働き方改革について(4)

(逗子の海、by T.M)

私が労働基準監督官をしていた時に、色々な事業場に法違反を是正するように指導してきました。しかし、その中には絶対にこれは是正できないだろうなと思っていた法違反もあります。そのうちのひとつが「教師」に関する労働時間についてです。

(注:私がこれから書くケースは全て「私立学校」に関することです。「公立学校の教師」については労働基準法の適用はありません。それから、これもまた問題なのですが、「私立学校」が「公立学校」の労働条件に準じて「就業規則」を定めている所も多く、その場合は全てのケースで労働基準法違反が発生していました。つまり「公立学校」の教師の「残業代⦅のようなもの⦆」は一律定額支給で、私立学校でその制度を取り入れると、残業代不払の法違反が発生するのです) 

教師の労働時間については、昔から様々な問題点が指摘されてきました。例えば、「部活」の問題です。 

「教師が日曜日に、生徒の部活の試合に引率に行って、途中で交通事故にあって被災し休業した」  これが労災であるかどうか。以前から議論になってきたところです。 

それが重大な事故であればあるほど、学校関係者は「人情」として労災として欲しいと思います。しかし、これが「労災」であるなら、労働基準監督署は「日曜日のクラブ活動」を残業扱いしてきたかどうかを尋ねてきます。残業扱いしていなければ、当然是正勧告ということになり、いままでの残業手当未払い分を遡及支払いということになります。

実は、慣例としてこのようなケースで学校は「残業代」を出しません。まさしく「公立準拠」をしているのです。 

まあ、それでも「部活」の場合は、何とかしようと思えば、法遵守はできます。学校側が「部活動」を時間外労働と認め、残業代を支払うようにすれば良いだけです。 

労働基準法を絶対に守れない学校行事とは、実は「修学旅行」なのです。

 

働き方改革について(3)

(写真、by T.M)

第2次安倍内閣が始まって以来、労働行政は生き生きとしているような気がします。「働き方改革」というものは、一種の革命のようなものでしょう。労働行政は官邸から、その先兵を仰せつかり、すっかりその気になっています。

また、労働行政は、多分今が過渡期なのでしょう。例えば、神奈川労働局ですが、組織の中の労働基準監督官の人員構成は歪な形であり、平成28年から平成33年の6年間に、全体の約4分の1が退職してしまいます。もちろん、再雇用や新人の補充ということで組織は維持されますが、署長等の幹部職員が一新され、「働き方改革」に合わせた組織変更がなされますので、5年後は現在とはまったく違った組織になっていることが予想されます。

この新しい組織で、世の中に対し色々なアプローチをしていくことと思いますが、その手法が少し荒っぽいかなと最近思うようになりました。

長時間労働の「摘発」ばかりで、次世代の新たな「労働の姿」というものを、行政は果たして思い描いているのでしょうか。もちろん、労働行政の目的とは、「法遵守」を企業に促すもので、その後のことは企業自体が責任をもって変わっていくことであるという考えはありだと思います。しかし、それはある意味、「無責任」と言われても仕方ないような気がします。

先日、宅配業界最大手の「ヤマト運輸」が非正規職員5000人を正規雇用することを発表しました。これは嬉しいニュースです。そして「ヤマト運輸」を次世代の労働形態に目を向けさせたきっかけのひとつは、監督署が指導した例の残業代不払の事件であったと思いますし、それを摘発した監督官とその指導に対し真摯に対応した企業に敬意を表したいと思います。

そのような成果はあるのですが、これはいかになんでも無理筋だよ。是正勧告書ひとつでかわるはずがないと思われる「摘発」もあります。それをこれから何回かに分け書こうと思います。

まずは「教師の労働時間」についてです。

(続く)

 

今週はブログ更新を休みます

来週私が講師を勤める「職長教育」と「安全管理者選任時研修」の資料作りに忙殺されてます。

資料(データ)を自宅へメールで送付し、自宅で原稿とパワーポイントにまとめ、メールで送り返す「メール残業」してます。ちなみに、私は管理職扱いで、「××手当」というのが、本給の○○パーセント付くので、残業代はでません。

来週、少し余裕ができますので、「働き方改革」について書きます。

 

働き方改革について(2)

(愛川町八菅神社、by T.M)

平成25年に監督官が行った調査的な監督が杜撰であるということが話題になっています。マスコミの記事を読むと、素直に監督署が謝らなければならないものと、誤解されているもの、そしてフェイクニュースがあるような気がします。

まず、監督署が悪いと思われる件について説明します。厚生労働省が精査したら出てきたという「1日の残業時間が45時間の者がいた」というケース。これは、残業時間「4.5時間」の書き間違いでしょう。こういう箇所が散見されることは、監督署がたるんでいると思われても仕方ないでしょ。ただし、問題発覚時に長妻議員が指摘した「残業15時間の者がいて、これはおかしい」という指摘については、そういうことはありうるということを反論します。

「事故対応時」に、担当者が24時間対応することはありえます。今回の福井県の除雪で過労死したという痛ましい事件のようなケースです。また、「天災でしたので、担当者を36協定以上働かせましたという報告(労働基準法第33条に基づく届出)」を、鉄道会社が監督署に提出してきたものを、受理した経験は何度もあります。調査的監督を実施した時に、監督官がそのようなデータを見つけたら、調査票に「残業15時間」と記載します。

次に、「これは何か誤解があるな」と思われケースを説明します。

それは「(1日当たりの残業時間)(1週間当たりの残業時間)(ひと月の残業時間)の3者について」整合性が取れていないという指摘です。

例えば、次のような指摘です。「1日当たりと1週当りの残業時間がゼロなのに、月の残業時間が何十時間もある」「1日当たりの時間外労働が14.5時間なのに、同じ週の残業が4.5時間である」

これらのケースはありえます。前記の最初の場合は、明らかに「フレックスタイムの労働時間制度」を導入している事業場の残業記録です。このような記録となります。

また、後者の場合は「1日8時間の法定労働時間に対し14.5時間の残業を行ったが、1週の法定労働時間40時間に対しては4.5時間の残業しか行っていない」ということで、これは例えば「災害が発生し徹夜で作業したが、翌日に代休を取得した」という場合が当てはまります。現在、各企業では総労働時間の引下げに努力しているところも多いので、このようなケースも十分にあり得ます。

監督官が調査的な監督を実施した場合、この記事の冒頭に挙げたように「書き間違い」は発生する可能性はありますが、「論理的エラー」は少ないように思えます。「(1日)(1週)(1ヶ月)」の残業時間について、論理的な整合性がないという問題については、精査して頂ければ、何かしらの理由があって、現場の監督官が調査票にそのように記載したものだと思います。

 さて、最後にフェイクニュースと疑えるものを指摘します。共同通信の次の記事です。

 裁量労働制に関する厚生労働省調査に不適切なデータ処理があった問題で、調査に当たった労働基準監督官の男性が24日までの共同通信の取材に「1社当たりの調査時間を約1時間半とする内規に従ったが、(私の場合)十分な時間が取れなかった。結果的に調査がずさんになってしまった」と証言した。 この調査を巡っては、これまで不自然な数値が200件以上見つかっているが、実際に担当した監督官が調査手法の不備を証言するのは初めて。全国約320の労働基準監督署が1万1575事業所を調査したが、不十分な調査の一端が浮かび上がった。

私は、前回のブログ記事で書きましたとおり、平成25年はキランバレーで1年間入院と自宅リハをしてましたので、この時の調査的監督には一切関係していませんでしたが、監督官32年間に過去に何回も調査的監督を経験してきた者としては、この証言はおかしいと思います。

まず、「監督を1件1時間半以内とする内規」なんて聞いたことがありません。今後のブログで詳しく書くつもりですが、「臨検監督」と「所用人日」は、計画上「1件1人日」が通常です。

もう20年以上前に「1日7件監督実施」という計画がありました。しかし、これは、「従業員5人未満の理美容業・飲食業等のサービス業」「業界団体と協力して呼出し」「最低賃金違反のみを確認すればよい。残業代等は一切指摘せず、リーフレットだけ渡す」というかなり特殊な監督です。この監督は「最賃集合監督」と呼ばれ、最低賃金審議会に資料を提出するために実施する、一種の調査的監督でしたが、「労働時間を確認せず最低賃金だけ確認する」といった監督目的が時代の趨勢に合わないため、もう随分前から実施しなくなっています。

この共同通信の記事については続報が欲しいところです。

その時には、「調査的監督実施時の監督官実績表」「臨検監督月間計画表」そして「調査的監督に関係する本省派出の部内通達」の写しも記事に掲載していただけたら、この記事がフェイクであるかどうかがすぐ判明すると思います。

そこには、監督官が「ひと月何件監督を実施したか」「何件監督をするように計画されたか」「どのような指示が本省からあったか」が記録されています。労働局の基準システムを検索すれば、全国の監督署のどの端末からも入手可能なはずです。