中日新聞と無給医

(鯉のぼり・山梨県北杜市、by T.M)

記者に有休認めず、中日新聞東京本社に勧告(朝日新聞) 
5/15(金) 22:25配信
 中日新聞東京本社が女性記者(48)の年次有給休暇の取得を拒んだとして、中央労働基準監督署(東京)から15日に労働基準法違反で是正勧告を受けたことがわかった。
 公表した新聞労連と東京新聞労組によると、記者は日決めの「原稿料契約」で東京中日スポーツの報道記者として芸能取材を担当。長年、社員の記者と同様に会社の指揮命令下で働いてきた。2月に年休を取得したところ、会社は「雇用関係にない」として休んだ分の賃金を払わなかったが、労基署は記者は労働者にあたると指摘したという。年休分の賃金はすでに支払い済みで、6月からは限定正社員として採用されることが決まっているという。中日新聞東京本社の大塚浩雄・東京中日総局次長は、是正勧告を認めた上で「すでに解決済みの話なので特にコメントはありません」としている。

これ、たいへん重要な論点を持つ問題だと思います。中日新聞ともあろうものがという感想です。何が重要かというと、現代の日本の労働事情の問題点を表しているからです。
「働く人」を労働者扱いせずに、「個人事業主」扱いしています。そして、労働基準法で定められた労働者の権利を無視しています。
以前、このブログでも何回か取り上げた「無給医」の問題、及び「ウーバーイーツ」の問題、「宅配便の個人事業主」の問題にも、労働者を「個人事業主」扱いする、あるいは労働者を「労働者として認めない」といった類似点があります。

(注) 「無給医」「ウーバーイーツ」等で働く人たちが労働者であるかどうかは、個別に判断していく必要がある。それは、「場所的・時間的拘束があるかどうか」「事業主の指揮命令下にあるかどうか」等を検討しなければならない。ネット情報等で、私が判断するかぎり、「ウーバーイーツ」は確かに労働者性は低く、「無給医」の場合は労働者性は高い。

しかし、「次世代を育てる生きた教材」(日本新聞協会のリーフレットより引用)を自認する新聞社ともあろうものが、「コメントはありません」はどうかと思います。かりにも、刑事罰を伴う法違反を行政機関から指摘されたんですから、例え解決済みだとしても、コメントは次の2つのうちのどちらかではないでしょうか。
①「当社としては、犯罪行為に類するような法違反があった事実はありません。労働基準監督署の判断が間違っています。」
②「当社としては、法解釈を誤り法違反を犯してしまいました。被害労働者の方には、まことに申し訳なく思いますが、詳細は解決済み故に、被害労働者の意向もありますので伏せさせて頂きます。当社には、被害労働者と同じ条件で働いている者が、×名おり、改めて職場環境を見直しています。(あるいは、該当労働者はいません)」

「労働者」であるか、「個人事業主」であるかで問題になるのは、私が監督官になった40年以上前でもありました。しかし、当時と現在では事情が違います。以前、多かった問題は、建設労働者に多かったように思えます。普段は個人事業主として、税金等で申告しているのに、労災が起きた時だけ「労働者」と主張しているのではないかと見なされるケースがありました。つまり、昔は「労働者」と「事業主」が話し合って、監督署に虚偽の労災申請書類を提出してくることもあったのです。このようなことは、労災保険の「一人親方の特別加入制度」が社会的に浸透してくるにつれて、少なくなってきたような気がします。
現在起きている「労働問題」は、会社側が一方的に労働者を「個人事業主」扱いにしていることに問題があります。昔は小さな建設会社がしていたことを、現在では名の知れた大企業が組織的に行っていることが、この問題の根深さを感じさせます。

労働者を労働者として認めない無給医の問題では、4月29日にNHKでも特集をしました。その番組内で、無給医の大学院生だと名乗る方の「コロナウィルス感染の治療について、労災が認められるかも不安」であるという証言の紹介の後に、その大学関係者が次の発言をしていることが気になりました。
「研究の補助業務としての診療を行うことはあるが、労働の対価として賃金が未払いになっているケースはないものと承知しています。大学院生で新型コロナ診療に携わっている者はいますが、労災補償などには対応しています」
大学院生の主張が本当だとしたら、この発言は次のような意味に取れてしまうのですが、私の理解能力不足による誤解でしょうか(?)
「普段は研究の補助業務として大学院生を(無給)で診療に携わらせることはあるが、コロナウィルス感染の労災補償には対応している」
私の誤解でないとしたら、なんか「昔の建設会社」の主張に似ていると思いました。

厚生労働省は今回のコロナウィルス対策で治療にあたる大学院生に対し、「給与」を支払い、「保険加入すること」を指示したそうです。
コロナウィルスの治療だけでなく、「通常の治療」に対しても、給与を支払い、労災加入をすべきだと思うのは私だけでしょうか。