教師の労働時間

(ウェス・アンダーソンすぎる風景展写真・渋谷ヒカリエ、by T.M)

5/13 読売新聞

公立学校教員の処遇改善を検討してきた文部科学省の中央教育審議会特別部会は13日、残業代の代わりに一律支給されている「教職調整額」について、基本給の4%から10%以上に引き上げることを提言した。今後、中教審答申や教員給与特別措置法(給特法)の改正を経て実現すれば、半世紀ぶりの引き上げとなる。

 貞広斎子・特別部会長(千葉大教授)から提言を受け取った盛山文科相は「教師を取り巻く環境の改善は最重要課題の一つ。文科省を挙げて必要な施策の実現に向けて全力で取り組みたい」と述べた。

 特別部会は昨年6月から、教員の処遇改善などについて議論を重ね、先月19日には提言の素案をまとめていた。議論の中では、時間外勤務手当(残業代)を支給すべきだとの意見もあったが、1971年制定の給特法で定められた教職調整額を10%以上に引き上げることで決着した。

 提言には、教員の業務の複雑・多様化や、なり手不足が深刻な状況を背景に、若手教員への支援体制を充実させることも盛り込まれた。

 校長ら管理職を補佐する主幹教諭の下に中堅向けの新たなポストを新設し、若手教員をサポートさせるほか、若手の精神疾患などによる休職率も高いことから、新卒1年目は学級担任を持たせないことを推奨した。小学校の「教科担任制」を現行の5、6年から3、4年に広げ、学級担任の持ちコマ数を減らすことも求めた。

 これらの取り組みを進めることで、残業時間を将来的には月20時間程度に減らすことを目標に掲げた。働き方改革を確実に進めるため、各教育委員会には取り組み状況の公表を求め、多忙な学校現場のイメージを払拭(ふっしょく)するには「働き方やワーク・ライフ・バランスが尊重される環境を整える必要がある」と強調した。

この提言については、色々な反対意見があると思います。典型的なのは次の2つでしょう。

1 教師の残業時間をまともに計算すると、10%の調整額では少ない。

2 これじゃ教職員の長時間労働はなくならない

私の意見としては、「仕方がないから、これでいいかな」というところでしょか。

教師の長時間労働はなくなりません。だって、国民がそれを望んでいるからです。また、教師自身も、あきらめているところもあるからです。

このブログで何度も書きました。

「修学旅行中に深夜に飲酒する教師は悪なのか」

「生徒の相談に乗らず、『デート』を優先させる教師は悪なのか。そのために生徒が自殺したら、世間から責められなければならないのか」

私は古くて頭の固い高齢者です。だから、「24時間生徒のことを考えている教師」を尊敬します。でも、「教師も一人の労働者として扱うべきだ」という主張も理解します。

また、「すべてはシステムが悪い」としてしまえば簡単です。前述の修学旅行等の件にしても、システムを変更すれば以下の解決方法があります。

「引率する教師の数を倍にして、交替に休憩を取ればよい」

「生徒の相談について、24時間対応できる体制を整えればよい」

まあ、要するに予算をかければ対応できるということです。でも、果たしてそれは現実的なことでしょうか。

だから、私は今回の提言に消極的に賛成します。決して、「ベストではないけど、ワーストではなく、ベターな提案」だからです。ただ、一点文句をつけるなら、次のことです。

「10%ではなく、20%にしろ」

申し訳ございませんが、来週はブログ休みます。衛生管理者の受験準備講習会の講師で水曜日から金曜日にかけて、合計10時間前後の講義をします。とても神経を遣うので週末はぐってりとしてしまい、ブログを更新できそうもありません。

次回は6月です。

准教授?

(峠の釜めし「おぎのや」、by T.M)

5/9 毎日新聞 「追い出し行為だ」 北海道大准教授ら、待遇改善を求め陳情書

北海道大理学研究院(札幌市北区)の化学部門で、複数の准教授が「教授会が不当に業務をさせず、教育・研究活動を阻害している」などと訴え、改善を求める陳情書を同院に提出していたことが、北大関係者への取材で判明した。准教授らは「教授会によって組織的に孤立させられ、退職を事実上迫られている」と主張している。

 関係者によると、准教授らは所属する研究室の教授が退職した後、研究室業務から切り離され、研究指導する学生も配属されていない。それぞれが1人で研究に従事しており、准教授らは「追い出し行為に当たる」と批判している。

 毎日新聞が入手した北大化学部門の内部文書などによると、同部門では教授が定年退職や異動などで不在になった場合、残った准教授や助教ら教員を「旧スタッフ」「旧研究室スタッフ」と呼んで区別。教授会に当たる講座委員会は2020年度に「内部基準」を設け、新任教授は研究室で旧スタッフを引き受けない▽合意を得た上で教授退職後1年間をめどに居室を移動する▽新たな学生は配属しない▽既存研究室に所属するが研究室業務は原則担当させない――などと取り決めた。

 4月現在、無期雇用の准教授と助教計4人が旧スタッフの扱いを受けている。4人は、理学部の学生向けに研究室を紹介する化学部門のパンフレットに名前が記載されていない。学生の研究指導に3年以上関わっていない教員もいる。ある准教授は取材に「教授の交代で追い出し部屋に入れられるのは予想外だった」と話した。

 複数の准教授は1月、大学のハラスメント相談室を通じて、理学研究院に改善を求める陳情書を連名で提出。講座委員会は25年度以降、旧スタッフに学生を指導させる方針を示すなど制度の見直しを始めた。

 化学部門長の松井雅樹教授は内部基準の存在を認めた上で「同じ分野でも新任教授と研究方針の相違などで研究室の運営が難しくなるケースも出てくる。旧スタッフのキャリアアップを支援するもので、転出を強要することは全くない」と説明した。

 アカデミックハラスメント問題に詳しい広島大ハラスメント相談室の北仲千里准教授は「組織で特定の人を冷遇しようとしている。不当な取り扱いだ」と指摘している

私が不明なのかもしれませんが、当事者は気の毒と思いますが、現在の情報だけでは、労働問題にはなりえないと思います。 もっと分かりやすく説明して欲しいと思います

別の毎日新聞の記事によると、この人たちは「期間の定めのない雇用」だそうです。そして、研究室を追い出されて「4平方メートル」の部屋(仕切った空間?)を与えられているということです。その部屋の写真が掲載されていましたが、独立した部屋のようでした。

状況を整理すると、次のような事実関係であると思われるのですが・・・(事実関係の把握が間違っていたらごめんなさい)

1 給与等は定年まで保障されている

2 過重労働等はなく、自由な研究ができる

3 研究を手伝ってくれる学生は配置されていない

4 パンフレットに自分の研究が掲載されない

要するに、「以前は花形職場だったのに、不遇となり、組織内で丁重に扱われなくなった」ということでしょうか

記事のタイトルには「追い出し行為」とありましたが、私が知っている追い出し部屋というのは、「労働者を孤立させる」「労働者に何もさせない」「労働者に無意味な仕事を長時間させる」「一日中デスクに座っていることを強要し、それを他の労働者への見せしめとする」等の陰湿なものです。

記事にある「准教授」になれない、「期間の定めのある労働契約」で、低賃金のポスドクの方がたくさんいます。それと比較して、「身分が定年退職まで保障され、厚生年金等に加入されている准教授」なら、労働基準法上は何も問題がないように思えます。

(この記事内で、私の「事実関係の把握」が間違っていたら、すぐに記事を訂正します)

ただ単に、現在の状況からいい仕事(いい研究)をして、見返してよればいいだけではないでしょうか。それとも、仕事上で他の嫌がらせがあるのでしょうか

USスチール社

(松永安左エ門の旧邸「老欅荘」・小田原市、by T.M)

NHK サタデーウォッチ 4/13

幅広く関係強化を確認した日米首脳会談。

この中で日本企業による、ある買収案件が話題に上るのか、注目されていました。

粗鋼の生産量で世界4位の「日本製鉄」が、アメリカで100年以上の歴史を持つ「USスチール」をおよそ2兆円で買収するという計画です。

しかし、そこにアメリカ大統領選挙の影響が…

USスチールという企業には、労働安全の分野で神格化されている逸話があります。

今から約100年前の1900年代はじめ、当時世界最大の製鋼会社のUSスチール社の社長であるエルバート・ヘンリー・ゲーリー社長は、労働災害がたびたび発生する同社工場について、次のように考えたという。

「同じ神の子である人たちが、こんな悲惨な災害を被り不幸な目にあっているのは、見るに忍びない」

そして工場内の改善をすすめるとともに、こんな言葉を述べました。

Safty First,Quality Second,Productivity Third

(安全第一、品質第二、生産第三)

これが労働安全史において、「安全第一」という言葉が最初に使われた事例です。そして、

USスチール社はこの方針どおりの経営をすすめ、災害の少ない、品質の良い製品を作る製造現場を作り上げたそうです。

私は「安全第一」も凄いが、次の「品質第二、生産(性)第三」という言葉も重いと思います。約100年前に製造業において、「もうけ(生産性)より、製品の品質が大事」だなんて、まさしくプロジェクトXの世界です。

先日「戦場のおくりびと」という映画を観ました。これは、ケビン・ベーコン主演のいわゆる「ロードムービー」で、イラク戦争の頃、ある海兵隊員が、戦死したアメリカ兵の遺体を、彼らの故郷まで飛行機やクルマを使用して移送する任務につきますが、その旅の途中で起きた様々な出来事を描いている、けっこう重い作品です。その映画の一場面にラストベルトの閉鎖された工場の中に主人公が入っていく場面があるんですけど、その誰もいない廃工場の壁に「safty first」っていう掲示があったことが印象的で、この言葉がいかにアメリカ社会に浸透しているかが分かりました。

このアメリカの製造業の歴史を体現しているような企業を、日本製鉄は買収しようというのですから、アメリカ社会から反発が起きても当然というような気がします。

さて、買収する側の日本製鉄のついても私は思い出があります。約40年前に愛知労働局に在籍していた時に、先輩と一緒に日本製鉄(当時は「新日鉄」と呼んだ)の名古屋製鉄所に臨検監督に行ったことがあります。その時に、最先端そして最高の安全管理の手法を目にすることができました。従業員一人一人が自主的に実施するKYや指差し呼称。安全を重視し、少しでも不審な点があると業務をストップさせるその姿勢。挨拶の時に、「こんにちは」のかわりに、工場内では「ご安全に」と声を掛け合うものだと、この時に知りました。

日本製鉄がUSスチールを買収することに意義や問題点については、私は良く分かりません。しかし、日本最高峰の安全管理を行う日本製鉄と労働安全のレジェンドともいえるUSスチールでは、現場サイドでは相性がいいかもしれません。