長時間労働規制の問題点(21)


(高原列車・小海線と甲斐駒ケ岳、by T.M)

(前回ブログの続きを書きます。)
これは実際にあった話です。

労働基準監督署がある大企業の本社の総務部に「長時間労働を指摘する」是正勧告書を交付しました。そのため、総務部は、全国の各支店に通達として、「労働時間の適正化」を指示しました。すると、何が行われたかというと、各支店では「自主的な労働時間隠し」が行われたのです。

通達を受けた支店の立場としては、他に方法がなかったのです。長年続いた長時間労働の体質は、一通の文書で変えられないのです。目の前にある仕事を処理することと、総務部の意向に沿うことを両立するためには、違法なこととは知りつつも、「労働時間隠し」をして、嘘の報告を総務にするしかなかったのです。各支店から、嘘の報告を受けた総務は監督署に、「法違反は是正しました」との報告書を提出しました。

それから、数年後のことです。最初に「労働時間隠し」を行った支店は、それが常態化してしまいました。それは、あたり前です。帳簿上は「長時間労働がない」のですから、支店の業務内容を変える必要性がないのです。そのような状況を不満に思った1名の労働者が監督署に申告しました。そして、監督署は数年前の是正報告の一件もあり、悪質事業場としてその会社を送検しました。

このブログを読んでいらっしゃる民間企業の関係者の方のなかには、この事件が起こりうる可能性を実感できると思います。私は最近、監督署が大々的に宣伝して送検した事例も、これに類するような事案ではなかったかと思います。

「労働時間隠し」を行う事業場は悪質です。何より、労働者を傷つけています。しかし、監督署の指導も、もう少し工夫すればと思う点もあります。