(愛川町八菅神社、by T.M)
平成25年に監督官が行った調査的な監督が杜撰であるということが話題になっています。マスコミの記事を読むと、素直に監督署が謝らなければならないものと、誤解されているもの、そしてフェイクニュースがあるような気がします。
まず、監督署が悪いと思われる件について説明します。厚生労働省が精査したら出てきたという「1日の残業時間が45時間の者がいた」というケース。これは、残業時間「4.5時間」の書き間違いでしょう。こういう箇所が散見されることは、監督署がたるんでいると思われても仕方ないでしょ。ただし、問題発覚時に長妻議員が指摘した「残業15時間の者がいて、これはおかしい」という指摘については、そういうことはありうるということを反論します。
「事故対応時」に、担当者が24時間対応することはありえます。今回の福井県の除雪で過労死したという痛ましい事件のようなケースです。また、「天災でしたので、担当者を36協定以上働かせましたという報告(労働基準法第33条に基づく届出)」を、鉄道会社が監督署に提出してきたものを、受理した経験は何度もあります。調査的監督を実施した時に、監督官がそのようなデータを見つけたら、調査票に「残業15時間」と記載します。
次に、「これは何か誤解があるな」と思われケースを説明します。
それは「(1日当たりの残業時間)(1週間当たりの残業時間)(ひと月の残業時間)の3者について」整合性が取れていないという指摘です。
例えば、次のような指摘です。「1日当たりと1週当りの残業時間がゼロなのに、月の残業時間が何十時間もある」「1日当たりの時間外労働が14.5時間なのに、同じ週の残業が4.5時間である」
これらのケースはありえます。前記の最初の場合は、明らかに「フレックスタイムの労働時間制度」を導入している事業場の残業記録です。このような記録となります。
また、後者の場合は「1日8時間の法定労働時間に対し14.5時間の残業を行ったが、1週の法定労働時間40時間に対しては4.5時間の残業しか行っていない」ということで、これは例えば「災害が発生し徹夜で作業したが、翌日に代休を取得した」という場合が当てはまります。現在、各企業では総労働時間の引下げに努力しているところも多いので、このようなケースも十分にあり得ます。
監督官が調査的な監督を実施した場合、この記事の冒頭に挙げたように「書き間違い」は発生する可能性はありますが、「論理的エラー」は少ないように思えます。「(1日)(1週)(1ヶ月)」の残業時間について、論理的な整合性がないという問題については、精査して頂ければ、何かしらの理由があって、現場の監督官が調査票にそのように記載したものだと思います。
さて、最後にフェイクニュースと疑えるものを指摘します。共同通信の次の記事です。
裁量労働制に関する厚生労働省調査に不適切なデータ処理があった問題で、調査に当たった労働基準監督官の男性が24日までの共同通信の取材に「1社当たりの調査時間を約1時間半とする内規に従ったが、(私の場合)十分な時間が取れなかった。結果的に調査がずさんになってしまった」と証言した。 この調査を巡っては、これまで不自然な数値が200件以上見つかっているが、実際に担当した監督官が調査手法の不備を証言するのは初めて。全国約320の労働基準監督署が1万1575事業所を調査したが、不十分な調査の一端が浮かび上がった。
私は、前回のブログ記事で書きましたとおり、平成25年はキランバレーで1年間入院と自宅リハをしてましたので、この時の調査的監督には一切関係していませんでしたが、監督官32年間に過去に何回も調査的監督を経験してきた者としては、この証言はおかしいと思います。
まず、「監督を1件1時間半以内とする内規」なんて聞いたことがありません。今後のブログで詳しく書くつもりですが、「臨検監督」と「所用人日」は、計画上「1件1人日」が通常です。
もう20年以上前に「1日7件監督実施」という計画がありました。しかし、これは、「従業員5人未満の理美容業・飲食業等のサービス業」「業界団体と協力して呼出し」「最低賃金違反のみを確認すればよい。残業代等は一切指摘せず、リーフレットだけ渡す」というかなり特殊な監督です。この監督は「最賃集合監督」と呼ばれ、最低賃金審議会に資料を提出するために実施する、一種の調査的監督でしたが、「労働時間を確認せず最低賃金だけ確認する」といった監督目的が時代の趨勢に合わないため、もう随分前から実施しなくなっています。
この共同通信の記事については続報が欲しいところです。
その時には、「調査的監督実施時の監督官実績表」「臨検監督月間計画表」そして「調査的監督に関係する本省派出の部内通達」の写しも記事に掲載していただけたら、この記事がフェイクであるかどうかがすぐ判明すると思います。
そこには、監督官が「ひと月何件監督を実施したか」「何件監督をするように計画されたか」「どのような指示が本省からあったか」が記録されています。労働局の基準システムを検索すれば、全国の監督署のどの端末からも入手可能なはずです。