労働災害が起きました(9)

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(M氏寄贈、ヤマユリ)

海洋工事会社のA社の災害調査の報告書の作成が足踏みしている期間に、新監は所定の研修を受講し、どんどん仕事を覚え、そして、ますます増長し、生意気になっていった。

確かに、パソコンに詳しいことは頼もしい。私が作成したパワポの黒白資料を、GIFの入った鮮やかなプレゼン用に替えてくれる。エクセル、アクセスのマニアックな使い方も知っている。ただ、若い部下にそれを教わると、口では褒めちぎっても、パソコン苦手な私としては、内心は惨めになっていくのだ。

また回りのオジサン達もまた悪い。女性だからといって、新監(T監督官)を甘やかし、チヤホヤする。
ある日、こんなことがあった。
M安全専門官が私の所に来て、横浜港のガントリークレーンの検査に行くので、新監を研修として連れて行っていいかと尋ねた。
私はM安全専門官の顔をじっと見た。
実は、その時は私もまだガントリークレーンに登った経験がなく、M安全専門官には、1度検査の手伝いをさせてくれと何度も依頼していたのだ。

― こいつ、オレの頼みは忘れているくせに、新監はさっさと連れていくのかよ -

もちろん、新監の研修については断る理由は何もなく、M安全専門官の申し出はありがたいことなので、
「よろしくお願いします。」
と私は笑顔で頭を下げ、新監にはよく勉強するように命令したが、実は面白くはなかった。

(注) ガントリークレーンとは、港湾に設置されたコンテナの積込み用の大型クレーン。その形から、「鶴」に喩えられることが多い。その高さは40m程になり、検査はジブの付け根まで行くこととなるので、墜落防止措置は完璧にされているのだが、慣れている者でも高所のため足が震える。ただし、安全帯を使用し、風に吹かれてジブの先端から眺める港の姿はとても美しい。