上智大学の賃金不払い

(羽田空港、by T.M)

毎日新聞5/29(日)

 上智大学の非常勤講師に賃金を支払っていないとして、大学側が労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが関係者への取材で判明した。大学側は勧告に応じず、労働基準監督署が出した勧告書の受け取りも拒否したという。是正勧告は法律違反を前提とした行政指導。是正しない場合などは書類送検されることがある。知名度の高い高等教育機関が行政指導に背いたことに、関係者からは疑問の声が上がっている。

 賃金の不払いを申告したのは、語学の非常勤講師を務める60代の女性。女性が東京労働局中央労働基準監督署に提出した申告書や、加盟する労働組合「首都圏大学非常勤講師組合」によると、女性は日本語初級コースを担当。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた2020年度からのオンライン授業の導入に伴い、教材を1人で作成した。

 女性は20~21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した。このうち20年3~5月の計22日間(52時間)は、授業がなく無給とされた期間だった。

 労組によると、労基署は実態調査に基づき、女性に労働の実態があったと認定した。女性と大学側が交わした契約書には、業務として教材の作成が記されていないことなどから、「新たに発生した対価を伴う労働」と判断。労基法違反を認め、賃金を支払うよう今年2月16日付で勧告した。

 女性によると、大学側は不払いの理由を「授業時間の給与に含まれるため」と説明したが、労基署はこうした主張を退けた形だ。

 大学側は勧告書の受け取りを拒んだため、労基署は口頭で読み上げたという。労基署は勧告への対応について、この日と3月17日の2回にわたり、期限を設けて回答を求めた。初回の期限は3月10日、2回目は同25日だったが、大学側はいずれにも応じなかった。

 女性は「教育機関が公的な勧告を無視するのは信じがたい」と憤る。労組の佐々木信吾書記長は「影響力の大きい有名大であっても、非常勤講師の労働時間管理はルーズなケースが多い。賃金はきちんと支払うべきだ」と指摘する。

 厚生労働省労働基準局監督課は、一般論と断った上で「勧告は違法行為を認定して出す。従うよう繰り返し指導する」としている。

 毎日新聞の取材に、大学を経営する学校法人上智学院は「現在、労基署との相談・協議を継続し、学内においても対応を検討している」とメールで回答した。

「労働組合が告発した」とか

「大学側が態度を和らげた」との続報

もありますが、重要なことがまったく分からない記事です。

この事件は、「申告者及びその労働組合」が前のめり過ぎて、労基署は困惑しているのではないでしょうか?大丈夫でしょうか?

この事件で、労働基準法第24条違反(賃金不払い)が成立しているという、中央労働基準監督署の見解に私は賛成します。しかし、刑事事件の成立には疑問です。告発された以上、検察庁に送付しなければいけないのは当然ですが、検察庁で不起訴になる可能性が大きいと思います。

理由は、「何時間労働していたのか」ということが証明できていない気がするからです。

「女性は20~21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した」

これはあくまで申告者の主張です。「タイムカード」とか「自宅で職場のLANに接続し、サーバーにその記録が残っている」というような客観的な証拠がなければ、賃金不払いの24法違反の特定はできません。

よくweb上で、「労働時間の記録は自分のメモ書きでよい」などとの噂がありますが、それは、「過労死の認定判断」や「民事裁判」で役にたつことがあるということであり、「本人が作成した証拠」では刑事事件の証拠にはなりません。

私の予想ですが、監督署は

「賃金不払いの違反は確かだ。だから、是正勧告を出す。でも、未払い賃金の特定はできないので、そこは申告者の話合い、もしくは民事裁判で決着をつけてくれ。大学側は、今後労働契約を見直し、労働時間を把握し、適正な賃金を支払ってくれ」

というような姿勢だったのではないでしょうか。大学側は、それを過度に警戒し、是正勧告書の受取を拒否したから、話が大きく広がってしまったのではないでしょうか。

さて、監督署もここまで来たら、後へは引けないでしょう。電通事件の時のように経営トップの取調べをしなければなりません。つまり、学長からの事情聴取です。

私が捜査担当官なら、労働基準法第24条違反(賃金不払い)ではなく、労働基準法第15条違反(労働条件の通知)も併せ送検すると思います。もっとも、その違反でさえ「不十分な内容といえども、労働条件通知書は交付されているので、違反はない」と判断されてしまうかもしれませんが・・・