コロナと派遣労働者(2)

(竹中半兵衛の像・岐阜県垂井町、by T.M)

年の瀬も迫りつつありますが、皆様はどうお過ごしでしょうか。私はネットフリックスに再加入しました。これで年末から正月にかけて、映画三昧・ドラマの一気見の準備も整いました。完全巣ごもりの準備万端です。

さて、「GOTO―」についてですが、コロナの第三波との関連性はまだ不明だそうですが、ひとつ分かっていることは、最前線で働く医療関係者の士気を挫く制度であるということです。今春以来、寝る間を惜しんで戦ってきた医療関係者の前に、「GOTOで安かったから旅行にいったら感染した」「GOTOを利用して宴会をしたらクラスターが発生した」という患者が多数現れたとしたら、最前線の者たちはどう思うでしょうか。
彼らには誇りがありますから、患者を責める言葉は決して口にしないでしょう。だからこそ、政府は医療関係者の士気を思い、「GOTO―」に対し思い切った見直しをすべきではないでしょうか。(もっとも、政府はそんなことは承知していて、あえて「経済」のことを優先させているのでしょうか)

今日は先週予告したように、派遣労働制度の抱える「闇」の話です。

例えば、使用者は、残業命令を拒否した労働者を懲戒解雇できるでしょうか。この事案について、有名な「日立武蔵工場事件」という裁判がありまして、平成3年に最高裁から判決が下っています。結論は
① 36協定の締結
② 就業規則に残業があることの記載
③ 合理的な残業命令であること
この3点が揃っていれば、残業を命令した労働者への懲戒解雇は有効であるということです。

36協定とは労働基準法第36条に基づく労使協定なので、そう呼ばれています。その職場の労働者の過半数で構成される労働組合か、労働者の過半数を超える者の代表者が、その職場の使用者と協定を締結し、「1日何時間残業するか」「ひと月何時間までの残業が可能であるか」「一年間に最大何時間まで残業できるか」を決めるものです。つまり、36協定の締結をすることにより、労働者は自分たちが選んだ代表を通し、自分たちの残業時間をコントロールすることができるのです。「36協定制度の形骸化」なんてが言われていますが(確かにその通りですが)、労働者代表を選んで36協定を締結するということは、とても大事なことです。

派遣労働者(特に「登録型派遣労働者」)は、この労働基準法第36条を無視して残業をさせられている現状があるのです。派遣労働者の36協定は「派遣元」で締結されています。派遣元は、「派遣労働者」を含む労働者から労働者代表を選んでもらわないと36協定が締結できません。ところが、派遣労働者たちは、それぞれ別々の事業場に派遣されていますので、お互いに面識はなく、自分以外の労働者がどこに何名くらい派遣されているのかは知らないので、自分たちの代表を選出することが物理的に不可能なのです。また、自分が労働者代表に立候補しようとしても、他の労働者に呼びかける方法もありません。

それでも、毎年1回必ず派遣元から36協定が労働基準監督署に提出があります。そこに記載されている労働者代表は、派遣労働者でなく、ほとんど(というか私の知る限り「全て」)派遣元の事務員です。これは、派遣元が登録型派遣労働者を雇用するときに、派遣労働者から、36協定をそのような処理をすることの承諾を得るからです。これで確かに36協定の法的な要件は具備しますので、法律的には問題がなくなります。

でも、これっておかしいでしょう。そもそも、36協定の労働者代表って、労働者からの意見を取り上げる人のことですよ。優越的な立場にある派遣元の事務員が、選挙をやる訳でもなく、個別に派遣労働者の意見を求めてそれで終わりってことはどうもおかしいことです。

もちろん、これは派遣元事業場が悪い訳ではありません。彼らは、何とか法を守ろうとして、このような方法を取っているだけです。悪いのは、このような無意味な法制度が残っていることです。
「派遣労働者の残業時間については、労働契約時の労使合意による」とでも規定しておけば、なんら問題はないのです。

派遣労働者(特に「登録型派遣労働者」)は自らの代表を選挙することができないから、自らの残業時間を管理できる法的手段をなくしていること、この実態については、関係者なら誰もが気付いています。でも、誰も何とかしようとしていないから、こんな個人ブログで愚痴るのです。