普通の日記(29年8月29日

(函南町のヤギ、by T.M)

徳島県で発生した、停車していたマイクロバスにトラックが追突し、乗車していた高校生を含む複数の死者を出した災害について、災害原因がトラック運転手の長時間労働による居眠り運転の可能性もあるとして、労働基準監督署が調査に乗り出すそうです。 

今回の事故原因がはたして長時間労働であるかどうかは、監督署の調査を待たないと分かりません。ただ、トラック運送会社に、長時間労働で問題のある会社が多いことも事実です。 

私が東北のI市に赴任していた時の話です。I市は遠洋漁業の基地として栄えていました。そこの地場のトラック会社の運転手の数名が覚せい剤使用で警察署に逮捕されました。サンマの水揚げの季節になると、築地の魚市場に、誰が早くサンマを届けるかで、水産会社を巻き込んだ競争が行われていたそうです。そこで、トラック運転手が酷使され、眠気ざましのために覚せい剤を使わざるえない状況であったと聞きました。

その会社のタコメータを確認して、私も驚いたのですが、休憩時間はなくタコメータ2枚(48時間分)にわたり継続して運転していました。運転時間の記録がタコメータの周辺を円を描くように記録するので、私たちはこれを「黒いヒマワリ」と呼んでいました。 

「ブラック企業」であるかどうかのポイントのひとつは、社会保険にきちんと加入しているかどうかです。非正規雇用を理由に、社会保険加入を拒む会社は、現在でも見受けられます。しかし、どう考えても、毎日労働している労働者について、堂々と社会保険未加入をしている会社はトラック会社が多かったと記憶しています。

                            (続く)

 

普通の日記(29年8月25日)

(乙女高原に咲く花part4、by T.M)

沖縄労働局が、残業代未払いの事業場の社長及び店長を逮捕したそうです。労働局が残業代不払で逮捕したのは、平成になってからは初めてだそうです。確かに、私も「逮捕」ということは、あまり聞いたことがありません。 

世間的には、「被疑者が悪質だから逮捕される」というように思われているようですが、それは誤解です。犯罪行為において、被疑者が悪質であるかどうかを決定する権限を持つのは裁判官のみです。そして、犯罪行為の刑罰とは「罰金」「拘留」「禁錮」「懲役」「死刑」だけです。 

「犯人が悪質だから逮捕」ということになると、逮捕を行う警察機関が「悪質であるかどうかを判断し」、そして処罰するということになります。裁判を行わずに行政機関がこのようなことを自由できる社会は、それこそ究極の強権国家ということになってしまいます。

労働基準監督署を含む警察機関の司法処分の役割とは、「証拠物、証言を収集し、犯罪事実を特定し、裁判所に起訴権限を持つ検察庁に書類送検すること」です。 

「逮捕」「強制捜査」とは、この一連の司法手続きの流れの中で、障害がある場合のみ、裁判所の許可を得て、警察機関が行うことができる行為です。つまり、被疑者が「逃亡の恐れがなく」「証拠隠滅の恐れがない」場合は逮捕等はできないのです。 

さて、今回の沖縄局の逮捕についてですが、労働局ではその詳細及び逮捕理由を公表していないようです。ただ、「2年間で残業代約500万円不払」「度重なる指導にも従わず」ということです。

ブラック企業だからと言って逮捕される訳ではありません。しかし、逮捕されるような企業は、「証拠隠滅等の恐れがあると判断された企業である」ということも、また事実です。

 

普通の日記(29年8月22日)

(乙女高原に咲く花part3,by T.M)

先日、新聞記事で、ある工事現場で熱中症対策のために、「ポカリスエット500ml」を50円で販売する自動販売機を設置したという記事を見ました。ポカリスエットの代金の差額は元請けが支払っているそうです。 

この自動販売機を見た現場作業員が、写真を撮りツイッターでそれを拡散させ、話題になったそうです。 

私はこれが、とてもいい話だと思いました。熱中症対策にはこれにまさる方法はないとも思いました。そして、有益な情報を得たと思い、知合いの某大手ゼネコンの現場代理人にしたところ、こんなふうに返されてしまいました。

「何年も前からウチの会社の現場では専用の冷蔵庫を設置して、タダで配っていますよ。それ普通じゃないですか」 

私はポカリスエットを無料で配布している現場が常態としてあることを、不明にも知りませんでした。少し恥ずかしくなりました。

それとともに、この話を最初にSNSにアップした現場作業員のことを想いました。きっと、彼はまだ若者(せいぜい30代でしょうか)で、経験も浅く、現場で珍しいものを見たと思い、スマホで撮影したのだと想像します。 

そして、彼はきっと、自動販売機が設置されていることがとても嬉しかったのだと思います。 

熱中症対策のために、日夜努力をされている工事関係者の方がたに敬意を表したいと思います。そして、その努力は作業員の方にも伝わっていることが今回の騒動で分かったような気がすることを、改めて申し上げます。

 

普通の日記(29年8月18日)

(乙女高原に咲く花part2,by T.M)

トヨタの新人事制度の概要が見えてきました。次のようなものです。 

第1 係長以上の者を対象とする

第2 残業代を45時間分を、残業をしてもしなくても、対象者全員に毎月支払う。

第3 出退勤時間は、対象者の裁量にまかせる

第4 労働時間の把握は会社が行う

第5 会社が把握した対象者の労働時間が「45時間」を超えていたら、差額の残業代を支給する 

web上で既に指摘されていますとおり、これは労働基準法の「裁量労働制」には該当しません。労働基準法上の裁量労働は、「専門型」と「企画型」の2種類があって、どちらにも該当しないからです。 

労働基準法では「始業時間」と「終業時間」を、予め労働契約で明確にしておく必要があります。もちろん、この両時間について変更することは可能ですが、「労働契約の変更の手続き」を行わなければなりません。具体的には、労働者と使用者が、その都度話合い合意に至るということです。そんな面倒なことをトヨタいちいちしないでしょう・・・ 

色々、考えていたら、つまりこの制度は次のようなものであると気づきました。

「固定残業手当を支払うフレックスタイム制度。ただし、ひと月の実労働時間数が所定労働時間以下でもかまわないし、総労働時間は36協定以内とする。」 

このような制度であるなら、確かに労働基準法上は可能です。私の想像どおりであるなら、うまい制度を考えたものだと思います。 

この固定残業時間制度において、トヨタが支払う固定残業代は平均17万円程度となるそうです。ひと月の所定労働時間数を170時間とするなら、基本給は約50万円程度となりますので、残業代込みで月給70万円弱くらい。年収は1000万円を超えるでしょう。 

この給与額は、さすがトヨタです。また同社のことですから、コンプライアンスには厳格だと思いますが、願わくば「トヨタがそうだから」といって、ブラック企業がこの制度を悪用しないように願います。

 

 

普通の日記(29年8月15日)

(乙女高原に咲く花part1、by T.M)

今年の1月に厚生労働省が示した「労 働 時 間 の 適 正 な 把 握 の た め に 使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、着替え時間が労働時間であることが明確にされています。この事例をもって、前回のブログ記事に記載した、「自動車メーカーのスズキが行っていた始業前のラジオ体操は労働時間である」と説明している新聞記事が多数見受けられます。

少し誤解があるようです。このガイドラインは「使用者の指揮命令下にある着替え時間は労働時間である」と述べているのであって、すべての着替え時間が労働時間であると規定している訳ではありません。

事例を述べるなら、「飲食店のように従業員に共通のユニフォームを指定する場合」や「労働安全衛生のため作業服を着用することが必要な場合」は着替え時間は労働時間となります。しかし、「作業をすると、服が汚れるから着替える」という場合は労働時間となるかどうかは微妙です。なぜなら、「労働者の安全を守るのは会社の責任であり、そのための着替えは労働時間としては認めるが、労働者にも決められた時間を使用者に提供する義務があり、(当社では)スーツ姿で仕事をやってもらっても構わないので、汚れるからといって着替えるのは、自己責任」という考えも、あながち間違いではないからです。 

だから、「始業前のラジオ体操」にしても、「健康管理は労働者の義務。だから、ラジオ体操の場を提供するのは会社の恩恵的措置」といった理屈も無しとは言えないのです。 

多くの会社でが、「ラジオ体操」にしても、「始業前の着替え」にしても、「労働者のための安全衛生上の措置」から、いつの間にか「会社の規律」という問題にすり替わってしまうことがよくあります。これが、日本の文化なのかもしれませんが、それが「ラジオ体操が労働時間であるかどうか」という議論を引き起こしてしまいます。 

本来の始業前の体操とは、会社が参加できる状況(例えば、飲み物1本無料提供とか)を作り出してやり、あくまで笑顔で自由参加の雰囲気である限り「労働時間であるかどうか」は問題になりません。

規律という別の要素が入ってくることが、事を複雑とするのです。