厳重注意処分

(江戸の濃い味を伝える日本橋弁松の弁当、by T.M)

こんな新聞記事を見つけました。

菅官房長官「担当者レベルの問題」 「桜」文書の不適切管理
1/20(月) 11:39配信
時事通信
 菅義偉官房長官は20日の記者会見で、首相主催の「桜を見る会」に関する文書を公文書管理法などに違反して不適切に取り扱ったとして、内閣府が歴代の人事課長6人を厳重注意処分とした理由について「担当者レベルの問題が大きく、現場の責任者である担当課長を処分対象とした」と説明した。

 
実は公務員にとって「厳重注意処分」って、あまり意味はありません。
人事記録に残る訳ではないので来期分以降の人事評価には一切関係ないですし、もしかしたら今期分だって関係ないかもしれません。厳重注意処分は最低ランクの懲戒ですので、今回のように「忖度」ゆえの「処分」でしたら、来年以降は「破格の栄転」となるかもしれません。

私がどうして、こんなことを自信満々に書けるかというと、かつては私もこの処分を受けたことがあるからです。
私の場合は「情報漏えい」でした。複数の個人の住所と氏名が記載された文書を、関係団体にFAXしてしまったのです。FAXに記録されていた、送信先の短縮ボタンを誤って押してしまったことが原因でした。
この件については、送信先の関係団体が協力してくれたので外部には一切の情報が漏れませんでしたが、組織内の総務課等は後始末に奔走し多大な迷惑をかけてしまいました。

ただ、この件については「情報漏えい事件」が世間的に注目されてきた時期ですので、 マスコミ発表をしました。マスコミはこんな事件を取り上げなかったのですが、そのマスコミへの発表文書には、
   「私」を厳重注意処分とする
と記載されていました。私はマスコミ発表文で、自分への処分内容を知りました。その時、私は、「国民個人の情報を漏洩させたのだから処分はしかたがない。減給処分以上にならなくてよかった。」と思いました。

それから、私は人事係から呼び出されるのを待ちました。「厳重注意処分」ということは、「偉い人」から説教を受けるのだなと想像していました。ところが、いつまで待っても人事係から連絡はありません。さすがに2ヶ月くらいしてから、人事係に事情を聞きと、「あの件はもう処分済ですよ」と返事がきました。

つまり、マスコミに発表しただけで実際には、組織は何のアクションも起こさずに、厳重注意処分済となったのです。せめて、
    偉い人が「深く反省しろよ」と直接該当者を叱るとか
   「再発防止対策を作成しろ」という命令を受ける
ことがあっても良かったのではないかと思います。

もちろん、これはローカルな局の下っ端公務員が処分を受けた一例であって、霞ヶ関の偉い方の場合には違うことかもしれませんが、「FAXの誤送信」と「故意の公文書廃棄」では、役所世界では同程度に悪質だということです。

悪徳コンサルタント(退職代行2)

(未舗装の林道川上牧丘線を下る2ストジムニー・長野県川上村、by T.M)

例えば、私(悪徳コンサルタント)が事業主から次のような相談を受けたとします。「さっき、退職代行業と名乗る人から電話がかかってきました。何のことか分からないから、後でもう一度電話をくれと言っておきました。電話がかかってきたら、対応してくれませんか。」

さあ、私はどう対処しましょうか。まずは、水際作戦はどうでしょうか。

退職代行・電話「私は××会社の○○ですが、貴社のAさんが退職したい意思を持っているのですが」

私「あなたは誰です」

退職代行「ですから××会社の○○ですが、Aさんの代理の者ですが」

私「当社が誰を雇用しているかは企業秘密であり、また個人情報保護の観点から教える訳にはいきません。私が、その『Aさん』とやらのことについては話すことは、『Aさん』が当社に勤務していることを認めることになります。ですから、あなたとの電話には対応しません。」

退職代行「Aさんの代理と言っているんです」

私「この電話であなたが何を申し上げても、私はイタヅラ電話の可能性があるので、何も対応もしません。あなたの話しが本当なら、こちらに委任状でももって出向いてきてらいかがですか。もっとも、その場合でも、まずは委任状の真贋について確認します。」

退職代行が弁護士資格を持つものでなければ、このへんで引き下がるでしょ。

また、水際作戦でなければ、次のような対応はどうでしょうか。

私「Aさんの退職については了解しました。つきましては、最後の給与は直接本人に渡しますので、事務所まで取りに来て下さい。」

退職代行「今までどおり、銀行振込みにして下さい。そうでなければ、賃金不払いの法違反となります」

私「労働基準法弟24条には、賃金は『所定期日』に『通貨』で『直接本人』に支払うことが定められています。この原則の例外事項として労働基準法施行規則第7条の2に『労働者の合意があれば、銀行振込みができる』とされています。私は、今、A氏の代理人であるあなたに『賃金の支払方法を直接本人払いとする労働条件の変更』をあなたに通知しました。『労働者の合意なき労働条件の不利益変更』は認められませんが、『労働基準法の原則である直接払い』に変更することは、『労働条件の不利益変更』になるとは思いませんので、賃金不払いの法違反は発生しません。監督署へでもどこにでも行って下さい」

(注)前にも書きましたが、悪徳コンサルタントの目的は「正しいこと」を主張するのでなく、「難癖をつけて」相手を煙に巻くことです。

 

さて、ただ悪徳コンサルタントであっても、一応事業主には次のようなことを話しておきましょう。

「本人が連絡もしてこないで、代行を名乗る者が電話だけで退職するなんて、ひどい労働者ですよね。でも社長さん、何かこのようなことを労働者にされる覚えがありませんか。例えば組織内でイジメがあったとして、それが『組織ぐるみのイジメ』でなくても、『上司が、部下どおしのイジメの存在を知っていて、組織が何も措置しなかった場合』は、会社の責任が問われることもありますよ。今後は同様なことがおきないように労務管理が行えるようになったら、今回の事件が一時的には不愉快であっても、長期的にはメリットがあったと思えばいいのではないですか」

 

 

悪徳コンサルタント・退職代行(1)

(大菩薩の山並み・山梨県甲州市、by T.M)

最近、退職代行業が益々盛況だという話です。ブラック企業では、従業員を脅かし、なかなかやめさせてくれないところが多いから、労働者に代わって、「会社に電話連絡し」、退職の意思を伝達してくれるそうです(「退職手続」の代理は、弁護士でないためできないから、「意思伝達」のみ行うそうです)。

長年、監督官と労働者や事業主の間のトラブルを見聞してきた私にとっては、この商売は少々危ないものに思えてしまいます。弁護士資格をもたない者、あるいは労働組合でない者が電話をかけるだけで報酬を得ることに違和感を覚えます。「やめます」の一言を、せめて労働者は電話越しでもいいので、言うことはできないのでしょうか。 (注) 世の中には、「弁護士資格」を持つ者が退職代行をしたり、あるいは組合加入者の退職手続きを行う労働組合があるということですが、このような「正当な行為」を行っている者を非難するつもりはありません。

 

こんな新聞記事を見つけました。

大相撲宮城野部屋の幕内・石浦と幕下力士が4日、都内で相撲を取る稽古中にヒートアップしてケンカ騒動を起こし、横綱・白鵬が仲裁する場面があった。 お互いが拳を振るってしまい、師匠・宮城野親方(元幕内・竹葉山)は両力士を厳重注意。闘志むき出しの稽古中の出来事とはいえ、日本相撲協会は暴力根絶に取り組んでおり、同親方は「熱くなっても悪いことは悪いこと」と速やかに事実を協会に報告したと明かした。幕下力士は「稽古場のことなので…」と話し、石浦も「冷静にならないとダメですね」と猛省していた。

監督署に相談に来る、労使間のトラブルの中には、上記のような人間関係のトラブルも多く存在します。上記のケースも幕下力士は「パワハラを受けていて我慢ができなかった」ということが現実かもしれません。

なんの根拠もなく、「先輩」が「後輩」を上から目線で見る・・・こんな習慣は確かに馬鹿馬鹿しく、理不尽なものですが、そのようなトラブルから退職にまで行くケースを何回も見てきました。それが人間の社会だと言ってしまえばそれまでですが、そういったトラブルが原因で退職代行を頼み退職したとしたら、なぜだという疑問を私を感じます。

人間関係のトラブルと労働契約の「義務と責任」は別のものだと考えるからです。

退職代行を使わずに、自分で会社に電話をかけることはできない。そこまで「追い込まれている」という人も確かにいると思います。しかしまた、「会社に対し、後ろめたいことをしたから、自分で電話ができなというケースもあるのではないでしょうか。

(例)「なんとなく仕事が嫌になってしまって、ずるずる無断欠勤を続けてしまった。やめようと思うが、電話しずらくて退職代行に頼んで代わって電話をしてもらった」というケースもありそうな気がします。

さて、悪徳コンサルタントが、ある会社の社長から

「従業員が欠勤したと思ったら、退職代行業から電話がかかってきた」

というような相談を受けとしたらどうアドバイスするか。次回に考えて見たいと思います。

 

悪徳コンサルタント(3)

小金沢連嶺湯ノ沢峠付近で見つけたケーブルクレーン・甲州市、by T.M)

皆さま、明けましておめでとうございます。

本年も、またよろしくお願いいたします。

さて、セブンイレブンの残業代の不払事件のような事件があるブラック企業で発生し、それをブラック企業から依頼された悪徳コンサルタント(私)が、どのように監督署に言い訳をするかという状況を書いてみます。

セブンイレブンの残業代不払い事件の原因は、会社の給与計算プログラムへの指数の入力ミスであることは間違いないようです(会社もそれを認めています)。

「精勤手当」の割増賃金として、「125%の割増賃金×時間外労働時間数」を入力しなければならないのに「25%の割増賃金×時間外労働時間数」としてしまったのです。

でも、悪徳コンサルタントである私は、監督署相手に、「なぜ、それがいけないのだ」と開き直ると思います。そして、その計算方法で正しいと主張します。

私の論法は次のとおりです。

「精勤手当は通常、遅刻・早退・欠勤がなければ支払われる手当である。だが、当社の精勤手当はそれらの条件に付け加え、残業を快く引き受けてくれた者に支払われることが条件としてある。もちろん、残業は36協定の締結があれば使用者の命令で行わさせることができるが、当社では労働者の許諾の意を確認し残業命令を出すことにしている。残業時間を含む労働時間に対する割増賃金であるから、125%割増でなく、25%の割増だから正しいはずだ。」

この私(悪徳コンサルタント)の主張の根拠は、歩合給に対する割増賃金の計算方法を用いていることです。歩合給とは、例えば営業マンが「売上の何パーセント」といった約束で支払われる賃金のことですが、この「歩合給」について言えば、割増賃金は「125%」でなくて「25%」でかまわないのです。これは、「歩合給の算定基礎となる売上」とは、残業時間を含めた全労働時間に発生するものであるから、このような考え方をします。

つまり、「精勤手当」とは、「歩合給」のようなものであるから、「125%」でなく「25%」でよいのだという主張です。

(注)労働基準法に詳しい方なら気付くと思いますが、歩合給に対する残業代の割増賃金の計算は、歩合給を「全労働時間」で除した金額で計算します。今回のセブンイレブンの計算ミスは、「精勤手当」を「所定労働時間」で除していますから、もちろん、こんな屁理屈は通常とおりません。でも、悪徳コンサルタントは、「所定労働時間」で除した方が賃金額が高くなると説明します。

悪徳コンサルタントの目的は、「正しい主張」をすることでなく「監督署にダメモトで主張してみる」ことですからこれで良いのです。

そこで、誠実な監督官が理をつくして説得してきたのなら、こ悪徳コンサルタントは次のように答えます。

「あなたの見解と、私の見解は違います。ただ、役所とケンカするつもりはありませんから、今後法違反はしないようにします。ただし、過去の法違反の遡及是正は、当社も言い分があるのでしません。」

この後、監督署が本気で司法処分でもしそうな時はあっさり支払いますが、監督署は中々動かないと思います。何より「未来に向かっては法違反を是正する」と約束しているのですから、「過去の未払い」についてはケースバイケースで対応しようとなるはずです。「精勤手当」のような本俸と比較して少額の手当の割増率が低いというだけで司法処分はしない可能性が高いと思います(少なくとも、私の現役時代はそうでした)。

役所には、ごねた者が勝ち。嫌な現実ですが、確かにそのような所はあります。世の中、セブンイレブンのように監督署の言うことを素直に聞いてくれるところばかりではありません。だから、悪徳コンサルタントの需要はあるのです。