委託への是正勧告

(フクジュソウ、by T.M)

やっぱり韓国ドラマって凄いと思います。

日本の「半沢直樹」にように、企業内の人間関係と陰謀をテーマにした韓国ドラマの『大丈夫じゃない大人たち~オフィス・サバイバル~』が現在CS放送のホームドラマチャンネルで放映されています。このドラマで、次のような人物Aが登場します。

「Aは大手家電製造会社のXに所属する、人事課に所属するエリート社員。Xは地方工場のYの人員整理を行うこととした。Xは人事のプロのAに『成功したら取締役にする』との約束をし、『リストラをスムーズに行う下準備をすること』という極秘命令を与えAを地方工場Yに赴任させる。この本社の極秘命令のことは、Yの工場長も知らない。Aは、Yにおいて人事に不満を抱くベテラン社員Bに、『私のいうことを聞いたら、人事で優遇する』と約束し、Bを利用しリストラの準備をする」

どうですこの物語。日本の半沢直樹なら、この「人事のA」と「裏切者のB」にYの従業員たちが「倍返し」をし、「本社のリストラの陰謀を潰す」というのが「お約束」です。

ところが、この韓国ドラマでは、なんとAが「ヒロイン(女優)」であり、主人公なのです。当然、Aは様々な葛藤、事情を抱えています。この悪役のAの立場から見た企業の姿が、単純なストーリーの「半沢直樹」より、ドラマへ奥行を与えているのです。

(しかし、どうして、日本のドラマは長く続くと、つまらなくなってしまうのだろう。「半沢直樹」も「ドクターX」も第2シーズンぐらいまでは面白かったけど、いまじゃ「水戸黄門」だもんな)

このドラマの凄さはそのリアルティです。ドラマの第一話の冒頭で、従業員を解雇する場面がでてくるのですが、それは私が労働基準監督官時代に見聞したリストラの場面にそっくりでした。もしかしたら、「リストラ」を経験した日本の企業は、このようなドラマのスポンサーになることを嫌うかもしれません。そんなドラマを作れることが、韓国ドラマを面白くしている原因のひとつなのかもしれません。

読売新聞 5月29日

ネット通販「アマゾン」の荷物の宅配を運送会社から業務委託された個人事業主のドライバーについて、運送会社から指揮命令を受けており、事実上の雇用関係にあるとして、労働基準監督署が運送会社に労働基準法違反で是正勧告していたことがわかった。宅配荷物の増加で、個人ドライバーに業務委託する動きが物流業界で広がる中、違法とする認定が明らかになるのは異例。今後影響が広がる可能性がある。

 関係者によると、運送会社は、「アマゾンジャパン」の荷物の配送を受託する複数の協力会社のうち最大手で、東証プライム上場の「丸和運輸機関」(埼玉県吉川市)。春日部労基署(埼玉県春日部市)が1月に出した勧告では、同社が宅配を業務委託している個人ドライバーの一部について、同社の労働者にあたると認定した上で、労基法で定められた労使協定を結ばずに法定労働時間(1日8時間)を超えて働かせたなどとしている。

 同社は、個人ドライバーと、1日あたりの固定料金で宅配を業務委託。しかし、ルートを指定したり、予定外の配達を急に指示したりしていたほか、制服の着用も求めていた。また、報酬の一部を「事務管理料」として天引きしていたという。

 業務委託では、報酬は成果に対して支払われる。業務の進め方は個人事業主の裁量に任される。企業が指揮命令すれば、雇用関係にあるとみなされ、企業は労働条件を書面などで明示することが必要になる。怠れば労基法違反になる。

 労基署は是正勧告を出した企業に改善内容をまとめた報告書の提出を求める。

 同社の昨年3月期の売上高は1121億円。うち23・4%がアマゾン関連という。

 同社は読売新聞の取材に、委託する個人ドライバーについて「労働者性は認められない」とする一方、是正勧告については「お答えできない」としている。

 物流業界では、宅配荷物の急増と人手不足を背景に、個人ドライバーに委託する動きが近年急拡大している。国土交通省によると、軽貨物運送業者数は2016年度は約16万業者だったが、20年度には約20万業者に増え、同省は、この大半が個人ドライバーとみている。

これは、大きなニュースです。私は、トラックドライバーの待遇の改善こそが、日本の低賃金の解消の第一歩になるものだと思っているからです。

大きな通販会社の物流倉庫に行ってみると、その巨大さに圧倒されます。その存在が、「地方都市のデパートや商店街を衰退させている」くらいなのですから、まさに産業構造の変化の象徴と言えるものです。

この通販の運送の現場では、世界中で「委託」という名の「搾取」がまかりとおっています。ケン・ローチ監督の映画「家族を想うとき」では、その実態が描かれ、また最近のNHKの「クローズアップ現代」では、その問題が取り上げられました。

米国のアマゾン本社では、格差是正のために自ら取り組んでいるとも聞きます。この記事にある「丸和運輸機関」とは、宅配を中心に拡大している企業で、ここ数年間で株価は10倍以上になっています。また、Wikipediaの説明によると「社員教育」に力を入れている優良企業ということです。ぜひ、業界を引っ張る企業として、この是正勧告を契機として、委託先への待遇改善に取り組んで頂きたいと思います。