントはありません」としている。

これ、たいへん重要な論点を持つ問題だと思います。中日新聞ともあろうものがという感想です。何が重要かというと、現代の日本の労働事情の問題点を表しているからです。
「働く人」を労働者扱いせずに、「個人事業主」扱いしています。そして、労働基準法で定められた労働者の権利を無視しています。
以前、このブログでも何回か取り上げた「無給医」の問題、及び「ウーバーイーツ」の問題、「宅配便の個人事業主」の問題にも、労働者を「個人事業主」扱いする、あるいは労働者を「労働者として認めない」といった類似点があります。

(注) 「無給医」「ウーバーイーツ」等で働く人たちが労働者であるかどうかは、個別に判断していく必要がある。それは、「場所的・時間的拘束があるかどうか」「事業主の指揮命令下にあるかどうか」等を検討しなければならない。ネット情報等で、私が判断するかぎり、「ウーバーイーツ」は確かに労働者性は低く、「無給医」の場合は労働者性は高い。

しかし、「次世代を育てる生きた教材」(日本新聞協会のリーフレットより引用)を自認する新聞社ともあろうものが、「コメントはありません」はどうかと思います。かりにも、刑事罰を伴う法違反を行政機関から指摘されたんですから、例え解決済みだとしても、コメントは次の2つのうちのどちらかではないでしょうか。
①「当社としては、犯罪行為に類するような法違反があった事実はありません。労働基準監督署の判断が間違っています。」
②「当社としては、法解釈を誤り法違反を犯してしまいました。被害労働者の方には、まことに申し訳なく思いますが、詳細は解決済み故に、被害労働者の意向もありますので伏せさせて頂きます。当社には、被害労働者と同じ条件で働いている者が、×名おり、改めて職場環境を見直しています。(あるいは、該当労働者はいません)」

「労働者」であるか、「個人事業主」であるかで問題になるのは、私が監督官になった40年以上前でもありました。しかし、当時と現在では事情が違います。以前、多かった問題は、建設労働者に多かったように思えます。普段は個人事業主として、税金等で申告しているのに、労災が起きた時だけ「労働者」と主張しているのではないかと見なされるケースがありました。つまり、昔は「労働者」と「事業主」が話し合って、監督署に虚偽の労災申請書類を提出してくることもあったのです。このようなことは、労災保険の「一人親方の特別加入制度」が社会的に浸透してくるにつれて、少なくなってきたような気がします。
現在起きている「労働問題」は、会社側が一方的に労働者を「個人事業主」扱いにしていることに問題があります。昔は小さな建設会社がしていたことを、現在では名の知れた大企業が組織的に行っていることが、この問題の根深さを感じさせます。

労働者を労働者として認めない無給医の問題では、4月29日にNHKでも特集をしました。その番組内で、無給医の大学院生だと名乗る方の「コロナウィルス感染の治療について、労災が認められるかも不安」であるという証言の紹介の後に、その大学関係者が次の発言をしていることが気になりました。
「研究の補助業務としての診療を行うことはあるが、労働の対価として賃金が未払いになっているケースはないものと承知しています。大学院生で新型コロナ診療に携わっている者はいますが、労災補償などには対応しています」
大学院生の主張が本当だとしたら、この発言は次のような意味に取れてしまうのですが、私の理解能力不足による誤解でしょうか(?)
「普段は研究の補助業務として大学院生を(無給)で診療に携わらせることはあるが、コロナウィルス感染の労災補償には対応している」
私の誤解でないとしたら、なんか「昔の建設会社」の主張に似ていると思いました。

厚生労働省は今回のコロナウィルス対策で治療にあたる大学院生に対し、「給与」を支払い、「保険加入すること」を指示したそうです。
コロナウィルスの治療だけでなく、「通常の治療」に対しても、給与を支払い、労災加入をすべきだと思うのは私だけでしょうか。

パチンコ屋さんの思い出

( 馬岩・静岡駅西伊豆町、by T.M)

今、パチンコ屋さんが、自粛要請に従わないということで、マスコミにクローズアップされています。私も、労働基準監督官時代にパチンコ屋さんの臨検監督を何回かしたことがあります。その中でも、初回の監督のことは今でも強烈に覚えています。

今から40年くらい前の話です。場所は中部地方の巨大都市N市です。
あるパチンコ屋さんが賃金不払いをしました。被害労働者(以下、「従業員」と呼ぶ)から申告があり、その事業場を調査したところ、事業主は次のように説明しました。

「あいつのせいで、盗難にあった。あいつが運送中のバンから200万円相当の荷が盗まれた。あいつのせいで会社は損害を受けた。だから、給料は払わない。」
私は、何が盗まれたのかを尋ねました。すると事業主は答えました。
「ボールペンを1ケースだ。」

事情を調べてみると、次のとおりでした。
① 従業員が仕事中に、盗難に合い、ボールペン1ケースが盗まれた。しかし、従業員は、「バンの鍵がこじ開けられたものであり、自分の過失ではない」と主張している。
② 盗まれた、ボールペン1ケースは原価は2万円だが、パチンコの景品交換所に持っていくと、200万円で引き取ってもらえるものだった。N市の景品交換所では、当時どこでも、換金は可能であった。
③ 事業主は、外部の人間に手引きして従業員が盗ませたと主張している。

私は事業主に、「200万円の品物が盗まれた窃盗事件」として、警察に届け出たのか尋ねたところ、それはしていないということでした。つまり事業主は、警察に行っても「200万円の窃盗事件」として扱われずに、「2万円のボールペンの窃盗事件」にしかならないことを理解していたのです。盗んだ方にしてみては、パチンコの3店方式の盲点を狙った賢い犯罪なのかもしれません。
警察には言えない「200万円の窃盗事件」を、事業主は、賃金不払いの根拠として、監督署に説明しました。要するに、パチンコの景品は事実上「現金」であり、パチンコ屋の業務はギャンブルであり違法であることを監督署には認めている訳です。監督署はこの事業主に「なめられて」いたのです。
こういう時に、監督署がとりうる手段は、「司法警察権限」の実施ですが、そのうちに従業員と連絡が取れなくなって、この件は有耶無耶となってしまいました。

どこの業界にも、「なぜこんな奴が事業主」をやっていると思える会社があります。従業員のミスに付け込んで、賃金不払い、不当解雇をする事業主は多数います。また、パチンコ屋さんの多くは、労働保険等にきちんと加入し、社労士さんや税理士さんに依頼している方も多かったと記憶しています。
しかし、私の体験ですが、「開き直り」「詭弁」「揚げ足取り」をしてくる事業主の中で、パチンコ屋さんの経営者は特に個性的な方がいたと思います。(個人の体験から全体を類推することは、無謀なことかもしれませんが)

自粛要請をする地方公共団体の職員様、ごくろうさまです。要請に従ってくれないパチンコ屋さんを説得に行くのは、けっこうしんどいだろうなと、自分の体験から思います。

役所の窓口

(夜の川崎大師、厄除け・コロナ除けです。by T.M)

厚生労働省のHPを覗くと、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の中で、次のように記載されています。この厚生労働省のHPの説明で、よく分からなかったことがあったもので、地方労働局の現職の係員Aに、電話で次のように質問しました。

(HP内容)

「患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。」

「医療従事者や介護従事者以外の労働者が、新型コロナウイルスに感染した場合は、他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
感染経路が判明し、感染が業務によるものである場合については、労災保険給付の対象となります。 
感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査し、労災保険給付の対象となるか否かを判断することとなります。」

A氏との会話は次のとおりです。

問「満員電車で通勤していた者が発症した場合についてだが、他の感染経路が考えられない場合、『満員電車内で感染した』として、通勤災害となるのか。
今までの、例えばインフルエンザ等の感染での労災認定の範囲は狭く、感染経路が明確でない場合は、まったく、『通災』も『労災』も考えられないが、今回はどうなるのだろうか」

A氏答「私の個人的な意見として聞いて欲しい。現在、多分世の中で一番関心が持たれているのは、そこのところだとは思う。今までの労災基準としては、『インフルエンザでの通災』という考えはまったくなかった。今回の場合は特例として『通災としてのコロナ』が検討されるような気がする。
今回のQ&Aでは『医師、看護師、介護従事者等』においては、感染経路が私的なものと証明されないかぎり、つまり感染経路不明でも労災認定が可能だ。これは今までにはない考えだ。政府もコロナ禍での労災認定に積極的なようだ。」

問「それでは、今までの労災認定判断と相違がでてしまう。今はいいが、例えばコロナ禍が終息した後に、インフルエンザ罹患で労災申請があった時に、申請者から同様な対応、つまり『感染経路が多少不明確であっても、コロナ禍の時のように認定しろ』と主張されたらどうするのだろう。それから、過去の『感染経路が不明確で不認定とした労災事案』との整合性はどうするのだろう?」

A氏は笑って答えませんでした。

役所が仕事が遅い理由のひとつに、確かに「前例主義」というものがあります。「前例主義」という言葉は、どうしても悪く聞こえてしまうのですが、見方を変えれば、「事案の公平性」ということです。

もちろん、役所の「前例主義」に対し、次のような批判があることは分かります。
「だから役所はダメなんだ。コロナ禍というような前例のない非常時には、通常どおり物事は進まない。役所がダメなら政治決断をもって、物事を前へ進めるべきだ。」
これは正論であり、「役人」としても、誰かが決断をしてもらえば、それに従えばいい訳ですから楽です。でも往々にして、その「政治決断」した者は、事が終わればどこかに行ってしまって、結局は、「コロナで苦しむ人も、インフルエンザで苦しむ人も一緒なのに、労災としての取扱いが違うのはおかしい」という正論を述べる人と対峙する役を、「窓口の役人」が負うこととなるのです。まあ、それが仕事と言ってしまえば、それまでなのですが。

私と電話会談したA氏は、次のようなことも話しました。
「今日(5月2日・土曜日)、私はコロナ禍の元で遅れた仕事を取り戻すために休日出勤した。あと1日は連休中にも出勤しなければならない。
でも、私はまだましな方で、雇用調整助成金の窓口となる職業対策課は連休中も休みなしで窓口を開け、仕事をしている。残業も膨大なものだ。でも、みんなそれが社会的に必要であることは、認識している。」

事務手続きの煩雑さに悩むのは、国民だけでなく、役所の窓口も一緒。非常時に通常どおりの手続きで仕事を進めることは到底不可能です。コロナ禍で苦しむ人々のために、自分のできる限りのことをしたいという気持ちは誰でももっています。
でも、「公平性」を無視した仕事は、今後のことを考えると、やりにくいというのも、現場の職員の本音なのです。