公務員と酒

(関ケ原古戦場徳川家康桃配山陣地・岐阜県関ヶ原町、by T.M)

コロナ禍で、忘年会もままならぬ季節となってきました。早く飲食業に携わる人々が安心して暮らせる時が来ることを祈ります。今日は「公務員と酒」の話です。

最近の若い人は、オジサン達の飲み会に付き合わないそうです。それを嘆く人もいますが、私は当然のような気がします。なぜって?それは私が、現役時代に飲み会が嫌で嫌でたまらなかったせいです。逆に、「飲み会」大好きな方にお伺いしたいのですが、なぜそんなに飲み会をしたいのですが。(ここで言う飲み会とは、職場で行う飲み会のことです。仲間どおしの飲み会のことではありません)

飲み会をすれば、コミュニケーションがよくなるなどと言う方がいますが、不思議に思います。私は、職場の飲み会に何十回もでたことがありますが、その後で不愉快な気持ちになったことが多数あります。

また、最近の若い者は、飲み会での飲み方を知らないなどどという方がいますが、「そういう考えを持っている馬鹿なオジサンとは、一緒に飲みたくない」というのが、飲み会を忌避する若者の本音ではないでしょうか。

私は公務員となる前の数年間、民間企業でシステムエンジニアをやっていました。その民間企業の時の飲み会と役所の飲み会は、まったく違いました。ともかく、役所の飲み会は回数が多く、長いのです。もちろん、世話になった上司を慰労し、しみじみとした楽しい宴会もありましたが、たいていは「ケチくさく」ものでした。

民間企業に居た時の飲み会は次のようなものでした。

「飲み会は、歓送迎会と忘年会・暑気払いの年4回。時間は約2時間。会が終われば、2次会に行きたい者だけいく」

公務員になった時の初めての飲み会は、新入・転入社員の歓迎会という名目で、座敷形式の飲み屋で行われました。しかし、新入・転入社員のことなど話題にも上らず、5時半に始まり延々と9時過ぎまでやっていました。別に話が盛り上がっているわけではありません。ただみんなダラダラと飲んでいるのです。

そんな飲み会があって、2週間後にまた飲み会がありました。今度はなんと署の会議室で、飲み会があったのです。新人は、午後3時過ぎから、近所のスーパーに、寿司や刺身を買いにいかされました。そして、勤務時間中に会議室で宴会の準備をします。5時になったら、役所の出入り口を閉めて宴会開始です。このような、昭和の宴会形態は民間企業から来た者にとっては、本当に理解しがたく、嫌悪すべきものでした。役所内部での飲み会は、私が覚えているかぎり、平成ヒト桁の時代まで続いていたような気がします。

現在では、役所内での非常識な飲み会はなくなりましたが、飲み会におけるパワハラ等はまだまだ健在です。私が退職する時にも、酒に酔うと、「よしこれから説教だ」と言って、部下を無理やり2次会に連れていって、クドクドと下らないことを言う者がいました。

まあ、そんなに嫌なら飲み会など出席しなければいいという意見の人もいるかもしれません。ところが、「飲み会が大事」と思っている者は、「飲み会欠席」を重犯罪と思ういしく、次の日から「仕事上」で散々な嫌がらせをされるのです。分かりやすく言うと、不貞腐れてしまい、挨拶ひとつままならぬ状況です。そういう連中がパワハラ等の現況であることは言うまでもありません。

このブログを読んでいる若い監督官の方、上司との飲み会は「うまくやって」下さい。(「うまくやる」という意味は、さっさと逃げ出す術を身に着けて下さいとの意です。)飲み会で「説教」するような上司に、「あんな者にはならないという教訓」以外は学ぶべきことはありませんから。

 

大阪と横浜の逆転

(関ケ原古戦場決戦地・岐阜県関ヶ原町、by T.M)

お久しぶりです。3週間ぶりのブログ更新です。本当にこの期間は忙しかったです。私の、仕事は主に講演(教育を含む)と安全診断で、仕事がある時は現場に直行直帰しますが、この3週間で、職場に顔を出したのは2日だけでした。つまり、それだけ仕事が立て込んでいた訳です。私が、もしフリーランスのコンサルタントなら、この忙しさは歓迎すべきものでしょうが、現実は私はサラリーマン。いくら忙しくても給料は余計にはでません。ボーナスも、組織全体の売り上げが落ちているので、昨年よりかなり減額されそうです(この時代に、もらえるだけ、マシかもしれませんが・・・)。来年は、組織が抱えるコンサルタントの数も減るようなので、ますます私の仕事が増えそうです。このブログもいつまで続けられるか不安です。

閑話休題(それはさておき)、最低賃金の話を書きます。毎年10月に改正されるが恒例となっている最低賃金が、今年はどのくらいになったのだろうと思って、一覧表を見ていたら、改正されていない都道府県が複数あって驚きました。東京都も大阪府も昨年から変わっていません。調べてみると、7月に「新型コロナウイルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ、引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」との答申が中央最低賃金審議会から厚生労働大臣になされていました。

阪神淡路大震災も時も、リーマンショックの時も、東日本大震災の時も、最低賃金が上がらなかったことは、今までなかったことです。こんなコロナ禍にあって、最低賃金を上げることなどとんでもないと思っている方もいらっしゃると思います。しかし、仕方がない事とはいえ、労働者の生活を守る最低賃金の据え置きは、労働行政に身を置いてきた者にとっては残念な気がします。

最低賃金の一覧表を見てて気づいたことがあります。それは「大阪と神奈川の逆転」です。私が労働基準監督官となった1984年の最低賃金なんですが、

    東京都  時給463円

    大阪府  時給450円

    神奈川県 時給445円

でしたが、現在は

    東京都  1013円

    大阪府   964円

    神奈川県 1012円

であり、大阪府が神奈川県に抜かれています。因みに、最低賃金額が高い方からのベスト3はこの3県で、40年以上変わりません。大阪と神奈川がいつ逆転したのかを調べてみたのですが、1999年からのようで、1994年から1998年まではまったく同額で1993年までは大阪の方が上です。

どうも大阪の最盛期はこの1993年のようで、この年の大阪と東京の最賃額は620円で同額ですが、現在は大阪の最賃額の対東京比は95%まで下がっています。阪神淡路大震災は1995年のことですが、やはりそのダメージは大きかったのかなと思います。

もうひとつ、最低賃金額で比較したいのは、初任給との差です。厚生労働省が発表している賃金構造統計調査によると、大卒の初任給は、

   1984年 132000円

   2019年 206700円

です。つまり、この35年間に前述の最低賃金は約130%増加したのに対し、初任給は約60%の増加しかしていないのです。これは、「最低賃金額が上昇し、格差がなくなってきた」と考えるのか、「初任給が相対的に安くなっている」と考えるのかは微妙ですが、社会の平均的給与額が最賃額と近づいているのは確かなようです。

 

ワタミ、また?(2)

(筑波山・茨城県つくば市、by T.M)

仕事が急増してきました。コロナの影響で大口の顧問先の契約が、急に年内までとなり、引継ぎ等で追われています。また、先月初めの台風のため、土曜日に行うはずの講演会が流れたのですが、その代替が14日(土)となりました。さらに、某監督署からの、慣れぬテーマでの講演1件の追加です。カミさんの出身地の宮城県石巻市に「メッタニゴッタ」(カオスになること)という方言がありますが、その状況になってきました。そんな訳で、次回(8日)、次々回(15日)の更新はしません。せっかく来て頂いた方、申し訳ございません。(もしかしたら、いつものT.M氏の代筆が入るかもしれません)

前回の「ワタミ」の話の続きです。その前に思い出話をひとつします。

今から、××年前のある一部上場の大手スーパーマーケットの一店舗の話です。その店舗について、タイムカードから計算できる労働時間と賃金台帳に記載してある労働時間に相違があるという匿名申告が労働基準監督署にありました。その事業場では、以前にも労働基準法第37条(残業代不払い)の是正勧告書を受けていました。つまり、申告が事実なら繰り返しの法違反となります。

(注)「タイムカード」を時間管理に使っていた時代の話です。

私はその事業場に臨検監督に行きましたが、「複数の店員が、自らの意思で残業時間の申告をしていない」事実(と店長は説明した)を確認しました。そこで、店長からタイムカードを提出してもらい、「上申書」に署名押印してもらいました。

(注2)「上申書」とは、労働基準監督署長宛ての文書のこと。署名押印させることにより、現場で有無を言わさずに、責任者に法違反を認めさせる効力を持つ。大抵の場合は、責任者は、法違反を現認しているため狼狽えていて、この文書に署名押印(あるいは署名指印)してしまう。監督官は事前送検(死亡送検でない安全衛生法違反の送検)を実施する場合等に、このような捜査テクニックをつかう。この文書を得れば、後はどういう料理でもできる。

私が現場から引き上げた後で、そのスーパーマーケットの本社の総務部長から連絡がありました。「なんとか穏便にすませてくれ」とのことでした。そこで、私は答えました。

「書類送検は勘弁しますから、社長が是正勧告書を取りに来て下さい」

社長が来るなら、会社に猛省を促すことができるので、まあいいかと思いました。(もっとも、書類送検ということになれば、社長も被疑者として取調べますので、同じことなのですが)

社長が監督署に来た時に、改めて是正勧告書を渡した上で尋ねました。

私 「社長さん、労働時間の記録の改ざんがなぜ悪いと思われますか」

社長「それは法律違反だからです」

私 「それでは、もうひとつ尋ねますが、人を殺すことは、なぜ悪いんですか?」

社長「え?」

 「人を殺すことは、法律違反だから悪いことですか?」

社長「・・・」

私 「人を殺すことは、法律違反だから悪いことではなく、常識として悪いことではないですか。私は、労働時間の改ざんについても、法律違反だから悪いことではなく、常識として悪いことだと社長さんに思って欲しいと思います。そう思って頂かなければ、また同じような事件が、他の店舗で起こるのではないですか。また、労働時間の記録の改ざんがされるということは、企業にとって、長時間労働に対する再発防止策ができないということです。御社においても、正確な労働時間のデータがなければ、正確な人件費の見積もりができないのではないですか?」

残業代未払の是正勧告書が高崎労働基準監督署から「ワタミ」に交付されたという新聞記事を読んで、かつて私が担当した事件を思い出しました。この「ワタミ」の件については、事実かどうかは分かりませんが、「上司による労働時間の記録の改ざん」が行われていたと主張する記事もネット上にあります。

労働基準監督官として企業に全体に許してはならないことは、「労災隠し」と「労働時間記録の改ざん」です。理由は前述のとおり、この2つの場合は再発防止対策がとれないので、会社がだらだらと法違反を繰り返してしまう可能性があります。

もし、ネット上の噂が本当であるなら、「ワタミ」の体質は本当に恥ずべきものであると思いますが、事実はどうなのでしょうか。