長時間労働の取締り

(五島美術館の茶室・東京都世田谷区, by T.M)

少し旧聞なのですが、こんな記事を見つけました。

労使協定で定めた上限を超えて社員に残業をさせたなどとして、吉本興業や人気グループ「サザンオールスターズ」の所属するアミューズなど芸能事務所3社が労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが16日、各社への取材で分かった。

吉本興業と子会社は201218年、労使協定で定めた月50時間を超える残業をさせたなどとして2回の勧告を受けた。アミューズも1318年に2回、従業員が1カ月間休みなしで勤務したことなどで勧告された。

人気グループ「EXILE」が所属する「LDH JAPAN」(東京・目黒)にも1418年、従業員の労働時間を巡って2回の勧告があった。

吉本興業は「重く受け止め、対策を進めている」。アミューズは「真摯に受け止めている」、LDHは「労働環境を整備している」とそれぞれコメントしている。

(日本経済新聞、2019年4月16日)

各種記事によると、ニュースソースは「関係者への取材」とされ、明らかではないのですが、どこかの行政機関の担当者の誰かが意図的に漏洩させた情報ではないかと疑ってしまいます。働き方改革法案が昨年成立し、今年4月1日から施行ですが、法案成立時には話題になったけど、いざ始まってみると、なんかマスコミは取り上げないなと思っていたら、やはり話題作りに励んでいるような方がいるように思えます。もしそうだとしたら、惜しかったですね。ここ1,2週間内の発表ならもっと話題になったのに・・・

吉本興業の最近の事件について、例えば芸人さんの方に契約書が交付されていない件等で、労働基準法違反ではないのかという指摘をT.Vのワイドショーでされた方がいるようですが、それはありえないと思います。吉本興業の芸人さん達は、高い確率で「個人事業主」であると推測されるからです。

労働基準法第56条には、「映画の製作又は演劇の事業については、行政官庁の許可を受けて、満十三歳に満たない児童について、その者の修学時間外に使用することができる」という規定があって、私も舞台で演技する児童について、許認可の業務をしたことがありましたが、いわゆる芸能界で働く方は児童を除けば「個人事業主」として扱っています。

もっとも、吉本興業の芸人の方々は「労働」組合が結成できる可能性があると思います。労働組合法で規定される「労働者」は、労働基準法で規定される「労働者」よりも広義に解釈されるので、労働基準監督署が「個人事業主」扱いしている方々でも労働組合が結成可能なのです(事例として「プロ野球選手の労働組合」があります)。もっとも労働組合の成功のポイントは、どれだけ労働者が団結できるかです。一匹狼の芸人さんたちでは、よっぽどリーダーシップをとれる者がいないと無理ではないかと思います。

話を戻しますが、「労働時間」に関する取締りについて、現在どうなっているか気になったので、厚生労働省のHPの「労働基準関係法令違反に係る公表事案(平成30年6月1日~令和元年5月31日)」を確認してみました。すると、東京労働局が1年間に検察庁に書類送検した全20件の送検事案の中で、長時間労働に関する送検事案が4件でした。これは、すごいことです。神奈川・埼玉・千葉の3局の全送検件数は27件なんですが、長時間労働に関する送検件数が1件でした。比較してみると、東京労働局が長時間労働の取締りにいかに積極的であるかが分かります。最近、その話題は聞かなくなりましたが、やはり東京労働局にのみ設置されている「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)の存在が大きいと思います。

監督官の「送検技術」は、経験により向上します。そして、労働基準法第32条違反の送検(長時間労働事件の送検)がとても難しいものであることは、私も送検した経験がありますので、よく分かります。地方労働局も東京労働局のように送検事例を積上げないと、伝家の宝刀もいざという時に抜けないかもしれと、少し心配しています。