働き方改革について(8)

(「さよなら115系湘南電車、高崎駅にて by T.M)

日本テレビ「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」、いいですね。はまってしまいました。「Missデビル」と呼ばれる、ある巨大保険会社と契約したスゴ腕の謎の人材コンサルタント椿眞子(役・菜々緒)の物語です。彼女は、会社と契約し、会社の刃部に所属する「人材活用ラボ」の室長をしていますが、その仕事は「リストラの対象者」を探し出すこと。と言っても、彼女の行う「首切り」は、実は労働者のためにでもなっているもので、その対象労働者が退職届を提出するまでに様々な会社の問題が描き出されるという物語です。

昨日のドラマの内容ですが次の通りです。

「残業減らす。有給休暇をすべて消化する」と口先だけ言って、すべて部下に丸投げしてしまう部長と、労働意欲がまったくない若手に挟まれた中間管理職の課長が、仕事を抱えてしまい、精神的に追い込まれて行くといったストーリー。結局、この課長は自分の部下に暴力事件を起こしてしまい、自ら会社を去るのですが、第2の人生で「板前」を目指し頑張って仕事をしているところで話を終えます。この物語の中で、主人公の人材コンサルタントが会社の人事部長に言った次のセリフが印象的でした。「会社が現在進めている改革(「働き方改革」のこと)は、本当に職員のための改革ですか」

このドラマ、もしかして「化ける」かもしれません。主人公の菜々緒さんが素敵なので、ドクターXの大門未知子のように当たり役となるかもしれません。なんか今後は、訳ありドラマで「ミステリー・復讐譚」になってしまいそうに思わせる箇所もあったのですが、痛烈な労働問題への批評精神はなくさないでいて欲しいです。

少なくとも、「ダンダリン」よりは面白く、職場をリアルに映しています。

 

 

今週はお休みです

皆さま、当ブログに御来訪どうもありがとうございます。

先週、4/18(木)に総来訪者数が100000人を突破しました。

開設は平成28年の3月末なので、26ヶ月目で達成です。最近では1日平均で200名位の方に閲覧されています。

1日何万件の来訪者がある人気ブログになる気配は到底ありませんが、今後も「元労働基準監督官」として、私の見分した情報を発信していくつもりですので、御贔屓の程よろしくお願いします。

ところで、すみません。今週忙しくて通常のブログ更新はできません。

ゴメンナサイ

 

働き方改革について(7)

(いすゞプラザにて、初代クーペ、by T.M)

監督官の「事業主に対する敬意」について少し書きます。その前に、前知識として監督官の臨検監督時の指導方法を説明します。

よく、「是正勧告書」なんて言葉を聞きます。そして、「指導」という言葉も聞きます。この違いは何でしょうか。

監督官が事業場を臨検監督した後に交付する文書は3種類あります。「使用停止等命令書」「是正勧告書」「指導票」です。

「使用停止等命令書」は、労働者が危険な作業をしている時に、その作業の停止等を求める労働安全衛生法第98条に基づく行政命令を行う書類です。相手がその命令を聞かなければ、即時司法処分としなければならない、非常に権限の強いものですが、労働時間に関する労働基準法違反については、この書類は使用しません。

「是正勧告書」とは、監督官が臨検監督実施時に事業場の違反を現認した時に、法違反の是正を求めるために事業主に交付する書類です。

「労働基準法第32条違反 時間外労働協定以上の残業を行ったこと 是正日×月×日(だいたい1ヶ月後)」と書かれていて、書類の最初の方に、「所定期日までに是正されない場合は送検手続きをとることがあります」という警告文が付いています。

労働基準監督官の個人名で交付されますが、これはけっこう大変なことで、法違反を現認し、その場で違反に関する文書を個人名で交付するのは、交通違反取締の警察官と労働基準監督官くらいでしょう。もっとも、最近の監督官は、「違反の確認」に慎重を期するため、事業主を臨検監督後に監督署に呼び出して、是正勧告書を交付することがほとんどです。

指導票は、「法違反でないけど、事業主にはして欲しいこと」を文書として手渡すもので、「行政指導」と言われるものです。例えば、「残業時間の管理を、労働者の自己申告制でなく、タイムカードやICカードで記録して下さい」というようなものになります。実は、良い監督官ほど、この「指導票」の使い方がうまいのです。「是正勧告書」は、「法違反の有無」を記載した機械的な文書ですが、「指導票」の内容は監督官が自由に出せるために、「貴社はこうであって欲しい」という願いが込められている場合があります。

もっとも本省は、この「監督官が自由に出す」ということを嫌いまして、「禁止」とまではいきませんが、「規制」を厳しくしています。また、本省では、「この場面では、このような行政指導を行え」という、行政指導の事例を示しています。先ほどの「労働時間管理は、タイムカードやICカードの客観的なデータを使用しろ」等は、本省指示による行政指導の一例です。

 

働き方改革について(6)

(石垣山一夜城から眺める小田原市街、by T.M)

また、「教師の労働時間」については次回へ回します。

今日は、現在問題となっている、東京労働局長の発言について思うことを書きます。

先日、私の友人の現職の労働基準監督官と夕飯を一緒に食べました。その時に、彼はこの東京労働基準局長の発言に怒っていました。「厚生労働省の幹部がどれだけ、第一線の監督官を馬鹿にしているのがよく分かった。」と述べていました。

監督官は役人ですから、上がやれと言えば、機械的にどこでも臨検監督をします。しかし、心の片隅では、自分たちの仕事が、どこかで世の中の役に立っていると思いたいのです(ほとんど職業人がそうでしょうが・・・)。もちろん、この気持ちをどのくらい持つかは、個人差があります(志がない者は、どこの組織にもいるでしょう)。

大多数の監督官は、理想として自分たちの仕事に誇りを持ちつつ、現実として上に忖度しながら仕事を進めているのです。今回の局長の発言は、「現場の監督官はオレの一声でどうでもいうことを聞くんだぞ。」というように、現場の監督官は理解します。「マスコミの実情は過重労働だ。そこで働く労働者のために臨検監督が必要だ。」という建前なく、上が「何か会社のアラを探して是正勧告してこい」という主旨の発言をすれば、下は反発するのは当然でしょう。

今回の局長の発言については、私も少し考えることがあります。局長の会見時に、なぜ記者たちは、局長の味方をしなかったのでしょうか。マスコミ各社が、もし悪質な労働基準違反をしていて、そこの労働者である記者たちが日夜苦しんでいるとしたら、「君たちの会社に是正勧告する」という言葉は、拍手をもって迎えられてもいいはずです。それがなぜ非難される記事となってしまったのか? それは、この発言から「職業というものに対する敬意」というものを感じられなかったからだと思います。

もっとも、記者会見中ですから、記者側からも、発表する側へのリスペクトなく、局長が苛立っていたというようにも考えられます。マスコミの無礼さについては、私も経験あることです。しかし、仮に「挑発に乗ってしまった」としても、不適切発言だと思われても仕方がないことでしょう。 

「職業への敬意(リスペクト)」について、次回書きます。

(「教師の労働時間」の話が、どんどん遠くなります)

 

働き方改革について(5)

(小田原紹太寺のしだれ桜、by T.M)

「教師の労働」について、書こうと思ったら、別のニュースが飛び込んで来たんで、そちらを書きます。

野村不動産の裁量労働時間制の話です。昨年末に、同社がこの制度を悪用し、本来同制度を適用できない労働者を残業代なしで使用していた問題について、特別指導をしたという発表が東京労働局からなされました。

それについて、今年の3月に、違法な時間制度を適用された労働者が自殺し、過労死認定されたという新聞記事がでました。しかし、厚労省は過労死があったかどうかを、個人情報保護を理由に述べていないそうです。

この話の流れについて、次のような憶測がネット上に飛び回っています。

・・・ 厚生労働省は昨年末に、裁量労働制の違法に適用していた企業を発表したのは、「働き方改革法案」を国会通過させるためだ。きちんと違法な裁量労働制は取り締まっているということをアピールしたかったのだ。ところが、それで過労死が出たという事実は隠している。裁量労働制適用の労働者が過労死したという事実は政府にとって都合が悪いからだ。 ・・・

この「憶測」について、私は情報が少なくて、適切であるかどうかは判断できません。

しかし、「憶測の一部」に誤解があるなと思うところがあります。「過労死の事実を厚労省が隠している」という箇所です。そもそも、労働基準監督署は、昔から「労災認定の有無」を一切公表していないのです。これは、今度に限ってではなく、昔からです。

・・・ ある労働者が「長時間労働によるメンタル不調」を理由に労災申請をしたとします。監督署は会社を調査し、労災申請が認定か不認定かを決定しますが、「個人情報」を理由として、その処分結果を会社には伝えないのです ・・・

調査を受けた会社の中には、「調査に全面的に協力したのに、大事なことを教えないのか」怒るところも少なくはありません。

実は、この件については、監督署の中でも、労災担当職員と私のような監督官は対立するのです。私はいつも次のような主張を労災課職員に訴えました。

「労災の認定・不認定を会社に伝えないのはおかしい。労災認定をしたということは、その会社で労働災害が発生したということだ。労働災害が発生したことを、会社が確認できなければ、会社は再発防止対策ができないでないか。会社による『労災かくし』を厳しく糾弾する監督署が、労災発生を会社に通知しないことは、そもそも矛盾だ。」

今回の野村不動産の「過労死に関する新聞記事」について、厚労省はなぜ発表できないのか、もっと丁寧に説明すべきでしょう。

「個人情報」を盾に、「労働災害があったかどうかを発表できない」という論理を、(勉強不足のためと思いますが)元労働基準監督官である私でさえ理解できないのですから、外部の方はもっと理解できないと思います。