退職代行?

(いつも写真を提供してくれているT.M氏が長崎出張したそうです。そんな訳でしばらく「長崎シリーズ」をします)

yahooニュースにこんな記事がありました。

「明日から会社に行かなくてOK!」――。こんな過激な売り文句が公式サイトに並ぶ「退職代行サービス」が、インターネット上で注目を集めている。 2017年春にサービスを開始した「×」のことだ。電話やLINEで依頼者の希望を伝え、料金を振り込むだけで、退職にあたっての会社とのやり取りを全て任せることができるという。なんと、「即日」での対応も可能だそうだ。

ため息がでそうな記事です。確かに、「勤務していた会社が暴力的で退職できない」という労働者はいると思います。でも、出社しないで欠勤したままずるずると辞めてしまった後に、最後の月の給料が払われないというトラブルを、私はいくつも知っています。

元々、賃金は本人に直接払いが原則です。銀行振込をする場合は、「労使協定」と「労働者との合意」が必要です。「労働者との合意」については、雇用開始時の労働契約書で証明することができますが、多くの会社は「労使協定」を作成していません。ですから、このような会社の「賃金の銀行振込」は違法だということになるのです。

退職を通知された会社が、「最後の給料は取りに来い」と労働者にいうことはよくある話ですが、それは労働基準法第24条の直接払いの原則で言えば当たり前のことになってしまうのです

私は、賃金不払い事件を主任捜査官として20件以上送致してきました。強制捜査(ガサ入れ)の指揮したことも何回もあります。多くは、「ハレノヒ」や「てるみくらぶ」のように倒産がらみの案件です。

前述のように無断欠勤のうえ退職(業界用語でこれを「ケツ割って逃げた」と言います)の末に賃金不払事件は、申告者がどうしても告訴するということで送検した1件だけです。検事に「どうしてこんなもの告訴受理した」と怒られました。即刻、検察庁は不起訴(不起訴理由「罪とならず」)としました。「銀行振込」でなく「直接払い」が原則なので、「会社が給料日に会社で支払うと通知しているのに、取りに行かない労働者が悪い」という理屈になってしまったのです。

もし、ブラック企業に勤務している方が、「恐くて退職できない」というなら、取るべき方法は2つです。1つ目は労働基準監督署と相談すること。2つ目はどこかの労働組合と相談することです。ただし、2つ目の方法を取る場合は注意して下さい。労働組合もピンキリです。本当に労働者のことを思い親身になって活動してくれるところもあれば、ただの金目当てのゴロツキもいます。そのへんの見極めは自分がしなければいけません。

(補足説明)

昭和50年2月25日付の通達・基発112号により、賃金の銀行振込について、「労使協定」が必ず必要とされていました。ただし、昭和63年に労働基準法施行規則の改正があり、それ以降は同規則第7条の2により「労働者の合意」だけでよいと考えるのが一般的です。

ただし、この昭和50年の通達はまだ生きていて、現在でも厚生労働省のHPや地方労働局のHPでは、「労働者の合意」と「労使協定」が必要とされています。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken02/chingin.html