つながらない権利

(伊豆市・梅木発電所導水橋、by T.M)

たいへん興味深い記事がyahooニュースに掲載されていました。長い記事だったので私が要約したものを紹介します。

DIAMOND ONLINE 3月21日

1. 今さまざまな国で「つながらない権利」が注目されています。「つながらない権利」とは、勤務時間外に仕事やメールの連絡が来た場合に、労働者がその応答を拒否できる権利のことをいいます。フランスでは2017年法制化されその後イタリアやメキシコでも法制化、アジアにまで法制化を検討する動きが広がりつつあります。もともと通信技術の発達により議論が進んでいた中で、コロナ事情によりテレワークが浸透したこともつながらない権利に対して議論が進んだ要因といえるでしょう。

2.「あの件どうなった?」

 食品メーカーに勤務する佐々木さん(仮名)は、休日の家族とのランチ中に上司から入ったLINEに困惑したといいます。

 佐々木さんは、どうなったと聞かれても資料を確認しないとわからないし、実際に家に戻ってLINEを返したところ、調べて返すまでに1時間弱かかったというのです。

3.つながらない権利が法制化することで考えられることの一つに、企業のサービスの低下が考えられます。イージとしては、携帯電話が普及する前の時代に近いでしょうか。メールや電話などの連絡が取れないことで業務を進めることができず、翌日以降に持ち越されてしまうことが想定されます。持ち越せるものであればよいのですが、今までなら対応できたことが「本日は担当者が不在にしておりまして…」と遅れてしまうケースや、クレーム対応が迅速にできなくなる可能性があるでしょう。

4.つながらない権利をめぐってはさまざまな事情があり、海外では法制化される動きが広まりつつあります。今後、日本でも本格的につながらない権利の法制化が検討されることも、ないとはいえません。今からつながらない権利への対応を始めておくことは、今後の働き方を見直す意味でも有用といえるでしょう。

5.テレワークが定着する中で、厚生労働省から2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下ガイドライン)が公表されました。つながらない権利に関係するところでは、ガイドライン内で以下のように記載されています。

「・時間外、休日又は所定外深夜 (以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない。

・テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。」

ざっとこのような記事ですが、これはたいへん難しい問題だと思います。

まずは基本的には、「つながらない権利」は、「当然の権利」だと思います。仕事の連絡を時間外にしてくる方がおかしいのです。会社等からのメール・LINE等は時間外は無視してかまわないし、また「しないことがマナー」という一般常識を徹底させるべきでしょう。

でも困るのが、「事故対応時の連絡」。東日本大震災の数か月後まで、某電力会社では職員に対し、次のような業務命令を出していたという噂を聞いています。

「休日であっても、県外に行ってはいけない。会社からの緊急連絡に対処できるようにしておいてくれ」

この業務命令が事実であったなら、明らかな労働基準法違反です。でも、あの時の状況では仕方がなかったのかなとも思います。

この「つながらない権利」と「緊急連絡」の問題を解消する方法は、私は「労働」という概念を再検討することではないかと思います。すなわち、

「時間外の会社からのメールを受取った場合、それを読む時間が例え数十秒であったとしても、それは『時間外労働』となる。メール対処に費やした時間にはすべて残業代が支払われるべきである」

このような考えを徹底すべきだと思います。

上司は、時間外に部下にメールを送付する時は、「残業を命令している」という意識を持つべきです。

こんなメールがきました

(西伊豆・土肥桜、by T.M)

こんなメールがきました。年寄に質問のメールとはありがたいばかりです。

私は新卒で賃貸のリフォーム会社に就職し、約2年働き、昨年4月に早期退職しました。

現在は病院で清掃のアルバイトをしながら、労働基準監督官を目指しております。

監督官の仕事について深く知りたいと思い、情報収集していたところ、

おばら様のブログにたどり着き、拝見致しました。

それでさらに、こんな質問も来ました。

昨日ご連絡させていただいた××です。

ご返信頂き、ありがとうございます。

下記の点について、ご教示頂けますでしょうか。

①        監督官は労働者を働く人を守る立場にありますが、労使双方の観点から、法に基づいて「中立」な対応が求められている事を強く感じました。

仕事をする際、この「中立」の意識はどうすれば保てるものでしょうか。

②        正義感や責任感、情熱を持ち、冷静に対応できる方が監督官には向いており、

実際に監督官として働いている方、適性のある方もそのような人物だというイメージがあるのですが、小原様のご経験上、実際に働いている方の役に立てている方はどのような特徴がありますでしょうか。

③        監督官として働きだす前に、日常から意識しておくとよい事や意外とこのような事も大切だという事があれば教えて頂けますと幸いです。

①が一番お聞きしたい質問です。先日、ある労働局のWeb説明会がありました。

一方への肩入れはいけない。「労働者を守る」という意識が監督官になる前は強かったが、きちんと使用者の意見も聞き、中立の立場から対応しないとならない部分が監督官としての良い部分であり大変な事の一つだと伺いました。

  双方の意見を中立的な観点から考え、出来る限り公平に対応する事が大切なことは    分かったのですが、歯がゆい思いをする事が何度もあるのではないかと感じています。本当は労働者の方を優先したい…など。

中立の立場を保ち続けるには、普段からどういう心持ちでいる事が大切でしょうか。

私は、「先入観を持たずどんな事でもまずは経験してみる、そのあとで結果が分かる。」ということを普段から大切にはしているのですが…

それでこんな返事を書きました。

分かる範囲で質問に答えます。

①監督官は労働者を働く人を守る立場にありますが、労使双方の観点から、法に基づいて「中立」な対応が求められている事を強く感じました。仕事をする際、この「中立」の意識はどうすれば保てるものでしょうか。

「中立」という言い方も、ちょっと語弊を招くような気がします。監督官の仕事というのは、要するに

「労働基準法、労働安全衛生法に違反している事業場に法規を守らせる」

ということです。そのために、調査権限、司法警察権限が与えられています。それ以上でも、それ以下でもありません。

労働基準法等は労働者の保護法規ですから、監督官の仕事をしていたら「結果として、労働者の立場に立っていたケースが多い」というだけです。

逆に、法に規定されていないことは一切できません。そのことで、「労働者の期待を裏切る」ケースも多々あります。

仕事のモチベーションと、仕事の立ち位置は区別しなければなりません。

②正義感や責任感、情熱を持ち、冷静に対応できる方が監督官には向いており、・・・

どんな者が監督官に向いているかなんては、答えられません。

組織の中で「こいつは優秀な奴だ」と思われていても、労働者や事業主から「保身だけの奴」と馬鹿にされていることもありますし、その逆もあります。

私自身は、「仕事を好きになる奴」「仕事に誇りを持てる者」が仕事に向いている者だと思いますが、じゃあどんな者がそういう奴だと尋ねられと少し困ります。

結論から言うと、「なってみなきゃ分かりません」ということです。

私自身は、「人のためになっている」「色々な職場が見れて楽しい」ということで、けっこう仕事は好きでした。

③監督官として働きだす前に、日常から意識しておくとよい事や意外とこのような事も大切だという事があれば教えて頂けますと幸いです。

あなたは今、監督官試験に受かることだけ目指して下さい。すなわち、受験勉強だけ意識して下さい

「私は新卒で賃貸のリフォーム会社に就職し、約2年働き、昨年4月に早期退職しました。現在は病院で清掃のアルバイトをしながら、労働基準監督官を目指しております。」

あなたのこの経歴で、監督官の資質は十分あると思います。

あなたがA監督官(法文系監督官)を目指しているのか、B監督官(技術系監督官)を目指しているのかは分かりませんが、A監督官は「技術的なこと」に、B監督官は「法律的なこと」に勉強不足を必ず感じます。

でも、そんなもの3年もたてばなんとかなります。

本で得られる知識なんて、しゃせんそんなものです。

本当の勉強は、体験から得られます。そして今、あなたはその体験をしています。

ぜひ、あなたのような経歴の方が監督官になって欲しいと思います。

こんな返事でよければ、いくらでも書きますので、何か質問ある方は私にメールを下さい。

お待ちしています。

違法な36協定

(西伊豆・松原公園の花時計、by T.M)

本題に入る前に、自分のことを少し話ます。

60代後半まで後1年。残りの自分の人生のことを考えてみましたが、できるだけ長く何らかの形で「世間様」と関わっていたいと思いました。

私にできることは何だろうと思ったら、それは「労働問題のコンサルティング」だということに気付きました。

現在、ボランティア(無料)で労働相談に答えてます。興味のある方はメールを下さい。

obaraconsultant@jcom.zaq.ne.jp

さて、本題です。

NHK 3月8日

コンサルティング会社大手の「アクセンチュア」が社員に違法な残業をさせていたとして東京労働局は8日、会社などを労働基準法違反の疑いで書類送検しました。

書類送検されたのは、東京 港区のコンサルティング会社大手の「アクセンチュア」と労務を担当するシニアマネジャーです。

東京労働局や会社によりますと去年1月、ソフトウェアエンジニアとしてプログラミングなどの業務を担当する男性社員1人に1か月140時間余りの違法な残業をさせていたとして労働基準法違反の疑いが持たれています。

労働基準法では1日8時間、週40時間を超えて働かせ残業をさせる場合には労使で協定を結ぶ必要がありますが、労働局によりますと、「アクセンチュア」では協定を結ぶための手続きに不備があったということです。また、ほかの複数の社員についても違法な残業が確認されたということです。

「アクセンチュア」は、NHKの取材に「深くお詫び申し上げます。関係法令を順守し働き方改革を進めるために取り組んでいきたい」とコメントしています。

この事件のポイントは「ひと月140時間の違法な残業をさせていた」こともそうですが、

「協定を結ぶための手続きに不備があったということです」

ここが大事です。

少し解説します。「時間外労使協定」(労働基準法第36条に基づく協定なので、通称“36協定”と呼ばれています)は、使用者と労働者代表が締結するものです。

 (注)「過半数労働者を代表する労働組合」がある場合は、36協定は使用者と労働組合が締結する。

36協定は「残業が1日×時間、ひと月×時間」というような内容を協定するのですが、この労使協定が締結されていなければ(あるいは今回のように“無効”であれば)、「1日8時間、週40時間」の労働基準法の法定労働時間を1時間でもオーバーする残業をさせた場合は法違反となるのです。

さて、今回の送検に係る「協定を結ぶための手続きに不備」とはいったいなんでしょうか。それは私は、

労働者代表が適正に選出されていない36協定

であったことだと思います。

私がこのようなことを思うのは、そのような会社を多数見てきたからです。

労働基準法が適用され労働組合がない会社において、「36協定の従業員代表が選挙等で選出されている会社」がどれほどあるでしょうか? このブログを読んでいる方が会社員だとしたら、あなたは「36協定の労働者代表が誰かご存知ですか」?

今回の東京労働局の送検は、「無効な36協定の違反」を送検した訳です。これはとてもレアなケースです。厚生労働省が発表している「労働基準法等違反事例」で確認したのですが、「36協定の範囲を超えて残業させていた」「36協定を締結せずに残業させた」という事例はあっても、「36協定が無効であった」というケースはこの一例のみです。

労災隠しと一緒で、「違法な36協定」の存在はとても悪質だと思います。今後も労働局も、このように「違法な36協定」を作成する事業場を厳しく監督していって欲しいと思います。

ブログ再開です

(相模原の相模川河岸にある望地弁天、by T.M)

ログ再開です。でも、健康状態が悪いので、また休載となるかもしれません。Twitterに主戦場を移そうかとも思っています。

東海テレビ 3月4日

2021年8月、救命活動中に市民に医療行為を指示したとして、愛知県豊橋市の消防本部の職員が懲戒処分を受けました。

 豊橋市消防本部の男性主査(53)は去年8月、心肺停止の患者の救命活動中、現場に居合わせ応急手当にあたっていた市民に「静脈路確保」を指示しました。

 この静脈路確保は本来、救急救命士の資格を持つ男性主査が行うべき医療行為ですが、応急手当をしていた市民が偶然看護師だったため「自分でやるより確実だと思った」として処置を依頼したということです。

 患者はその後、搬送中に意識を取り戻しましたが、男性主査は「処置は自分がやった」と上司に虚偽の報告をしていました。

 豊橋市は「救護は成功したが、公務員としては不適正な業務執行」として、男性主査を減給10分の1・6カ月の懲戒処分としました。

この消防員の行動が適切であったかどうかについては、やや不明なので何とも言えませんが、長らく労務管理関係の仕事をしていた者としてひと言申し上げます。

この消防士の上司は何やってんですか?何も処分されていないけどなぜですか?

もちろん、それはこの消防士が「虚偽報告」をしたため、上司に何の非もないし、かえって上司が「迷惑をかけられた者」ですからなのです。

でもね、私の提案はそんなレヴェルの話ではないんです。

「男を上げるチャンスだったのに、センスねえな」(上司の方が女性だったらごめんなさい)

ということです。

この件は、確かに規則違反かもしれませんが、「横領」「賄賂」「ハレンチ罪」なんかとは違います。部下は軽率であったかもしれませんが、十分に弁護できることです。

こういう時に、何の責任もない上司が手を挙げて、

「この件については、私の教育・指導不足です。私も懲戒処分を受けますので、部下の罪を軽くして下さい」

と言えば、職場の尊敬はこの上司に集まります。今後の昇格にも影響ないし、もしくは、かえって昇格が早くなるかもしれません。

もっとも、普段から保身のみを考えている者には、このような発想はできません。

「カッコイイ上司」になれなかった私としては、ひたすらこのような上司に憧れるのです。