残業代未払

(野毛山動物園のレッサーパンダ、by T.M)

実業家のひろゆき氏が、2月12日にTwitterに投稿した内容が波紋を呼んでいる。

「うちの会社はギリギリの経営なので残業代は払えないです」と言う会社は潰れた方がいいです。給料をきちんと払わない会社が価格競争をすると、まともに給料を払う会社が負けて潰れます。ブラックな会社が潰れるとまともな会社は売り上げが増えて昇給や研究開発や投資がしやすくなります。

 この発言は、現在までに3.5万もの「いいね!」がついている。

「ひろゆきさんの『残業代が払えない会社は潰れた方がいい』という発言は、残業の未払いやサービス残業が社会的に大きなテーマとなるなか、『我が意を得たり』と思った人が多かったのでしょう。

これは、ひろゆき氏は良い事をいいますよね。現役の監督官では言いたくても言えないことです。退職した監督官である私なら言えます。「100%、ひろゆき氏に同意します。」

でも、世の中ではブラック企業の方が蔓延るんです。

売上から一定の経費(燃料や修理代、会社の事務費用、制服代など)を差し引いたものが給与というリース契約のような賃金体系を採用したタクシー会社(当然、残業代ナシ)、

労働契約でなく委託契約として実質残業代を払わない運送会社、

従業員を過労死するまで追い込んだ、カリスマ経営者のいる居酒屋グループ、

ワンオペ体制で長時間労働が続き、申告が続いた牛丼屋等々、

ひろゆき氏の言葉を借りると、「まともに給料を払っている会社」ではない会社が大きくなっています。もっとも、私が挙げた会社は大きすぎて、潰れてしまったら働いている人や関連会社もなくなってしまうし、いい方にと改善して欲しいのですが・・・

さて、私もひろゆき氏のように、つぶれて欲しい会社があります。それは、外国人技能実習生を「技能を学ばせない」で「単純労働」に使用して低賃金しか支払わないところです。外国人労働者を認めるならば、そのように法整備をすれば良いのに、いつまでも「技能実習生」という中途半端な制度を続ける国に対しても、怒りを感じます。

QBハウスについて

(身延山久遠寺 by T.M)

共同通信 2/14

低価格ヘアカット専門理容店「QBハウス」の神奈川県内の店舗で働く美容師8人が14日、残業代を過少に算定していたなどとして約2800万円の支払いを運営会社側に求め、東京地裁に提訴した。

 訴状などによると、8人は2003~16年にQBハウスのスタッフとして採用されたが、運営会社が業務委託する個人事業主のエリアマネジャーに雇用される形態になっていた。業務上の指揮命令をしている運営会社の「キュービーネット」が事実上の雇用主で、残業代を支払う責任があると主張している。

 キュービー社はホームページで、運営会社などで勤務する理美容師は「業務受託者に雇用されている」との見解を示している。

この問題なんですが、監督官の現役の時に少し研究したことがあります。ちゅーか、10年前からこの形態があるんですよね。この問題は、私の経験としては、働いている美容師さんはQBハウスの労働者の可能性が高いと思います。でも裁判では原告側(労働者側)が負けると思います。理由は、最も協力して欲しい者の協力が得られないからです。

この問題の本質は「エリアマネージャー」が、QBハウスの労働者であるかどうかです。エリアマネージャーとQBハウスの契約が「委託契約」であるなら、エリアマネージャーは個人事業主ということになるから、その下で働く美容師さんたちはエリアマネージャーの労働者ということになり、QBハウスの労働者ではないということになります。

エリアマネージャーとQBハウスの契約が、見かけ上は「委託契約」であるが、実は「労働契約」であるなら、QBハウスがエリアマネージャーを指揮命令して、美容師さんたちを雇用しているので、美容師さんたちはQBハウスの労働者ということになります。

(注) 「委託契約」であるか、「労働契約」であるかは、基本的に「場所的拘束を受けているか、時間的拘束を受けているか、事業主の指揮命令を受けているか」等ではんだんします。

つまり、美容師さんたちがQBハウスの直接雇用であるかどうかについては、間に入るエリアマネージャーの属性次第ということになります。

エリアマネージャーが美容師さんたちと共闘してくれて、「自分たちもQBハウスの労働者だ」と主張してくれれば、美容師さんたちにとって裁判は有利になりますが、どうもそうでない様子です。だから、私はこの裁判は原告側にとって厳しいものになるのではないかと思います。

意外と「コンビニ」等についてもこういう問題があります。コンビニの店主とコンビニ本社の契約は、店主に資本(土地、建物)がどのくらいあるかで違いがありますが、基本は、店舗の売り上げから必要経費を差し引いたものが店主の収入となります。最初に資本がある方がコンビニのフランチャイズであれば「必要経費」は少なくなりますが、資本を持たない雇われ店長については「必要経費」の比率が多くなり、削れるのは人件費ぐらいですから、店長自らが過重労働となります。あるコンビニの雇われ店長から、これは「実質的な労働者でないか」と相談を受け申告となり、けっこう気を入れて調査したんですけど、店長が途中で「揉め事をおこしたくない」等の理由で申告を取り下げたことがありました。結論を出したかったんですけど、今となってはちょっと残念に思える事件でした。

国立病院機構について

(国立病院機構の退職意向アンケート、文春オンラインから引用)

文春オンライン 2月8日

独立行政法人・国立病院機構東京医療センターで、看護師の大量退職が起き、医療現場が危機に陥っていることが「 週刊文春 」の取材でわかった。看護師への処遇を巡っては、労働基準法違反違反の疑いがかかる複数の事例があるとの証言も得られた。看護師らが取材に応じ、内情を明かした。

(略)

「勤務はいまだに『ハンコ』で管理しています。始業は8時半なのですが、勤務の始まる30分前には出勤して、患者のデータを読み込まないと対応ができません。でも、この時間は『残業代』が払われないのです。そもそも残業は、自分で申請することができません。リーダーに『〇時間とりたい』と事前に申請する仕組みで、通れば残業としてもらえますが、『仕事が遅いからでは?』などと言われてしまい、簡単にOKがでない。結果としてサービス残業も横行しています。」

(略)

 それだけではない。同センターの元看護師によると、「退職のタイミングは年に一度しかない」と嘆く。

「毎年1月に、『来年度末までの退職希望の有無』を回答する紙が配られる。それを逃すと、その後、1年は申し出てもすんなり辞められなかった」

今年になってから、私の所属する組織で、上司である所長と3回の面談を行いました。来年度の私の処遇についての話し合いです。私も65歳となり、4月から非常勤嘱託となるので、労働条件の切り下げはやむを得ません。そのことに腹が立ちましたが、所長が丁寧に接してくれ説明してくれましたので、最終的に納得し次の人生のステージに進む覚悟ができました。人事というのは、とても難しいと思いますが、最後に人を動かすのは誠意だと思います。

さて上記の記事についてですが、さすが文春さんです。良い記事を書いてくれました。同記事については思うところがありますが、退職希望の有無を回答するこのアンケートは、さすがにダメでしょう。「予定外の中途退職のないように熟慮の上お答え下さい。」って、どこまで上から目線なんだと思います。こんな文書を配布された時点で、腕に覚えのある再就職に自信のある看護士は辞めてしまうでしょう。

労働の現場で上司・部下の関係はあっても、労働契約の締結については労使対等です。それが理解できない管理者では、組織は維持できません。

気分良く働けるかどうかは、意外に管理側の何気ない気づかいにあるのです。

五ノ井さんの事件です

(野毛山動物園のキリン、by T.M)

非常に興味深い労災関係の記事があったので、長いけど引用します。

1/31(火) 1:29配信 日テレNEWS

陸上自衛隊での性暴力を告発した元自衛官の五ノ井里奈さんが、性暴力を行ったとして懲戒免職となった5人の男性隊員に550万円、十分な調査をしなかったなどとして、国に200万円の賠償を求め提訴しました。訴えを起こした理由は、加害者側の弁護士が作成した書類に書かれた“ある言葉”でした。

五ノ井さんは東日本大震災で被災した際に、支援してくれた女性隊員にあこがれ、自衛隊に入隊したといいます。しかし、あこがれの自衛隊で受けたのは、約2年間にわたる日常的な性暴力でした。

去年9月、防衛省は複数のセクハラ行為が行われていたことを認め謝罪。そして、陸上自衛官の隊員5人を性的な接触を行ったと認定し、懲戒免職としていました。

その後、五ノ井さんは、隊員側の3人から示談を持ちかけられていることを明かしていましたが、訴訟を起こすにいたった理由について――

性被害を受けた元陸上自衛官 五ノ井里奈さん

「できることなら、私としては戦う選択をしたくなかったのですが、本当に反省しているのかどうかというのが伝わらない」

五ノ井さんがこう感じたのには、ある出来事がきっかけでした。実は、示談を持ちかけられた際、加害者側の弁護士が作成した書類の中に、「個人の責任を問われるか疑問があるが…」という言葉があったといいます。これに対して、「責任がないということを言っているんでしょうか?」などと問い合わせたものの、回答がない状況だということです。

性被害を受けた元陸上自衛官 五ノ井里奈さん

「回答書がこないっていうのが、私としてはことの重大さを軽く見てるんじゃないか。このまま中途半端にするよりかは、しっかりとオープンにして、明確にする必要があると思っている」

会見の最後、伝えたいことを問われた五ノ井さんは、「私は、自衛隊が嫌いでこういう活動をしているわけではなく、絶対、同じ被害を出さないためにこういう行動をしているので、自衛隊は素晴らしい職業というのは間違いないので、しっかり内部を変えてほしいと思っています」と話しました。

これって、弁護士が凄いアホで無神経だと思います。でも、少し誤解があるのかなとも思います。というのは、この記事には大事なことがはっきり書かれていなくて、それはこの裁判は労災補償を争う裁判だということです。別の新聞記事には、はっきりと「国の安全配慮義務を争う」と記載されています。

職場内の人間関係が原因となり、ケンカ等が発生し、怪我人がでた場合に「労災」扱いとなるかは、「業務」と因果関係があるかどうかが問題となります。この五ノ井さんの事件は昨年の12月23日に防衛相が責任を認め労災としていますから、今回の安全配慮義務違反の損害賠償事件となった訳です。

労災の件で損害賠償請求するなら、確かに加害者への損害賠償請求へはハードルが高いようです。それは民法715条に「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と明記されているからです。

この事件は「モリカケ事件」における「赤木さんの損害賠償事件」と似ています。モリカケ事件で公文書の書き換えを苦として自殺した財務省職員の家族が、国と当時の上司を「安全配慮義務違反」として提訴しましたが、国が請求額を全額支払うことで上司への責任追及はされることなく裁判は決着しました。(これも酷い決着のさせ方です)

この五ノ井さんの事件についても、「国の安全配慮義務」を争うならば、国が五ノ井さんの請求額をそのまま支払って、加害者出席の裁判が行われる前に、裁判自体が終結する可能性があります。

加害者側の弁護士が作成した書類の中に、「個人の責任を問われるか疑問があるが…」

こんなセンシブルな事件に、こんな誤解させるような文言を入れた書類を作成した弁護士の責任は大きいと思います。

東日本大震災で被災した際に、支援してくれた女性隊員にあこがれ、自衛隊に入隊した

この気持ち分かります。2011年の3.11の後の4月に被災地に仕事で行ったけど、当時の自衛隊の活躍は、まさにヒーローでした。五ノ井さんの傷を癒すために、、自衛隊がどうあるべきであるのか・・・ 組織内部の良心に期待するしかないと思います。

自衛隊が、再び国民の尊敬を集める組織となることを、切に願います。