長時間労働規制の問題点(28)

(三国街道須川宿近辺①、by T.M)

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ブログを1回お休み頂きまして、明日の講義の資料を作成していました。衛生管理者の受験準備講習会の講師をします。講義内容は、「労働安全衛生法と労働基準法」ですが、法の主旨より、過去問から類推できる受験テクニックを教えるつもりです。

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電通事件について、被災者のお母様が、今回の立件について、被災者の上司が不起訴となったことが納得できないことを意志表示しました。

噂によると、被疑者となった被災者の上司は、社内で行われた、被災者への「パワハラ・セクハラ・イジメ」の当事者ではないそうです。

もし、そうであるなら、上司は社内の管理責任を問われ書類送検された訳ですから、管理責任の最終責任者として法人(つまり代表取締役)の刑が確定しているため、お母様のやるせない気持ちを情状としても、直接の上司は不起訴であるという検察庁の判断は理解できます。

検察審査会に申立てすれば、逆転起訴ということもあるかもしれませんが、直接の上司が今回の刑事事件で問われた管理責任は、あくまで「長時間労働をさせた」という法違反であって、「イジメ・パワハラを放置した」というものではないので、それも難しいかもしれません。

被災者のお母様がどうしても法の裁きを求めるなら、会社及びパワハラ当事者への損害賠償請求の民事裁判でしょう。ただ、現在の電通の様子では、裁判を避けるためにも、社員(パワハラ当事者)の分も含め請求額をそのまま支払ってしまいそうな気もします。

残る手段はパワハラの当事者への傷害罪としても告発ですが、これも敷居が高い気がします。

結論としては、パワハラに対し、罰則付きの処罰を求める法改正を求めていくことではないでしょうか。

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今回は、「電通事件の送検結果」について記載してしまいましたので、「長時間労働規制の問題点」のテーマは、お休みします。次回から、通常テーマに戻ります。

 

長時間労働規制の問題点(27)

  (横浜のマリンタワー、by T.M)

(前回のブログの続きです。)

ヤマト運輸は、自ら自社の負の情報をマスコミに提供することによって、完全に世論の影響への主導権を握りました。そして、次のようなことを発表しました。 

「宅配業界の労働者の業務は苛酷である。このままでは、当社はコンプライアンス不可である。」

「宅配業界の問題点として、再配達の問題がある。再配達への対処が長時間労働を生む。宅配ボックスの普及が必要だ」

「社員の休憩時間確保のために12時から14時までの時間指定の配達を取りやめる」 

社内に、ブラックの部分を抱えようとも、巨額な残業代支払いに応じるというヤマト運輸の誠意と率直な問題提起は、第3者の共感を呼びました。そして、気付いてみると、ヤマト運輸は、宅配時間の変更をし、代金の値上げまで計画し、社内の労務管理への構造改革の道筋を作ってしまいました。 

このヤマト運輸の経営力については脱帽するばかりです。「危機」をまさしく「チャンス」としてしまいました。私は、32年間の労働基準監督官人生の中でも、これだけ鮮やかな変革を行えた企業は知りません。 

ただ、他の企業が、労働時間短縮について、このヤマト運輸の真似をしようと思っても、なかなか難しいのが現実でしょう。

(続く)

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スミマセンが、次回(7月7日)のブログ更新は中止します。

仕事が詰まって、身動きができない状況です。

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長時間労働規制の問題点(26)

(山下公園の噴水、by T.M)

 

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今日はこれから大阪へ日帰り出張。そして、明日は青森へ日帰り出張。
安全週間中はともかく忙しいです。
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(前回のブログの続きです。)

ある会社が長時間労働を短縮しようとするなら、多分次の2つのどちらかの道筋を辿ることになると思います。 

第1 企業が経営の構造改革を成し遂げ、ドラスティックに労働時間を削減する。第2 企業が、労働時間の「ムダ」をひとつひとつ減らしていく。 

第1の道筋は理想ですが、達成できる企業はあまりありません。最近では、「ヤマト運輸」の事例がそれに該当すると思います。

ヤマト運輸の残業代不払事件についてですが、横浜北労働基準監督署(私もこの署の第1方面主任監督官をしていたことがあります)が、ヤマトの労働組合の申告を受け、是正勧告書を交付したことが発端でした。

最近、労働基準監督署がどこそこの企業に是正勧告書を交付したという記事が多いので誤解されている方がいらっしゃるようですが、私の調べた限りでは、このヤマトの事件について労働基準監督署が積極的に情報をマスコミに提供している事実はないようでした。

この事件の情報を積極的に流布させていたのは、当該労働組合とそれを支援する共産党の方がたでした(新聞「赤旗」にその記事が掲載されています)。 

その新聞記事では、ヤマト運輸でいかにサービス残業が苛酷に行われていたかが記載されていました。また、同社内で酷いパワハラ・イジメがあったことも報道されました。いずれにせよ、最終的にヤマトが何百億もの残業代を遡及是正したのですから、サービス残業の事実は間違いないものだと思います。 

「ヤマト運輸はブラック企業」そのような評判が立ち始めた頃、情報の出し手がいつの間にか変わってきました。ヤマト運輸自体が、「当社では如何に残業代が不払であったか」を積極的に発表するようになってきたのです。

(続く)

 

長時間労働規制の問題点(25)


(西丹沢の檜洞丸のヤマツツジ、by T.M)

(前回のブログの続きです。)

次のものが、私が考案したマネジメントシステムで、雑誌「労働安全衛生広報」に私が以前発表したものです。全文を引用します。

「労働時間短縮マネジメントシステム
(作:労働安全衛生コンサルタント 小原 立太)

1 目的
年間総労働時間を継続的に毎年5%削減する。
(ただし、この数値目標は、各企業ごとが自由に設定する。この数値目標は、いわゆる「PDCA」を明確にするものである)

2 要求事項
①コンプライアンス
残業代不払い、労使協定違反等を一切なくす
②健康確保
従業員の健康確保を第一とする
③労使合意
労働時間短縮には、労使の協力が不可欠である。

3 実施及び運用
(1) 企業のトップが、労働時間短縮の意義及び目的を宣言する。

(2) 当システムにおける、組織の役割及び責任を明確とする。

(3) 現状の労働時間の把握をする。
「労働時間隠しは、労働時間短縮の最大の障害」であることを全従業員に周知させ、「連絡」「待機」「準備」等の些少な労働時間まで把握することにより、各職場の問題点を明確とする。

(4) (1)において明確となった労働時間に影響を及ぼす側面において、労使協議会において対策を協議し、目的達成の手順を確立する。
また、数値目標は全従業員の延べ時間数に対するものであるが、各職場に「おいて、「最長労働時間の限度」を設定し、個人の労働時間の限度とする。

(5) 当システムを円滑に実施するための、社内規則の整備を行う。」

長時間労働規制の問題点(24)


(西丹沢の檜洞丸のシロヤシオ、by T.M)

前回の記事で、本日更新の記事には、私の考案した「労働時間短縮マネジメントシステム」について掲載すると予告しましたが、本日は以下のようなニュースがありましたので、そちらについて書きます。

「電通本社を略式起訴へ、幹部は不起訴…違法残業
6/23(金) 6:21配信 (読売新聞)
大手広告会社・電通(東京)による違法残業事件で、東京地検は、独自捜査で新たに東京本社の幹部数人の労働基準法違反を認定した上で、同法の両罰規定に基づき、法人としての同社を近く略式起訴することが関係者への取材でわかった。
地検が任意で事情聴取した山本敏博社長(59)が、法人としての責任を認めていることも判明した。東京労働局が書類送検した男性幹部1人を含む本社の幹部数人は不起訴(起訴猶予)となる見通し。
一方、4月に同容疑で書類送検された関西(大阪市)、中部(名古屋市)、京都(京都市)の3支社の事件について、大阪、名古屋、京都の3地検は東京地検に事件を移送せず、法人と3支社幹部をいずれも不起訴(起訴猶予)とするとみられる。政府の働き方改革の議論にも大きな影響を与えた電通事件の捜査は、本社の違反だけが処罰対象となり、終結する。」

この事件を担当された、検察庁の方々、そして労働局の皆さま、苦労が報われたと思います。敬意を表します。ご苦労様でした。

略式起訴したら、電通側は正式裁判を求めないと思いますから、「罰金30万円以下」が確定でしょう。これは、労働局・検察の勝利でしょう。

ただ、この新聞記事から気になることがあります。次のような箇所です。
「東京地検は、独自捜査で新たに東京本社の幹部数人の労働基準法違反を認定した上で、同法の両罰規定に基づき、法人としての同社を近く略式起訴する。
地検が任意で事情聴取した山本敏博社長(59)が、法人としての責任を認めていることも判明した。東京労働局が書類送検した男性幹部1人を含む本社の幹部数人は不起訴(起訴猶予)となる。」

つまり、労働局が送検した「犯罪事実」について、個人は不起訴としたということです。
そして、検察庁は独自捜査し、別の法違反も「犯罪事実」とし、個人の犯罪は不起訴とし、社長が認めているから両罰の規定により法人を処罰するということです。

労基法121条1項(両罰規定)は次のようなものです。
「この法律の違反行為をした者が、従業員である場合においては、事業者に対しても各本条の罰金刑を科する。」

通常は、個人の違反行為があって、法人の違反行為を起訴します。

しかし、法人のみ起訴ということもあります。それは検事が次のように考えた場合です。
「従業員の犯罪は、結局会社にやらされてのことじゃないか。本当に悪いのは、個人でなく法人だ。」

この考え方は監督官に近いものです。
私が送検した事案でも、従業員不起訴で、法人起訴ということが何回かありましたが、自分たちの仕事の意味が、検事に分かってもらえたようで、嬉しかった記憶があります。

何はともあれ、「何としても、この事件を起訴までもっていく」という、検察庁の気迫を感じた事件終結だと思います。