(旧岩崎邸、by T.M)
「はれのひ」の社長が記者会見をついにしました。破産手続きが開始されるそうです。
実は、労働基準監督署が取扱う事件の中で、「はれのひ」のように「賃金不払いが何ヶ月も続き、ある日突然社長が経営を放り出し逃走する」といった事案は珍しいことではありません。現場の監督官なら1回か2回は必ず経験しているはずです。
そのような場合はどうするのか。前回ご説明したとおり、そうなる前に強制捜査、(もしかしたら逮捕)そして検察庁へ事件送致というケースが、一番の正道です。ただ、その機会を逃すということも多々あります。賃金未払いはあっても、「遅払い」や「一部払い」があり、事業主が何とか経営を立て直そうとしていることが垣間見える時、監督官の決断は遅れるのです。そして、行方不明になってくれると、意外とほっとすることがあります。
これで、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて、未払賃金の立替払いの手続きに移行することができるからです。(この事務手続きを「賃確(チンカク)」、前述の法律を「賃確法」と呼びます)
賃確とは、事業場閉鎖(倒産)により未払賃金が発生じた場合、「労災保険の予算(労災保険料)」から支出し、立替払いを行う制度です。未払賃金を事業主に替わり支払う訳ですから、当然回収を後から行うのですが、倒産した企業から回収はほぼ不可能です。だから、回収率は数パーセントいうことを聞いたことがあります(この回収業務は厚労省系の独立行政法人が行っているので、私は詳しくは知りません)。
賃確の事務手続きは、事業主が夜逃げ等を行い法的措置を何もしていなければ監督署が行います。また、「はれのひ」や「てるみクラブ」のように、法的な倒産ですと裁判所が選任した破産管財人がそれを行います。
ですから、今回の「はれのき」の賃金不払事件は、裁判所が未払賃金の立替払い手続きをしてくれて労働者の救済がされる予定なので、監督署それを理由として事件を終了させることができます。
しかし、社会的にこれだけの話題となった事件を書類送検もせずに終えてしまって良いものなのか、現場の監督官は苦しい決断を迫られていることでしょう。