労働災害が起きました(18)

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(M氏寄贈、広瀬川)

私は、新監と実施した実況見分の様子を説明した。
「本当は新監を災害調査に連れていくなんて早いと思ったんだけど、教育のためにぜひ連れていってくれと署長から頼まれたから、仕方なく連れていったんだ。実際に行ってみると、クルマの運転は下手だし、カメラは使えないし、図面は滅茶苦茶だし、飲み込みは悪いしで苦労したよ。まあ、新人だから仕方ないけどね。
今は、毎日生き生きと仕事をしているよ。パソコンが詳しいところだけが取り柄で、他はまだまだ未熟だけど一生懸命だ。よき仲間と、優秀な上司に恵まれているのが幸いなんだけどね。」

それから、私たちは打ち解け、色々なことを話した。彼の家庭環境のこと、彼がどうして今の仕事を選んだかということ、彼が今夢中になっているもの、彼が好きなアイドル等々。

そして、事故のことも聞けた。あの日、彼が先輩からどういう指示を受けたか、そもそも爆発したドラム缶にかつてガソリンが入れられてあったことの認識を持っていたかどうか。作業標準はあったか等
そして、一番聞きたかったこと、「労災事故の被害者として、会社を処罰して欲しいかどうか。」という質問について、「処罰は求めない」との回答は得た。

私は彼に対し、早期の職場復帰を祈っていることを伝えながら話した。
「役人として、余計なことかもしれないが、ひとつ言わせてもらうけど、色々な会社を見てきたが、君のいる会社はいい会社だよ。いつかは辞めるかもしれないが、君は今いる会社で、技術を学び、キャリアを積んだ方がいいと思う。君の志が、このような事故で負けてしまうことは惜しいと思う。」
私は、最後にこう付け加えた。
「元気になったら、監督署においで、新監を紹介するよ。」
彼は黙って聞いていた。

監督署へ帰ってくると、新監とM安全専門官が、キャッキャと笑いながら、業務の検討をしていた。私は、その屈託のない様子を見ながら、同じ社会人の第1歩目で、長く入院生活をおくる者と順調に歩む者がいることは、やはり何か不公平な気がした。