技能実習生

(狩野川放水路、by T.M)

読売新聞6月26日

厚生労働省は、国内企業で勤務する外国人労働者の賃金や勤務形態、労働時間などを把握できる統計を来年度に新設する方針を固めた。外国人労働者に特化した統計が整備されるのは初めて。統計は労働市場の分析や政策立案の基盤データと位置づけられ、外国人労働者の待遇改善や就業支援、専門性の高い人材と企業のマッチングなどに活用する。

同省は来年度の概算要求に関連費用を盛り込む方針だ。

(略)

外国人労働者を巡っては、同省が集計する「外国人雇用状況の届出」で、技能実習や永住者といった在留資格別の人数が把握できるにとどまる。賃金については、賃金構造基本統計調査の一部に外国人のデータが含まれているが、サンプル数が少ない上に勤続年数と昇給の関係など詳細な内容がないため、労働実態の把握は困難だった。

新統計は日本人労働者との比較を可能にするため、同省が従来実施している雇用動向調査などと同様の事項を盛り込む。具体的には、▽正規・非正規など雇用形態別の労働者数▽賃金▽労働時間▽離職率――などを数値化し、産業別や企業規模別、都道府県別に示す。

個々の外国人労働者や勤務先の事業所に対する調査は来年度から年1回実施する。国籍や在留資格・期間のほか、職種や収入、昇給、勤続年数、社会保険への加入状況など雇用・労働に関する項目を中心に調べる。母国での学歴、親族への仕送り額といった外国人に特有の項目も設ける。

久々の良いニュースだと思います。

私は、技能実習生の現在の取扱いについては頭にきていました。「現在の奴隷制度」と言われても非難されても仕方がないと思っていました。

そりゃあ、技能実習制度がうまく機能している企業の例も知っています。ある金属製品製造業者(従業員100人未満の中小企業)では、インドネシアからの技能実習生を受け入れていますが、技能実習生たちは、日本で受けた研修後に、インドネシアの同企業の現地法人に就職し、その現地法人の幹部に出世していました。社長さんは、その会社の創業者で70歳を超えている方ですが、嬉しそうにインドネシアに居る元技能実習生とオンラインでビジネス会議をしています。

ただ、こんな理想的に上手くいっているのは、ほんの一握りでしょう。というより、こんなうまくいっている事例を隠れ蓑にして、実習生を搾取しているものが多いと思います。

私の感覚ですが、技能実習制度が一番機能していないのは農業ではないかと思います。農業の仕事は過酷ですし、労働基準法第41条の規定により、「労働時間,休憩及び休日に関する規定」は適用されないことになっています。

つまり、農業に従事する技能実習生については、「36協定(時間外労働協定)なく」「週40時間の規制なく労働時間青天井」「残業に係る割増賃金を支払わない」等であっても労働基準法違反は問えないのです。

(もっとも、これは、「日本の農業従事労働者」については共通の課題なのですが・・・)

ジョン・アーヴィングの作品に、映画化もされた「サイダーハウスルール」という、アメリカ合衆国のリンゴ農園で働く労働者の生活を描いた名作がありましたが、映画の中の牧歌的な風景とは違う、日本の労働従事労働者」の実態があるような気がします。

まあ、私の「感覚」で技能実習制度を非難しても結論はでないこと。新たに始まる外国人労働者に対する雇用統計に期待したいと思います。

休みます

(ロウバイ、by T.M)

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勝手ながら、今週は更新を休みます。

委託への是正勧告

(フクジュソウ、by T.M)

やっぱり韓国ドラマって凄いと思います。

日本の「半沢直樹」にように、企業内の人間関係と陰謀をテーマにした韓国ドラマの『大丈夫じゃない大人たち~オフィス・サバイバル~』が現在CS放送のホームドラマチャンネルで放映されています。このドラマで、次のような人物Aが登場します。

「Aは大手家電製造会社のXに所属する、人事課に所属するエリート社員。Xは地方工場のYの人員整理を行うこととした。Xは人事のプロのAに『成功したら取締役にする』との約束をし、『リストラをスムーズに行う下準備をすること』という極秘命令を与えAを地方工場Yに赴任させる。この本社の極秘命令のことは、Yの工場長も知らない。Aは、Yにおいて人事に不満を抱くベテラン社員Bに、『私のいうことを聞いたら、人事で優遇する』と約束し、Bを利用しリストラの準備をする」

どうですこの物語。日本の半沢直樹なら、この「人事のA」と「裏切者のB」にYの従業員たちが「倍返し」をし、「本社のリストラの陰謀を潰す」というのが「お約束」です。

ところが、この韓国ドラマでは、なんとAが「ヒロイン(女優)」であり、主人公なのです。当然、Aは様々な葛藤、事情を抱えています。この悪役のAの立場から見た企業の姿が、単純なストーリーの「半沢直樹」より、ドラマへ奥行を与えているのです。

(しかし、どうして、日本のドラマは長く続くと、つまらなくなってしまうのだろう。「半沢直樹」も「ドクターX」も第2シーズンぐらいまでは面白かったけど、いまじゃ「水戸黄門」だもんな)

このドラマの凄さはそのリアルティです。ドラマの第一話の冒頭で、従業員を解雇する場面がでてくるのですが、それは私が労働基準監督官時代に見聞したリストラの場面にそっくりでした。もしかしたら、「リストラ」を経験した日本の企業は、このようなドラマのスポンサーになることを嫌うかもしれません。そんなドラマを作れることが、韓国ドラマを面白くしている原因のひとつなのかもしれません。

読売新聞 5月29日

ネット通販「アマゾン」の荷物の宅配を運送会社から業務委託された個人事業主のドライバーについて、運送会社から指揮命令を受けており、事実上の雇用関係にあるとして、労働基準監督署が運送会社に労働基準法違反で是正勧告していたことがわかった。宅配荷物の増加で、個人ドライバーに業務委託する動きが物流業界で広がる中、違法とする認定が明らかになるのは異例。今後影響が広がる可能性がある。

 関係者によると、運送会社は、「アマゾンジャパン」の荷物の配送を受託する複数の協力会社のうち最大手で、東証プライム上場の「丸和運輸機関」(埼玉県吉川市)。春日部労基署(埼玉県春日部市)が1月に出した勧告では、同社が宅配を業務委託している個人ドライバーの一部について、同社の労働者にあたると認定した上で、労基法で定められた労使協定を結ばずに法定労働時間(1日8時間)を超えて働かせたなどとしている。

 同社は、個人ドライバーと、1日あたりの固定料金で宅配を業務委託。しかし、ルートを指定したり、予定外の配達を急に指示したりしていたほか、制服の着用も求めていた。また、報酬の一部を「事務管理料」として天引きしていたという。

 業務委託では、報酬は成果に対して支払われる。業務の進め方は個人事業主の裁量に任される。企業が指揮命令すれば、雇用関係にあるとみなされ、企業は労働条件を書面などで明示することが必要になる。怠れば労基法違反になる。

 労基署は是正勧告を出した企業に改善内容をまとめた報告書の提出を求める。

 同社の昨年3月期の売上高は1121億円。うち23・4%がアマゾン関連という。

 同社は読売新聞の取材に、委託する個人ドライバーについて「労働者性は認められない」とする一方、是正勧告については「お答えできない」としている。

 物流業界では、宅配荷物の急増と人手不足を背景に、個人ドライバーに委託する動きが近年急拡大している。国土交通省によると、軽貨物運送業者数は2016年度は約16万業者だったが、20年度には約20万業者に増え、同省は、この大半が個人ドライバーとみている。

これは、大きなニュースです。私は、トラックドライバーの待遇の改善こそが、日本の低賃金の解消の第一歩になるものだと思っているからです。

大きな通販会社の物流倉庫に行ってみると、その巨大さに圧倒されます。その存在が、「地方都市のデパートや商店街を衰退させている」くらいなのですから、まさに産業構造の変化の象徴と言えるものです。

この通販の運送の現場では、世界中で「委託」という名の「搾取」がまかりとおっています。ケン・ローチ監督の映画「家族を想うとき」では、その実態が描かれ、また最近のNHKの「クローズアップ現代」では、その問題が取り上げられました。

米国のアマゾン本社では、格差是正のために自ら取り組んでいるとも聞きます。この記事にある「丸和運輸機関」とは、宅配を中心に拡大している企業で、ここ数年間で株価は10倍以上になっています。また、Wikipediaの説明によると「社員教育」に力を入れている優良企業ということです。ぜひ、業界を引っ張る企業として、この是正勧告を契機として、委託先への待遇改善に取り組んで頂きたいと思います。

上智大学の賃金不払い

(羽田空港、by T.M)

毎日新聞5/29(日)

 上智大学の非常勤講師に賃金を支払っていないとして、大学側が労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが関係者への取材で判明した。大学側は勧告に応じず、労働基準監督署が出した勧告書の受け取りも拒否したという。是正勧告は法律違反を前提とした行政指導。是正しない場合などは書類送検されることがある。知名度の高い高等教育機関が行政指導に背いたことに、関係者からは疑問の声が上がっている。

 賃金の不払いを申告したのは、語学の非常勤講師を務める60代の女性。女性が東京労働局中央労働基準監督署に提出した申告書や、加盟する労働組合「首都圏大学非常勤講師組合」によると、女性は日本語初級コースを担当。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた2020年度からのオンライン授業の導入に伴い、教材を1人で作成した。

 女性は20~21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した。このうち20年3~5月の計22日間(52時間)は、授業がなく無給とされた期間だった。

 労組によると、労基署は実態調査に基づき、女性に労働の実態があったと認定した。女性と大学側が交わした契約書には、業務として教材の作成が記されていないことなどから、「新たに発生した対価を伴う労働」と判断。労基法違反を認め、賃金を支払うよう今年2月16日付で勧告した。

 女性によると、大学側は不払いの理由を「授業時間の給与に含まれるため」と説明したが、労基署はこうした主張を退けた形だ。

 大学側は勧告書の受け取りを拒んだため、労基署は口頭で読み上げたという。労基署は勧告への対応について、この日と3月17日の2回にわたり、期限を設けて回答を求めた。初回の期限は3月10日、2回目は同25日だったが、大学側はいずれにも応じなかった。

 女性は「教育機関が公的な勧告を無視するのは信じがたい」と憤る。労組の佐々木信吾書記長は「影響力の大きい有名大であっても、非常勤講師の労働時間管理はルーズなケースが多い。賃金はきちんと支払うべきだ」と指摘する。

 厚生労働省労働基準局監督課は、一般論と断った上で「勧告は違法行為を認定して出す。従うよう繰り返し指導する」としている。

 毎日新聞の取材に、大学を経営する学校法人上智学院は「現在、労基署との相談・協議を継続し、学内においても対応を検討している」とメールで回答した。

「労働組合が告発した」とか

「大学側が態度を和らげた」との続報

もありますが、重要なことがまったく分からない記事です。

この事件は、「申告者及びその労働組合」が前のめり過ぎて、労基署は困惑しているのではないでしょうか?大丈夫でしょうか?

この事件で、労働基準法第24条違反(賃金不払い)が成立しているという、中央労働基準監督署の見解に私は賛成します。しかし、刑事事件の成立には疑問です。告発された以上、検察庁に送付しなければいけないのは当然ですが、検察庁で不起訴になる可能性が大きいと思います。

理由は、「何時間労働していたのか」ということが証明できていない気がするからです。

「女性は20~21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した」

これはあくまで申告者の主張です。「タイムカード」とか「自宅で職場のLANに接続し、サーバーにその記録が残っている」というような客観的な証拠がなければ、賃金不払いの24法違反の特定はできません。

よくweb上で、「労働時間の記録は自分のメモ書きでよい」などとの噂がありますが、それは、「過労死の認定判断」や「民事裁判」で役にたつことがあるということであり、「本人が作成した証拠」では刑事事件の証拠にはなりません。

私の予想ですが、監督署は

「賃金不払いの違反は確かだ。だから、是正勧告を出す。でも、未払い賃金の特定はできないので、そこは申告者の話合い、もしくは民事裁判で決着をつけてくれ。大学側は、今後労働契約を見直し、労働時間を把握し、適正な賃金を支払ってくれ」

というような姿勢だったのではないでしょうか。大学側は、それを過度に警戒し、是正勧告書の受取を拒否したから、話が大きく広がってしまったのではないでしょうか。

さて、監督署もここまで来たら、後へは引けないでしょう。電通事件の時のように経営トップの取調べをしなければなりません。つまり、学長からの事情聴取です。

私が捜査担当官なら、労働基準法第24条違反(賃金不払い)ではなく、労働基準法第15条違反(労働条件の通知)も併せ送検すると思います。もっとも、その違反でさえ「不十分な内容といえども、労働条件通知書は交付されているので、違反はない」と判断されてしまうかもしれませんが・・・