3連休で遊びすぎました。おいで下さった方には申し訳ございませんでした。せめて、T.M氏の写真だけでもお楽しみ下さい。
(旧草軽電鉄の北軽井沢駅、by T.M)
おばら労働安全衛生コンサルタントのブログ・元労働基準監督官の独り言
元労働基準監督官の独り言
(八ッ場ダム建設工事、by T.M)
私の監督官時代の経験から、外国人労働者を使用する場合のトラブル防止のために、どのような点に注意しなければならないのかを書きます。
まず強調しておきたいのは、外国人労働者と日本人の労働者について、人間性はまったく変わらないということです。日本人がそうであるように、いい人もいれば悪い人もいます。嘘つきもいれば、正直な人もいます。働き者の努力家もいれば、いい加減な者もいます。
ただ、日本人労働者と違うことは、とても不安な思いが大きく、警戒心が強いということです。それは、文化・風習が違い、育った環境に大きな隔たりのある異国で働く訳ですから、あたり前のことです。ましてや、日常的に周囲に同国人がいなければ不安は倍増します。
私が監督官時代に、外国人労働者からある飲食店の賃金未払申告事件の解決を依頼されました。その人は支援を自称する方と一緒に監督署に来ました。
外国人労働者の支援団体が監督署に来るケースはよくあります。多くは、支援団体は労働組合関係の方です。こういった、労働組合の方は、監督署にとって「手強い」相手です。また、労働者の前では、弱気な姿勢を見せられないので、高圧的な態度でくる方もいます。ただ、けっこう紛争慣れしていますし、役所が「できること」と「できないこと」は理解しているので、監督署側としては、話が早くて助かるケースもあります。
この飲食店の申告の支援者はまったくの素人でした。外国人労働者に思い入れが強く、そもそもトラブル自体の内容を理解していない人でした。申告自体の内容は、単純なものでした。労働者が本国へ往復する費用を、事業場が出すのか、労働者が負担するのか、最初に決めておかなかったので発生した金銭トラブルでした。最終的には、事業主が「争いは嫌だから、労働者が請求する金額を全て支払います」と述べ、費用が支払われ解決した事案でした。
ところが、この支援者は、警察や会社の取引先へ連絡をし、「強制労働された。監禁された」と言い回ったのです。監督署の方面主任をしていた私のところにも、その関係の警察の方が来て、「外国人労働者が監禁されていた事実があるのか」と質問されました(偉そうに、警察手帳を見せながら)。
私は、こう答えました。「労働者が、事業主の用意したマンションに居住していたことは事実ですが、そのマンションのキイは労働者が常時携帯していたんですよ。これを監禁と言うのですか。パスポートも自分で所持していたのですよ。」警察はそれを聞いて黙って帰っていきました。(それくらい、自分たちで調べろよと、私は思いました)
そんな訳で、事件が起きた原因がどこにあったかは別の話として、事業主は想定外のトラブルに巻き込まれてしまった訳です。その「支援者」という方(日本人の旦那さんを持つ、外国人労働者の同国人の女性)が最初から「善意」で行動していたということが、話を大きくしてしまったのですが、冒頭に私が述べました「異国で働く不安感」が根底にあるのなら、仕方がないことだと思います。
外国人労働者を雇用する事業主の皆さん、あなた方も外国人を雇用することは不安なのかもしれませんが、雇用される労働者の方はもっと不安なのです。そのことを理解して頂ければ、無用な誤解は避けれるような気がします。
(寒川神社、by T.M)
こんな新聞記事が目につきました。
技能実習生の中国人女性が、茨城県の農家に対し適切な賃金が支払われていないなどと訴えた裁判で、水戸地裁は農家に対し、200万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
弁護士によりますと、技能実習生の中国人の女性(32)は、5年前に茨城県内にある「大葉」の栽培農家に、「技能実習生」として受け入れられました。しかし、日中の作業のあとには、遅くて深夜0時まで残業をさせられていたほか、時給300円程度しか賃金が支払われていませんでした。
9日の判決で水戸地裁は、「残業も契約に基づいた労働で、農家側は適切な賃金の支払いをしていない」などと認定し、およそ200万円の支払いを命じました。
「今、新しい外国人労働者の受け入れ制度が、国会でこれから議論されますが、技能実習生と同じように権利が侵害されて、時給300円、400円で働かされるようなことが、また繰り返される危険がないとはいえない」(弁護士)
弁護団は「今回の事案は『氷山の一角』で、技能実習生がひどい実態を抗議できない状況に置かれている」と話しています。(以上、「新聞記事」から引用)
私は、労働基準監督官を30年以上やってましたが、実は「技能実習生」のことについては不勉強です。外国人労働者のトラブルや、外国人労働者を支援する労働組合との交渉等につきましては、それなりに経験してきましたが、「技能実習生生」のトラブルについては経験していません。これは、私がこのような事件から逃げていた訳でなく、巡り合わせというものです。同時期に神奈川労働局で監督官をしていて、現在福岡で社労士事務所を開設する原氏などは、技能実習生受入れ団体(監理団体)の顧問をいくつもしているくらいその方面には詳しいようですが、私はまったくダメです。ですから、この事件について、「技能実習生制度」を考察する見地からは何も言えないのですが、ひとつ言えることは、この事件は労働基準監督署ではまったく受入れられないということです。
労働基準監督署にとって、農業はアンタッチャブルなのです。理由は、労働基準法第41条に、「農業に従事する者については、労働時間・休日・休憩の条文は適用しない」と規定されているからです。つまり、農家が事業主になる時、一週40時間労働制は適用されませんから、「1日12時間労働・休日なし」という労働条件が可能になります。農家は、残業について割増賃金を一切支払わなくて良いので、働いた労働時間に対し最低低賃金を支払えばいいことになります。
また、外国人労働者というので、住居・食事は事業主である農家が提供していた可能性があります。事前に契約書で決めておいけば、それらの代金を賃金から控除することは可能です。ですから、農家の場合、技能実習制度を悪用しようと思えば、他の業種と比較し容易のような気がします。
ですから、未払賃金が発生した時に、「疑わしきは処罰せず」という刑法の原則に基づいて未払賃金額を特定する労働基準監督官にとって、農業従事者の三原賃金額を特定することは困難となるのです。
今回の民事事件の判決について、どのように支払額を算定したのか、詳しく調べたいと思います。
(沼津港展望水門びゅうお、by T.M)
まずは、神奈川中央交通バスのホームページからの抜粋をご紹介します。
2018年10月28日(日)21時17分頃、横浜市西区桜木町4丁目の国道16号で弊社バスによる人身事故が発生いたしました件につきまして、当該乗務員が10月30日(火)、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」違反の疑いで神奈川県警察に逮捕されました。この事故によりお亡くなりになられた方のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様に心よりお詫び申し上げます。・・・(略)・・・当該バス乗務員は、弊社にて3年に1回全乗務員に対して実施を進めている睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査において、2017年6月8日に実施した精密検査にてSASであると診断され、以降治療を開始し、現在も通院治療を行っていることが確認されました。また、直近3回の定期健康診断(年2回実施)の結果から高血圧症についても継続して通院治療中である旨、確認されました。上記の点については、医師の所見により就業可能であることを確認しつつ、就業させてまいりました。
亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。
労働基準監督官時代に企業の方から、次のような種類の相談をよく受けました。
「メンタルで休んでいた職員が今度復帰してくるんだが、フォークリフトの運転のような現場仕事をさせてもいいだろうか。」
この質問への答えはたいへん難しいものでした。まず、質問している会社の意図を推察しなければなりません。
例えば、このケースについて言えば、「職員は1日でも早く復帰したがっているが、事故を起こされても困るので、会社が復帰を渋っている」こともありますし、逆に「会社は早く出社してもらいたいのに、職員が出社を嫌がっている」というケースもあります。
私は、このような質問については、次のように回答していました。「この問題への回答は、医学的な見地から為されなければならない。産業医に意見を聴き、それに従って欲しい」
つまり、このような繊細な問題について、労基は産業医に判断を委ねてしまうのです。
さて、今回の事故についてですが、会社とバス運転者は以前からバス運転手の病気を認識し、その就業について産業医から意見を聴取し、バスの運転を続けさせていた模様です。労働安全衛生法上の手続きについては、完了しています。
以前に「癲癇」の病歴を隠し、重機を運転した運転手が、重機運転時に事故を起こした事件がありましたが、それとは根本的に事故の体様が違います。
何かネット上では、この事件について会社やバス運転手に重大な過失があったように書かれている記事もあるようですが、上記の会社のHPに記載されていることが、事実のすべてであるとするなら、私はそうは思いません。亡くなられた被災者の遺族の方々に、会社とバス運転手の謝罪の意が、受け入れられることを願う気持ちもあります。
もっとも、今度の事件について、私が現役の監督官なら、やはり労働時間について調査をし、違反があれば送検するケースです。路線バスは観光バスと違い極端な過重労働は通常ありません。しかし、道路渋滞の影響で「休憩時間」が十分に与えられないことが発生することも事実です。SASの診断を得た運転手について、その辺の配慮を会社がしていたかどうかが、今後の捜査のポイントになるような気もします。