職場への絶望!

(ニューヨーク近代美術館)

山形放送 12月25日

過労死ラインを上回る時間外労働などが原因で、5年前に自殺した川西町の男性職員が労務災害として認定された。

2016年6月、川西町企画財政課に勤務していた安部幸宗さん(当時25)が自宅で自殺しているのが見つかった。亡くなる直前の1か月で時間外労働は180時間を超え、さらに遺族側は長時間労働のほか、パワハラやいじめが自殺の原因の可能性があると主張していた。

去年9月、三者委員会は自殺の原因を「長時間労働とそれを隠さなければいけない状況が心理的負荷となった」と認定した。遺族の意向を受けて町は、公務員災害補償基金の県支部に認定申請を行い、23日公務災害として認定された。遺族側の弁護士は認定を受けて、今後、町に対し、慰謝料を請求する予定。

なんともいたましい事件です。被災者の方のご冥福を祈ります。

亡くなられのは5年半前ということですが、なんで労災認定までこんな時間がかかったのでしょうか。そうではないと思いたいのですが、町が労災申請に積極的ではなかったということがあるのでしょうか?

今回のケースは被災者の方が、「長時間労働を隠していたことが心理的な負荷となった」ということですが、労働者が「自主的に労働時間を隠す」なんていうことは、狂った組織だということです。

確かに、民間企業においても、残業時間の申請がしづらいという部分があります。だから上司の指示により「残業は何時間までしか認めない」と言われると、部下はそれしか残業をしてはいけないのだと思い、残りの労働時間はサービス残業となってしまうこともよくあることです。でも、そういう時って、「堂々とサービス残業」をするのが一般的ではないでしょうか、ようするに、みんな「時間記録」だけは適当にするけど、職場全体が暗黙の了解でそれが分かっているというケースです。

というより、「ばれたら、上司が怒られるだろうけど、別に上司を守る気はないや。残業代を請求しないだけ、ありがたく思え」と考える人多いと思います。

でも、中には「上司に忖度して、上司に分からないように残業をしよう」と思う方がいます。このように思うかたは、たいていは非常に真面目で責任感が強い方です。そして、ストレスを溜めこみ過ぎて自殺してしまうのもこのような方です。今回の被災者の方もそんな方であったと思うます。

皆さん、組織の上司に忖度して「労働時間」を隠す必要なんて、なんにもないんですよ。もっと、開き直りましょう。

厚生労働省が作った「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」には、こんないいことが書いてあります。

テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。メールのみならず電話等での方法によるものも含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられる。

ようするに、テレワーの時間の終了後には、労働者は企業からの電話やメールを一切見なくていいということです。

厚生労働省のお墨付きですから、今後は時間外の業務連絡の電話・メールは一切無視しましょう。そんなふうに、「仕事時間」と「私の時間」を割り切ってしまい、自分の時間を持つことが、メンタルを抱え込まない、一番いい方法だと思います。

組織は人を守りません。利用するだけです。ならば、労働者も組織を利用することだけ考えていれば良いのです。

松下幸之助、本田総一郎、豊田喜一郎、そんな物語はもうないのです。

赤木さんと水道料金

(小田原の皆春荘、by T.M)

森友学園の裁判のことを考えてたら、まったく関係のない、以下の事件の措置が参考になるのではないかと思いました。

読売新聞 12月4日

業務上のミスなどで生じた損害について、自治体が職員個人に賠償を請求する例が増えている。住民による行政監視が強まっていることが背景にあるとみられ、民間企業よりも厳しい対応が求められているようだ。

(略)

 兵庫県では昨年11月、県庁の貯水槽の排水弁を約1か月閉め忘れたことで水道代約600万円が余分にかかったとして、県が50歳代の男性職員を訓告処分にし、半額の約300万円の弁済を請求。職場でカンパを募ることも検討されたが、職員は「迷惑をかけられない」と辞退し、昨年12月に全額を支払った。

(略)

私は、こういう措置が好きでありません。職員が行ったヒューマンエラーについて、その職員が弁済することはあってはならないと思います。なぜなら、上記の事件は「損害賠償事件」ですが、これが「死亡労災事件」でしたらどうなっていたでしょうか?

同じバルブの閉め忘れであっても、水道栓なら「損害」が発生するだけですが、これがもし「化学工場でのバルブの閉め忘れ」であったなら、「爆発及び死亡災害」に発展することもあります。そのため、化学工場では幾重ものチェック体制及び安全装置を用いてバルブの閉め忘れを防いでいます。

上記の兵庫県のケースですが、兵庫県は「化学工場が行っているようなバルブの管理」を行っていたのでしょうか。「バルブの閉め忘れ」の責任を個人の労働者に問うということは、「組織的なバルブの開閉の管理」を行っていなかったことを認めていることです。

こんなことを認めてしまったら、「死亡労働災害」が発生した時に、「個人のヒューマンエラー」を理由に、労災の責任を一労働者に押し付ける企業もでてきます。実際、そういう企業はありました。

(注) 事故責任が100%個人のある労災事故を私は知りません。例え、トラック運転手が酔っ払い運転で事故を起こしたとしても、「管理責任」は企業にあると思います。もっとも、上記の兵庫県の事例も、「管理責任」は認めていて、「実際の損害額の半額」を労働者に請求しているようでした。

この兵庫県の事件のことを考えていたら、森友事件で自殺した財務省の元職員の赤木俊夫さんのことが頭に浮かびました。財務省は

「赤木さんが強く反発した財務省理財局からの決裁文書の改ざん指示への対応を含め、森友学園案件に係る情報公開請求への対応などのさまざまな業務に忙殺され、精神面と肉体面に過剰な負荷が継続したことにより、精神疾患を発症し自殺した」

ことを認め、赤木さんのご遺族に約1億円の損害賠償金を支払うそうです。これで裁判は終了です。

でも、兵庫県の「バルブ閉め忘れ事件」を参考とするなら、「赤木さんの事件」はまだ終わっていないことになります。

「赤木さんのご遺族に支払う1億円」については、税金から支払うのではなく、「赤木さんを死に追いやった」財務省職員が「個人的に弁済」するべきです。ですから、国は赤木さんのご遺族の方に1億円を支払った後に、その費用を「職員個人」に対し求償をすべきです。そして、誰にいくら求償したのか、及び、その理由を明らかにすべきです。

通常なら私は、「労働者」側に立ちますが、「上に忖度し、公務員としての倫理を失くし、部下に不法行為を押し付けた」財務省の職員は、それが事実なら「100%の責任を労災事故」に対し持つと思うから、同情に値しません。そしてそれが事実でなく、「忖度」でなく「命令」であったなら、そのことを明らかにするべきでしょう。(そうすれば、「損害賠償」に応じる必要はありません)

赤木俊夫さんのご冥福をあらためて祈ります。

労働時間の考え方

(南足柄郡大雄山最乗寺の紅葉、by T.M)

12/7 読売新聞

電機大手パナソニックの富山工場(富山県砺波市)に勤務する技術部の課長代理の男性(当時43歳)が2019年10月に自殺したのは、「持ち帰り残業」などの長時間労働でうつ病を発症したのが原因として、同社が遺族に謝罪し、解決金を支払うことで和解した。遺族と代理人弁護士が7日に富山市内で記者会見し、明らかにした。

 弁護士らによると、男性は19年4月、製造部の係長から昇格。仕事の内容が大きく変化して量も増加し、自宅で会議資料を作成するなど残業が続き、100時間を超える月もあった。男性は半年後に自殺した。

 砺波労働基準監督署は21年3月、遺族側の申請に対し、男性が仕事の精神的負担でうつ病を発症したと労災認定したが、持ち帰り残業について「労働時間に該当しない」としていた。だが、会社側は男性のパソコンなどを調査し、持ち帰り残業を余儀なくされたことを認めた。

 男性の妻(41)は記者会見で「主人は会社を恨みながら亡くなった。同じような人が出ないでほしい」と訴えた。遺族側の松丸正弁護士は、会社側が持ち帰り残業の責任を認めたことについては評価した。

 同社は7日、「安全配慮義務を怠った結果、社員が亡くなったことをおわびする」などとするコメントを出した。

まずは、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。

これは難しい事件ですね。ヤフコメを見ると、「持ち帰り残業を労働時間としてみなさない」という結論を出した労働基準監督署を非難されている方が多いようです。

「労働基準監督署は碌に調査しない」という意見も多いようですが、少し事実関係に誤解があるようですので、説明します。労働基準監督署は労災を認定する調査の段階で、「持ち帰り残業」の事実は把握していたと思います。しかし、この時間について、対価としての金銭が支払われていないことが、労働基準法第24条(賃金の支払い)、及び第37条(残業代の支払い)の違反に該当するという判断をしなかったものでしょう。

これは、労災調査官の判断というより、司法警察員である労働基準監督官の判断であると思います。もし、私が担当官であったとしても、そういう判断をしたと思います。

「持ち帰り残業」の存在を否定しているのではありません。「労働」とは、「時間的拘束を受け、場所的拘束を受け、事業主の指揮命令下にあるもの」という概念に縛られている古い監督官は、「持ち帰り残業」というものがいまいちピンとこないのです。

何よりも、「残業代不払い」という法律違反を是正勧告しようとしたら、「残業時間数を特定し、遡及是正」させなければなりません。「遡及是正」に応じなければ、刑事事件で送検しなければなりません。刑事事件の原則は、「疑わしくは処罰せず」です。果たして、「持ち帰り残業」について、「刑事事件で有罪判決を得る」ところまで「労働時間」を特定できるのでしょうか?

少し話がずれますが、労働基準監督署内部についても、労災調査部署と監督部署では「労働時間」の取扱いが違います。例えば、過労死の労災認定について、被災者の労働時間について、労災調査部署は「パソコンのオープン時間」を労働時間として労災認定できますが、監督部署は「疑わしきは処罰せず」の原則によってそれができません。被災者が、パソコンをオープンにしたまま離席していた可能性があるからです。本省は、この労働基準監督署内部の、労災調査部署と監督部署の「労働時間についての取扱いの違い」を問題としているようですが、私に言わせれば、それを問題とする本省の方が「現場」を知らないのであって、「刑事事件」と「労災補償」の違いをもっと勉強して欲しいと思います。

さて、前述の記事に戻りますが、パナソニックは遺族の方と和解したそうですが、これは第三者として客観的に考えると、遺族側担当弁護士さんの、「会社側が持ち帰り残業の責任を認めたことについては評価した」という意見に賛成します。

被災者の妻の方の「主人は会社を恨みながら亡くなった」という言葉は大変重いものであり、被災者の勤務していた工場の方々には、この言葉を受け止めてもらいたいと思いますが、「自分たちの過失を認めた」ことは、さすがに一流の企業です。遺族の方の「同じような人が出ないでほしい」という願いを実現して欲しいと思います。

「在宅ワーク」等の労働形態が一般化してきている現在において、「在宅での労働時間の評価」というものは、今後も課題として残るでしょう。ぜひ、行政機関がそのガイドラインを示して欲しいものです。もっとも、どこかの裁判で最高裁判決がでる方が先になるかもしれませんが、その時はやはり行政の対応が遅いとの結論になると思います。

昔の監督官

(再び山梨の林道、by T.M)

東海テレビ・12月2日

三重大学が付属の小中学校などの教員らに残業代を十分に支払っていなかったとして、労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。

 三重大学によりますと、残業代の未払いの対象は、付属の小中学校や特別支援学校、幼稚園の教員ら90人ほどで、未払いは2004年から続いていたということです。

 三重大学は2004年に国立大学法人となりましたが、労働基準法による割り増し賃金ではなく、公立学校の教員に適用される「教職員給与特別措置法」に基づいて月給の4%までしか残業代を支払っておらず、労基署が今年10月から4度にわたって立ち入り調査をしていました。

 津労働基準監督署は11月30日に三重大学に是正勧告をしていて、過去2年間分の勤務実態を確認して改善するよう求めたということです。

 三重大学は直近2年分を支給するとしていて、支給総額は数億円に上るとみられています。 三重大学は「必要に応じて未払いの給与を支払うなど適切に対応していく」とコメントしています。

素晴らしい!津労働基準監督署の方々、お疲れさまです。若い監督官が本当に良くやってくれました。先週は若い監督官の悪口を書いたけど、今週は目いっぱい称賛したいと思います。

私のような古い監督官には手が出せない「制度」というものがあります。それを、若い人たちが、一つずつ壊していくのを見るのはとても気持ちのいいものです。(少しの嫉妬はあります)

実は、「学校法人」において、「私立高校」が「公立高校」と同じ労働条件で業務を行っていて、労働基準法違反が常態化しているということは、昔の労働基準監督官でも、何となく気付いていました。「公立高校で堂々とやっていることが、なぜ私立高校ではダメなのだ」という理屈は、「お役所がやっていることが、なぜ民間企業はダメなのだ」という理屈に通じるので、何となく手を出しにくかったのです。

労働者から申告でもあれば動いたとも思いますが、当時決して弱くはなかった、「私立学校の労働組合」でもそれを申告する動きはありませんでした。それは多分、次のような理由によります。

「昔の教師は、過重労働だが、“夏休み”、という恩恵もあった」

「部活等を生きがいと感じている人もいた」

「あまりに当たり前のことで、問題とする者もいなかった」

また、行政サイドでも、この問題を積極的に取り上げる動きはありませんでした。それを問題としても、誰も評価してくれず、面倒なことをするなという雰囲気だったためです。

もちろん、今述べたことは、元労働基準監督官として悔悟の気持ちをこめた言い訳です。この「昭和の常識」(あるいは「昭和の監督官の怠慢」)を、ぶち破ってくれた「令和の監督官」に拍手したいと思います。

しかし、今の教師って大変ですよね。昔は「夏休み」という救いがあったのに、今では「研修」等でそれもほとんどないと聞きます。「部活の顧問」にしても「やりがい搾取」の状況であるとか。教師の最大の魅力は「安定」かもしれませんが、それと引き換えに「メンタル」を壊す方が増えているのは事実なようです。(安定?「非常勤教師」は違うでしょうけど・・・)

この、津労働基準監督署の是正勧告書の破壊力は、相当なものだと思います。今後もこのような事案は増えていくことでしょう。教育の現場に携わる方の労働条件の改善に繋がる仕事ができるなら、それこそ「監督官のやりがい」ということになると思います。

次は、ぜひ「修学旅行引率の教師の労働時間」や、「甲子園大会に出場する引率教師の労働時間」を問題にして下さい。

私は別に、「修学旅行」や「甲子園大会」を目の敵にしている訳ではありません。「昭和の時代から続く労働態様」を打破して、「新しい時代の修学旅行引率教師の労働条件」を確立して欲しいと思うのです。