USスチール社

(松永安左エ門の旧邸「老欅荘」・小田原市、by T.M)

NHK サタデーウォッチ 4/13

幅広く関係強化を確認した日米首脳会談。

この中で日本企業による、ある買収案件が話題に上るのか、注目されていました。

粗鋼の生産量で世界4位の「日本製鉄」が、アメリカで100年以上の歴史を持つ「USスチール」をおよそ2兆円で買収するという計画です。

しかし、そこにアメリカ大統領選挙の影響が…

USスチールという企業には、労働安全の分野で神格化されている逸話があります。

今から約100年前の1900年代はじめ、当時世界最大の製鋼会社のUSスチール社の社長であるエルバート・ヘンリー・ゲーリー社長は、労働災害がたびたび発生する同社工場について、次のように考えたという。

「同じ神の子である人たちが、こんな悲惨な災害を被り不幸な目にあっているのは、見るに忍びない」

そして工場内の改善をすすめるとともに、こんな言葉を述べました。

Safty First,Quality Second,Productivity Third

(安全第一、品質第二、生産第三)

これが労働安全史において、「安全第一」という言葉が最初に使われた事例です。そして、

USスチール社はこの方針どおりの経営をすすめ、災害の少ない、品質の良い製品を作る製造現場を作り上げたそうです。

私は「安全第一」も凄いが、次の「品質第二、生産(性)第三」という言葉も重いと思います。約100年前に製造業において、「もうけ(生産性)より、製品の品質が大事」だなんて、まさしくプロジェクトXの世界です。

先日「戦場のおくりびと」という映画を観ました。これは、ケビン・ベーコン主演のいわゆる「ロードムービー」で、イラク戦争の頃、ある海兵隊員が、戦死したアメリカ兵の遺体を、彼らの故郷まで飛行機やクルマを使用して移送する任務につきますが、その旅の途中で起きた様々な出来事を描いている、けっこう重い作品です。その映画の一場面にラストベルトの閉鎖された工場の中に主人公が入っていく場面があるんですけど、その誰もいない廃工場の壁に「safty first」っていう掲示があったことが印象的で、この言葉がいかにアメリカ社会に浸透しているかが分かりました。

このアメリカの製造業の歴史を体現しているような企業を、日本製鉄は買収しようというのですから、アメリカ社会から反発が起きても当然というような気がします。

さて、買収する側の日本製鉄のついても私は思い出があります。約40年前に愛知労働局に在籍していた時に、先輩と一緒に日本製鉄(当時は「新日鉄」と呼んだ)の名古屋製鉄所に臨検監督に行ったことがあります。その時に、最先端そして最高の安全管理の手法を目にすることができました。従業員一人一人が自主的に実施するKYや指差し呼称。安全を重視し、少しでも不審な点があると業務をストップさせるその姿勢。挨拶の時に、「こんにちは」のかわりに、工場内では「ご安全に」と声を掛け合うものだと、この時に知りました。

日本製鉄がUSスチールを買収することに意義や問題点については、私は良く分かりません。しかし、日本最高峰の安全管理を行う日本製鉄と労働安全のレジェンドともいえるUSスチールでは、現場サイドでは相性がいいかもしれません。