USスチール(2)

(メーアスブルクの街並み、by T.M)

1/14 テレ朝

石破茂総理大臣は13日、アメリカのバイデン大統領とフィリピンのマルコス大統領とオンラインで首脳会談を行いました。

 会談で石破総理は、USスチールの買収阻止命令を出したバイデン大統領に対し、懸念を払拭するよう直接求めました。石破総理「アメリカの経済界からも強い懸念の声が上がっている。そういう懸念が両国に広がっておるわけでありまして、この払拭を強く求めることは私のほうから発言をいたしたところであります」

 この問題を巡って、アメリカのCNBCテレビは13日、アメリカの鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスが鉄鋼最大手のニューコアと提携し、3位のUSスチールを買収する可能性があると報じました。

 クリフスは当初、USスチール買収に意欲を見せていましたが、日本製鉄に競り負けていました。

日立製作所グループでは、とても素晴らしい取組みをしています。

S(Safety:安全)>>Q(Quality:品質)>D(Delivery:納期)>C(Cost:コスト)

がそれです。Sの後の「>>」がとても象徴的です。そして、「コスト」よりも「納期(=信頼)」、そして、それ以上に「品質」とすることが、この企業グループの心意気を示しています。

このような取組をはじめたのが、実はUSスチールなのです。(以前にもこのブログに書いてあります)。1906年にUSスチール社のゲーリー社長が、労災事故にあった職員に対し、「同じ神の子である人たちが、こんな悲惨な災害を被り不幸な目にあっているのは   見るに忍びない」と述べ、 

 safety first
と方針を各工場に徹底させました。この言葉には続きがあり

quality second , production third

  (安全第一、品質第二、生産第三)
となります。

(この逸話は、例えば中央労働災害防止協会の「安全管理者テキスト」の最初に掲載される等、日本の安全担当者の間に広く知られています。)

USスチールはかつて世界最大の鉄鋼会社であったのに、現在は経営困難になったと伝えられています。世界の製造業のお手本であったUSスチールをアメリカ国民が誇りと思い、他国の企業による買収を残念に思うことは当然のことですし、しかし、そんなアメリカ国民に知ってもらいたいことがあります。USスチールが作り上げた「安全文化」は、冒頭の日立製作所の取組みのように、ここ極東の地日本で、現在も生きていることを。

我々、日本の安全担当者はUSスチールの偉大さを忘れません。

日本製鉄による買収がうまく行っていないようですが、日本製鉄の安全担当者は、WBCで「憧れていたアメリカ野球」に臨んだサムライジャパンの選手のように、USスチールを尊敬していると思います。

退職代行

(カピバラ・山梨市の万力公園、by T.M)

英社オンライン 1/7

多くの企業で仕事始めとなった1月6日、退職代行サービス『モームリ』では過去最高の依頼が寄せられた。今回の年末年始の休みは12月28日から1月5日で、“奇跡の9連休”とも言われていただけに、仕事にいくのが億劫になってしまった人が例年以上に多くいたようだ。

このブログで以前から私は、「退職代行サービス業」というものを非難してきました。理屈は色々あるけど、ようするに「利用する人」も、「運営する人」も嫌いなんです。これは、私の好悪の感情に関係することなので、他人の意見は受付ません。

「単なる他人の手続き」に手を突っ込んで儲けようとするヤツと、退職手続きさせまともにできないような者を相手にする必要がないと思っていました。私が監督官現役時代にも、「こわくて退職手続くができない」という相談には、「誰かと一緒でかまわないから、退職の意志表示はご自分でして下さい」と言ってきました。なぜなら、退職手続きを明確にしてくれないと、後から問題が起きた時(賃金不払いとか、退職金不払いとか)に、会社側から上げ足を取られたら、対応が取れなくなってしまうのです。例えば、「無断欠勤のまま退職してしまった場合」等については、ほぼ100%賃金の回収は不可能です。

ですから、退職代行サービスの記事を読む場合は、退職トラブルが起きたらどうしているのか、少し心配になります。例えば、退職金の支払いについて、会社側が次のように主張したらどうするのでしょう。「退職金は直接本人に手渡しをするので、会社までとりにきて下さい。定期賃金については銀行振込の約束はしていません。だから、労働基準法の原則に基づき、直接、本人に、通貨で支払います」

そんな訳で、退職代行サービスにいい感情を抱いていなかったのですが、先日ある退職代行サービスの作ったユーチューブ動画を観て気が変わりました。その動画の中では、DQNの依頼者に振り回される退職代行サービスの様子が描かれていました。その動画を見て、「宣伝では、ブッラク企業から労働者を守るなんてカッコつけているけど、実際はおかしな労働者に困っているんだ」と安心したのです。

私が監督官になった時に、先輩からこう言われたことを思い出します。「災害調査等と比較して、労働者からの申告処理というのはたいへんだろ。それには、理由があって、申告処理というのは、①企業が悪質、②労働者が悪質、③企業と労働者が両方とも悪質、のどれかしかない。要するに、企業も会社も良かったら申告事案なんておきないんだ。要するに、監督官は申告処理の最中には、必ずおかしなヤツと出会うということだ。」

これ、退職代行サービスにも言えるのではないでしょうか。「退職代行サービスが利用されるケースは、①企業がブラック、②労働者がDQN、③両方ともバツ」 まあ、退職代行もけっこう大変な商売なんだなと思いました。

昼当番

(松輪漁港・三浦市、by T.M)

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

12/25 中国新聞デジタル

広島県呉市消防局は24日、勤務実態のない職員11人に不適切な給与計242万円が支払われたとして、上司の承認を得ずに部下の夜勤を肩代わりした課長職男性(57)たち3人を減給などの懲戒処分とした。

消防総務課によると、課長職男性は昨年5月から今年1月までの間、勤務交代を決める権限がないのに数十回、部下の夜勤を引き受け、部下が勤務したように報告した。不適切な発言などもあり減給10分の1(6カ月)とした。男性は「部下を休ませたかった」などと話しているという。

同様に夜勤を肩代わりした課長補佐職男性(50)と一般職男性(63)も減給10分の1(1カ月)と戒告とした。管理する立場の副部長職男性(60)は訓告とした。勤務していないのに払われた給与は全額返還させる。

これ裏がない話だとしたら、ある意味美談のような気がしますが・・・

「部下を休ませたくて、自分が夜勤を変わった」なんていい話じゃないですか。夜勤をしてなくて手当をもらっていた部下については問題ですが、予算上こうするしかなかったのかもしれませんね。ところで「不適切な発言」っていったい何でしょうか。この「夜勤体制」について、よほど頭にきたことがあったんじゃないかと想像してしまいます。

役所の悪い習慣に「問題を隠してしまう」ところがあります。私の体験から事例を挙げるなら、労働局、労働基準監督署では、それは「昼休みの電話当番」でした。昼休みにかかってくる電話に対し、誰がそれを取るかということ何ですが、簡単に考えれば輪番制にして、当番の人の昼休み時間をずらせば良いだけなのです。しかし、人事院規則ではそれは認められていないのです。私が署で責任者だった時は、そんな規則無視して輪番制にしていましたが、問題になれば、昼休みに部下に仕事をさせたことで署長等が処罰され、昼休み時間以外の時間に休憩を取っていた部下が処罰される事案です。管理職が対応できれば良いのでしょうが、小さい署では管理職は署長を除けば課長2名しかなく、その2名は外へ行く仕事も多々あります。気が利いた署長は、電話口では署長の身分を隠し、昼当番として電話対応していますが、無能で尊大な奴は絶対にしません(そちらの方が多いです)。

そんな訳で署の仕事というのは、職員の互いの協力でけっこううまく回るのですが、問題なのは労働局の方です。建前が先行し「輪番制」は絶対にだめとのこと。そして、局長や部長クラスは絶対に電話当番はしない(「できない」が正しい)。結局はヒラ職員が昼休みをつぶして、かかってきた電話対応している現状がありました(今でもそうかもしれませんが!)。一度、輪番制を実行した課が総務課から指摘され、中断したことがありました。考えてみたら総務課というのは、外部から電話がくるなんてことは、ほとんどないので建前だけ言えるんですよね。

化学物質

(フラミンゴ・川崎市夢見ヶ崎動物公園、by T.M)

厚生労働省の主唱で化学物質管理強調月間が来年2月から始まります。化学物質を取り扱ったことのない人はピンとこないかも知れませんが、化学物質の規制の仕方が現在大きく変わってきてて、今は過渡期です。

従来は、ある物質について、法律で「有機溶剤」とか「特定化学物質」とかの指定をして、「有機溶剤だから、これこれの規制をする」「特定化学物質はこうでなきゃだめだ」という規制をしてきたのです。でも、このような規制方法がまったく役にたたないと思える「ある事件」が起きたのです。これからその事件と、その後の疑問が残る大阪労働局の対応についてお話します。

メタン、エタン、プロパンは炭素と水素からなる炭化水素系の構造のよく似た物質です。常温では、3者とも気体ですが、水素原子2個を塩素原子2個に置換することで、それぞれ常温で液体のジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロプロパンとなります。10年ほど以前まではジクロロメタン、ジクロロエタンは「有機溶剤」として労働安全衛生法の規制の対象でしたが、ジクロロプロパンは法の規制の対象外でした。そして、3物質とも、それぞれを原料とした塗料が製造されていました。

(注)3物質とも現在は「特別有機溶剤」に指定されている。

ある大阪の印刷会社に塗料メーカーの営業マンがやってきて、その会社の社長にこう述べたそうです。

「ジクロロプロパンを原料としたインクは、ジクロロメタン、ジクロロエタンを原料としたインクと違い法の規制がないので、局所排気装置を備えたり、健康診断を実施したり、作業主任者を選任する必要がありません。」

社長は営業マンの言うとおりに、何の衛生管理もしないでこの塗料を使い続けたところ、ジクロロプロパン使用を原因とする胆管がんが従業員17名に発症し、そのうち8名が死亡するという事件が起きてしまいました。

有害指定をしていなかった化学物質により引き起こされたこの事件は、「胆管がんショック」として関係者に記憶されることになります。

この事件で疑問なのは、大阪労働局がこの印刷会社を検察庁に書類送検したことです。その罪名は「衛生管理者未選任」「安全衛生委員会未実施」というもので、「有害物質をばく露対策をせずに使用させた」と行為については、遂に罪に問えませんでした。

しかし、この事件は「ジクロロプロパン」を有害物の指定をしなかった行政の責任って重いのではないでしょうか。有害物の指定さえしていたら犠牲者はでなかったような気がします。逆に、大阪労働局が送検した内容の法違反がなく、会社が「衛生管理者を選任して」いたとしても、ジクロロプロパンを使い続けていれば悲劇は起きたと思います。

(もちろん会社が衛生管理を蔑ろにしていたことは多いに反省して欲しいと思いますが)。

さて、この「胆管がんショック」を契機として、行政は今までのように、化学物質を「有機溶剤」や「特定化学物質」に分類して管理することをやめ、リスクアセスメントの方法を示し、各事業場で化学物質の有害性を評価してもらうことを法制化しました。確かに、この方法なら「胆管がん事件」は防止できます。この手法の詳細は後日書きます。

年末に、なんか行政への愚痴になっちゃたけど、現場で働く監督官・専門官の方を応援しています。

では、よい年をお迎え下さい。