長時間労働規制の問題点(26)

(山下公園の噴水、by T.M)

 

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今日はこれから大阪へ日帰り出張。そして、明日は青森へ日帰り出張。
安全週間中はともかく忙しいです。
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(前回のブログの続きです。)

ある会社が長時間労働を短縮しようとするなら、多分次の2つのどちらかの道筋を辿ることになると思います。 

第1 企業が経営の構造改革を成し遂げ、ドラスティックに労働時間を削減する。第2 企業が、労働時間の「ムダ」をひとつひとつ減らしていく。 

第1の道筋は理想ですが、達成できる企業はあまりありません。最近では、「ヤマト運輸」の事例がそれに該当すると思います。

ヤマト運輸の残業代不払事件についてですが、横浜北労働基準監督署(私もこの署の第1方面主任監督官をしていたことがあります)が、ヤマトの労働組合の申告を受け、是正勧告書を交付したことが発端でした。

最近、労働基準監督署がどこそこの企業に是正勧告書を交付したという記事が多いので誤解されている方がいらっしゃるようですが、私の調べた限りでは、このヤマトの事件について労働基準監督署が積極的に情報をマスコミに提供している事実はないようでした。

この事件の情報を積極的に流布させていたのは、当該労働組合とそれを支援する共産党の方がたでした(新聞「赤旗」にその記事が掲載されています)。 

その新聞記事では、ヤマト運輸でいかにサービス残業が苛酷に行われていたかが記載されていました。また、同社内で酷いパワハラ・イジメがあったことも報道されました。いずれにせよ、最終的にヤマトが何百億もの残業代を遡及是正したのですから、サービス残業の事実は間違いないものだと思います。 

「ヤマト運輸はブラック企業」そのような評判が立ち始めた頃、情報の出し手がいつの間にか変わってきました。ヤマト運輸自体が、「当社では如何に残業代が不払であったか」を積極的に発表するようになってきたのです。

(続く)

 

長時間労働規制の問題点(25)


(西丹沢の檜洞丸のヤマツツジ、by T.M)

(前回のブログの続きです。)

次のものが、私が考案したマネジメントシステムで、雑誌「労働安全衛生広報」に私が以前発表したものです。全文を引用します。

「労働時間短縮マネジメントシステム
(作:労働安全衛生コンサルタント 小原 立太)

1 目的
年間総労働時間を継続的に毎年5%削減する。
(ただし、この数値目標は、各企業ごとが自由に設定する。この数値目標は、いわゆる「PDCA」を明確にするものである)

2 要求事項
①コンプライアンス
残業代不払い、労使協定違反等を一切なくす
②健康確保
従業員の健康確保を第一とする
③労使合意
労働時間短縮には、労使の協力が不可欠である。

3 実施及び運用
(1) 企業のトップが、労働時間短縮の意義及び目的を宣言する。

(2) 当システムにおける、組織の役割及び責任を明確とする。

(3) 現状の労働時間の把握をする。
「労働時間隠しは、労働時間短縮の最大の障害」であることを全従業員に周知させ、「連絡」「待機」「準備」等の些少な労働時間まで把握することにより、各職場の問題点を明確とする。

(4) (1)において明確となった労働時間に影響を及ぼす側面において、労使協議会において対策を協議し、目的達成の手順を確立する。
また、数値目標は全従業員の延べ時間数に対するものであるが、各職場に「おいて、「最長労働時間の限度」を設定し、個人の労働時間の限度とする。

(5) 当システムを円滑に実施するための、社内規則の整備を行う。」

長時間労働規制の問題点(24)


(西丹沢の檜洞丸のシロヤシオ、by T.M)

前回の記事で、本日更新の記事には、私の考案した「労働時間短縮マネジメントシステム」について掲載すると予告しましたが、本日は以下のようなニュースがありましたので、そちらについて書きます。

「電通本社を略式起訴へ、幹部は不起訴…違法残業
6/23(金) 6:21配信 (読売新聞)
大手広告会社・電通(東京)による違法残業事件で、東京地検は、独自捜査で新たに東京本社の幹部数人の労働基準法違反を認定した上で、同法の両罰規定に基づき、法人としての同社を近く略式起訴することが関係者への取材でわかった。
地検が任意で事情聴取した山本敏博社長(59)が、法人としての責任を認めていることも判明した。東京労働局が書類送検した男性幹部1人を含む本社の幹部数人は不起訴(起訴猶予)となる見通し。
一方、4月に同容疑で書類送検された関西(大阪市)、中部(名古屋市)、京都(京都市)の3支社の事件について、大阪、名古屋、京都の3地検は東京地検に事件を移送せず、法人と3支社幹部をいずれも不起訴(起訴猶予)とするとみられる。政府の働き方改革の議論にも大きな影響を与えた電通事件の捜査は、本社の違反だけが処罰対象となり、終結する。」

この事件を担当された、検察庁の方々、そして労働局の皆さま、苦労が報われたと思います。敬意を表します。ご苦労様でした。

略式起訴したら、電通側は正式裁判を求めないと思いますから、「罰金30万円以下」が確定でしょう。これは、労働局・検察の勝利でしょう。

ただ、この新聞記事から気になることがあります。次のような箇所です。
「東京地検は、独自捜査で新たに東京本社の幹部数人の労働基準法違反を認定した上で、同法の両罰規定に基づき、法人としての同社を近く略式起訴する。
地検が任意で事情聴取した山本敏博社長(59)が、法人としての責任を認めていることも判明した。東京労働局が書類送検した男性幹部1人を含む本社の幹部数人は不起訴(起訴猶予)となる。」

つまり、労働局が送検した「犯罪事実」について、個人は不起訴としたということです。
そして、検察庁は独自捜査し、別の法違反も「犯罪事実」とし、個人の犯罪は不起訴とし、社長が認めているから両罰の規定により法人を処罰するということです。

労基法121条1項(両罰規定)は次のようなものです。
「この法律の違反行為をした者が、従業員である場合においては、事業者に対しても各本条の罰金刑を科する。」

通常は、個人の違反行為があって、法人の違反行為を起訴します。

しかし、法人のみ起訴ということもあります。それは検事が次のように考えた場合です。
「従業員の犯罪は、結局会社にやらされてのことじゃないか。本当に悪いのは、個人でなく法人だ。」

この考え方は監督官に近いものです。
私が送検した事案でも、従業員不起訴で、法人起訴ということが何回かありましたが、自分たちの仕事の意味が、検事に分かってもらえたようで、嬉しかった記憶があります。

何はともあれ、「何としても、この事件を起訴までもっていく」という、検察庁の気迫を感じた事件終結だと思います。

長時間労働規制の問題点(23)


(西丹沢の檜洞丸から富士山をながめる、by T.M)

(前回ブログの続きを書きます。)
私は、労働時間を短縮する方法として、「労働時間短縮マネジメントシステム」を考案してみました。それは、次回以降のブログでその全文を紹介しますが、その骨子は次のようなものです。

1 労働時間の正確な把握
労働時間短縮の最大の敵は、「労働時間隠し」であることを労使が理解すること。
監督署から是正勧告書を交付された後で、多くの会社が「労働時間隠し」が行われてしまう。「労働時間隠し」が行われてしまうと、絶対に労働時間は削減されない。
逆に、労働時間さえ細部にわたり明確となれば、削減は可能である。

2 数値目標
マネジメントシステムのPDCAは、数値目標の置き換えると、理解が簡単である。
例えば、
Plan 「月200時間働いている労働者に対し、10%の労働時間削減の目標を立てる」
Do   「Planを実行した」
Check「しかし、5%しか改善されなかった}
Act  「改善した」

マネジメントシステムとは、つまり数値目標が設定されているシステムのことである。
(当然、数値目標が設定不可能なシステムもあるが、それは後日に説明します。労働時間短縮は完全に数値目標が設定可能です。)

3 労使協議会で改善点を協議
労働時間が完全に把握できたら、それを労使協議会にかけ、改善箇所を検討し実行する。

なお、このシステムを稼働させるのあったては、①労使の協力、②コンプライアンス、③生活習慣病の徹底予防、この3項目が必須である。

長時間労働規制の問題点(22)


(上越線の水上号 ,by T.M)

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今日は、某社の安全大会。私は、そこで1時間ばかり、「長時間労働と労働衛生」の話をします。
「働き方改革」とは、要するに「育児と介護」の時間を労働者が確保するために行われるものです。
その方法は
    ①「長時間労働の抑制」
    ②「正規雇用労働者と非正規雇用の労働者の格差を縮める」
    ③「労働生産性を高くする」
ということで、その結果
    「労働者の家庭にいる時間を長くし、育児と介護時間を確保し」
    「女性・高齢者(非正規労働者となる可能性大)の社会進出を拡大し」
    「子育てしやすい環境を整え出生率を上げる」
というものです。
そんな流れの中で、現在の労働局の「長時間労働の取締り」が行われています。
ロジックは理解できますが、上手くいくのでしょうか(特に「労働生産性の向上」の箇所)。成功したら、とても素晴らしいことだとは思います。
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(前回ブログの続きを書きます。)
労働基準監督署は、「違反を指摘するが、違反の是正方法は教えてくれない」とよく言われます。
もちろん、違反を勧告する監督署側に立って言うならば、「何甘えたこと言ってるんだ」ということになります。監督署は民間企業の「経営」の部分には、口を出しません。行政が、その部分に指示をするということは、自由社会ではなくなるからです。従って、行政は「法違反だから、それをするな」と言うことしかできません。その理屈は、私も理解しています。

しかし、「是正勧告書」でそれまで企業が行ってきた「文化」を否定して、それを変えろという訳です。それが、「100%悪い文化」だとしても、何かしら方向性のようなものを示す必要があると思います。(「100%悪い文化」などあるのでしょうか)